AUNJ WORKSHOP
日本産 Cirrhilabrus 魚類の幼期
 

写真・説明:平田智法・加藤昌一・宮本育昌 編集:余吾 豊

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 この特集記事はAUNJの会員ページに掲載され、その後
IOP.DIVING NEWS に投稿していたものです。
しかし、誠に残念なことに当雑誌が掲載間際に廃刊となり、公開の
目処を失いました。
会員だけではなく、色々な方に見ていただき、意見を伺いたいと発表
の場を検討してきましたが、この場に出すのが適切だろうと言うこと
に4人の意見がまとまりました。順次、お知らせしていきます。
 お問い合わせやご意見は下記にお願いいたします。

    日本産イトヒキベラ属魚類
Cirrhilabrus Temminck and Schlegel, 1845 

クロヘリイトヒキベラ C. cyanopleura (Bleeker, 1851)
ヤリイトヒキベラ C. lanceolatus Randall and Masuda, 1991
ニシキイトヒキベラ C. exquisitus Smith, 1957
ツキノワイトヒキベラ C. lunatus Randall and Masuda, 1991
ベニヒレイトヒキベラ C. rubrimarginatus Randall, 1992
トモシビイトヒキベラ C. melanomarginatus Randall and Shen, 1978
ゴシキイトヒキベラ C. katherinae Randall, 1992
イトヒキベラ C. temminckii Bleeker, 1853
クレナイイトヒキベラ C. katoi Senou and Hirata, 2000
イトヒキベラ属の1種(通称ピンテール) Cirrhilabrus sp.*1

 現在、日本沿岸からは和名のついたもの9種が知られています。
また、沖縄から C. lubbocki Randall and Carpenter,1980 の採集記録があります。くわえてイトヒキベラ属の1種(通称ピンテール)
*1が図鑑や雑誌、インターネット上で紹介されており、水中で観察された方も多いと思います。

 ここでは C. lubbocki を除く10種について取り扱います。
いずれもこれまで紹介されていなかった小さいサイズの色彩から成長に伴う変化を水中写真と観察を中心に紹介していきます。しかし、いくつかの種は未だに情報が不十分です。また、種を問わず、より良いものにするためにも皆さんの情報やご意見をお待ちします。
 尚、全長は目視によるものはcmで、撮影倍率から計算されたものはmmで表記します。

*1:本種は「日本の海水魚 初版」(山と渓谷社)でヤリイトヒキベラとして載せられていました。成魚の尾鰭中央がヤリ状に伸びる点ではヤリイトヒキベラに似ています。日本のネット上では通称「ピンテール」、Kuiter の図鑑には「splendid fairy-wrasse」と載ってます。ここでは「ピンテール」を使っておきます。幼魚はツキノワと酷似すると思っています。


INDEX

C. cyanopleura クロヘリイトヒキベラ  C. lanceolatus ヤリイトヒキベラ 
C. exquisitus ニシキイトヒキベラ   C. lunatus ツキノワイトヒキベラ 
C. katoi クレナイイトヒキベラ  C. rubrimarginatus ベニヒレイトヒキベラ 
C. melanomarginatus トモシビイトヒキベラ  C. katherinae ゴシキイトヒキベラ
C. temminckii  イトヒキベラ  Cirrhilabrus sp. ピンテール 

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編集後記

 Cirrrhilabrus の仲間ほど、近年、次々と新種が発表されたベラ類は無いのではないかと思います。Kuiter (2002) を見ると、もう爆発中!という感じを受けます。しかし、艶やかなオス達の色彩変化に比べ、幼魚達は驚くほどよく似ています。1975年の「南日本の海水魚」では、わずかに2種、1984年の「日本産魚類大図鑑」でも2種、2002年の「日本産魚類検索」では、にわかに9種となっています。もっと増えていくでしょう。

 ある時、平田さんにテッポウエビ類と同居するハゼを特集しないかと声を掛けたら、「その前にイトヒキベラをやっつけたいんですけど」という返事が返ってきました。丁度、加藤さんや宮本さんも入会された頃でしたので、「それなら、やってみる?」と言う感じで、4人組ができました。それぞれに、お仕事があり、それぞれにスタンスがあり、時々、停滞はしましたが、どうにか、最後まで協力体制を崩さずにやり遂げることが出来ました。

 加藤さんは八丈、平田さんは四国、宮本さんは伊豆大島と、それぞれのメイン・フィールドが分散していることも幸運でした。
                               余吾 豊


