AUNJ WORKSHOP
日本産 Cirrhilabrus 魚類の幼期
 
写真・説明:加藤昌一・平田智法・宮本育昌(50音順) 編集:余吾 豊


ヤリイトヒキベラ 
Cirrhilabrus lanceolatus Randall and Masuda, 1991
 担当:宮本育昌


ヤリイトヒキベラ
Cirrhilabrus lanceolatus Randall and Masuda, 1991

本項は伊豆大島の観察記録をもとに記述する。
本種の分布域は伊豆半島から沖縄。
生息水深は40m以深で稀。
雄の尾鰭がヤリ状に伸長することから、1991年に瀬底島産の標本に基づいて標準和名ヤリイトヒキベラ、学名 C. lanceolatus が提唱された。

出現状況:伊豆大島では秋の浜において1から数個体がほぼ周年観察されている。
雄は水深40〜55mの岩礁域で稀に観察され、大型になるほど行動圏が広くなる傾向にあった。
雄の婚姻色は7月から観察され、11月にもっとも頻繁に観察された。
雌は雄と同じ岩礁域で観察され、直径10m程度の狭い範囲のみで観察された。
幼魚は水深40~45mの岩を中心とした根、またはその近傍の礫域において、直径数m以内のごく狭い範囲で観察された。
しばしばツキノワイトヒキベラ、クジャクベラ、アオスジオグロベラの幼魚と同じ場所で観察された。

水中での色彩:2.5cm TLまでの幼魚は全体的にえんじ色で、下顎から腹部にかけて白みがかる。
また、体側には白色縦帯があり、しばしば白色縦帯上に離散的に白い点が並ぶ。
成長するに従い、体色は薄く、眼下の白い部分が明瞭になる。
雄は背鰭、尾鰭の端部が青白く光っているように見え、婚姻色ではそれが強くなる。

水中写真での色彩:2.5cm TLまでの幼魚は一様に緋色で側線付近がやや緑がかる。
吻端は上唇のごく先端のみに白斑がある。
体側に3本、吻端から背鰭にかけて1〜3本の白色縦帯がある。
尾柄部には、ごく小さな白斑数個に囲まれた、小さな黒斑がある。
黒斑の内部には小斑は無い。
3.5cm TL以上の個体では下顎から腹部にかけて白く、下顎から眼下を通り胸鰭付け根にかけての緋色の「へ」の字型の帯が明瞭になる。
尾柄部の黒斑は色が薄くなるが、その周囲の微小白斑は残る。
各鰭は小さいうちはほぼ透明だが、5cm TL以上では赤みがかってる。
雌は一様に桜色で、白色縦帯は警戒時以外は目立たず、前述のへの字型の緋色の帯に加えて、眼から尾柄部まで背に沿って緋色の帯が入る。
雄は雌同様に眼下と背側に緋色の2縦帯がある。
体は桜色で側線付近がやや黄味がかる。
腹鰭は黄色く、根元のみが淡い黒となる。
臀鰭は腹側から、緋色、黄色、緋色、と染め分けられ、縁は青白い。
尾鰭は中央が薄黄色で上下端が青白い。
背鰭は一様に青白い。婚姻色では背中側の帯が緋色から白に変化し、かつ鰭の青白い部分がより強調される。
虹彩はほぼ一様に橙黄色で、4cm TL以上では緋色の輪が明確に入る。

類似した幼魚:3.5cm TLまでは縦帯・黒斑の位置や大きさがツキノワイトヒキベラ、ピンテールと酷似するが、胸鰭付近がこの2種では黄色なのに対し、ヤリイトヒキベラでは緋色であることで区別できる。
3.5mTL以上では、先の2種は直線的な縦帯のみであるのに対し、ヤリイトヒキベラは眼下に緋色のへの字状の縦帯があり、下顎が白いことで区別できる。

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