2001年5月のI.O.P.News に、加藤さん、瀬能さんとクレナイイトヒキベラの生息状況を出した時点では、この魚の幼魚はまだ分からずにいました。その後、加藤さんと私がそれぞれ 「これがクレナイの幼魚だ」と思われるものを撮影し、同じく同誌で発表しようと考えました。しかし、ここは慎重に他のイトヒキベラ属の幼魚も調べること にしました。
ところがこれがなかなか大変な作業でした。生息水深が深い種が多い上に、サイズや生息環境、個体によっていろいろなバリエーションが出てきました。
「今年こそはまとめましょう」を2年ほど繰り返し、宮本さん、余吾さんも参加して、ようやく今年初めからAUNJ上で具体的に始まりました。これまで分かっていなかった小さなサイズやフェーズが判明してくるにつれ、私も加藤さんも大変なミスをしていることに気付きました。私はイトヒキベラの、加藤さんはニシキイトヒキベラの幼魚をクレナイの幼魚と思っていたのでした。思い込みというのは怖いもので、充分な画像がそろいながら、当初の意見をなかなか修正出来ませんでした。
ネット社会の恩恵も充分に享受して、ようやく予定していた10種をまとめることが出来ました。
しかし、まだまだ完成形とは思っていません。ひょっとするとどんでん返しがあるかもしれませし・・・。
                                平田智法

謝辞

水谷知世さん、南俊夫さん、矢野維幾さんには、貴重な写真を提供していただきました。また、神奈川県自然史博物館の瀬能 宏さん、高知大学の遠藤広光さん、黒潮生物研究所の岩瀬文人さんには重要なコメントを頂きました。ここに厚くお礼を申し上げます。

参考資料

魚類写真資料データベース

平田智法・加藤昌一・瀬能宏. 2001. 高知県大月町と八丈島におけるクレナイイトヒキベラの生息状況. I.O.P. Div. News, 12(5): 5-7.

Kuiter, R. H. 2002. Fairy & Rainbow Wrasse and Their Relatives - A
Comprehensive Guide to Selected Labroids, TMC Publishing, UK, 208pp.

益田 一・小林安雅,1994. 日本産魚類生態大図鑑. 東海大学出版会, 東京, 465pp.

中坊徹次, 2000. 日本産魚類検索−全種の同定−, 第2版. 東海大学出版会, 東京, lvi+1748pp.

岡村収・尼岡邦夫, 2001. 山渓カラー名鑑「日本の海水魚」, 第3版. 山と渓谷社, 東京, 784pp.

Randall, J.E. 1992. A review of the labrid fishes of the genus
Cirrhilabrus from Japan, Taiwan and the Mariana Islands, with descriptions of two new species. Micronesica, 25(1): 99-121.
(Cirrhilabrus katherinae, Cirrhilabrus rubrimarginatus)

Randall, J.E. and K. Carpenter 1980. Three new labrid fishes of the genus
Cirrhilabrus from the Philippines.. Rev. Fr. Aquariol., 7(1980):17-26.
(Cirrhilabrus lubbocki, Cirrhilabrus flavidorsalis, Cirrhilabrus rubripinnis)

Randall, J.E. and R. Lubbock. 1982. Three new labrid fishes of the genus
Cirrhilabrus from the Southwestern PacificPhilippines. Occ. Pap. B. P. Bishop Mus., 25(2):1-12.
(Cirrhilabrus laboutei, Cirrhilabrus lineatus, Cirrhilabrus roseafascia)

Randall, J.E. and H.Masuda, 1991. Two new labrid fishes of the genus
Cirrhilabrus from Japan. Rev. Fr. Aquariol., 18(2):53-60.
(Cirrhilabrus lunatus, Cirrhilabrus lanceolatus)

瀬能宏. 1992a. ヤリイトヒキベラ(新称) Cirrhilabrus lanceolatus. I.O.P. Div. News, 3(5): 1.

瀬能宏. 1992b. ツキノワイトヒキベラ(新称) Cirrhilabrus lunatus. I.O.P. Div. News, 3(6): 1.

瀬能 宏,1993.今月の魚.ベニヒレイトヒキベラ(新称).I. O. P. Div. News, 4(4), 1.

Senou, H. and T. Hirata. 2000. A new labrid fish, Cirrhilabrus katoi,
from southern Japan. Ichthyol. Res., 47(1): 89-93

瀬能 宏・加藤昌一,1995.八丈島で採集されたトモシビイトヒキベラ(新称)について.I. O. P. Div. News, 6(11), 2-4.

瀬能宏・坂本有正. 1994. 今月の魚 ゴシキイトヒキベラ(新称). I.O.P. Div. News, 5(3): 1

Springer, V.G. and J.E. Randall. 1974. Two new species of the genus
Cirrhilabrus from the Red Sea. Israel Jour. Zool., 23(1974): 45-54.
(Cirrhilabrus blatteus, Cirrhilabrus rubriventralis)

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