AUNJ WORKSHOP
日本産 Cirrhilabrus 魚類の幼期
 

写真・説明:加藤昌一・平田智法・宮本育昌(50音順) 編集:余吾 豊

 イトヒキベラ属の一種(通称ピンテール)
Cirrhilabrus sp. 
 担当:平田智法(四国西南部からの記録)


 
イトヒキベラ属の一種(通称ピンテール) 
Cirrhilabrus sp.

イトヒキベラ属の一種(通称ピンテール) Cirrhilabrus sp.

本種の分布域は伊豆半島以南、琉球列島まで。生息水深は20〜50mでやや稀。成魚幼魚共に色彩変異が大きい。
○四国西南部のデータ
出現状況:繁殖行動の観察例は少なく、明確な産卵期は不明であるが、7月には腹部の膨らんだ雌が、9月には雄の求愛行動が観察された。
幼魚は水深25mから45mのセンベイサンゴ属の群生地・礫域・ガレ場で観察された。2cm TLの個体は7月より、3cm TLぐらいの個体は周年観察された。
しばしばイトヒキベラ・ツキノワイトヒキベラ・クレナイイトヒキベラ・クジャクベラ・カミナリベラの幼魚と一緒に観察された。

水中での色彩:体色は暗赤色で、縦線や尾柄部の黒斑も識別できる。大きな個体ほど頭部が黄色に見える。しかしツキノワイトヒキベラ幼魚との識別は、水中では困難。

水中写真での色彩:尾柄部の黒斑は小さい個体ほどはっきりし、周辺が乱れた白色から青色で縁取られる。黒斑の数は1、もしくは接近した2黒斑。この黒斑は5cm TLぐらいまで残る個体がある。小型個体では黒斑中に青色小斑が1から3個ある。虹彩は小型個体では赤色であるが成長に伴い黄色になる。内側は黄色。
体側の縦線は小型個体では青色で3本、成長に伴い白色に変化し5〜6本まで増加するが、徐々に不明瞭になる。

類似した幼魚:本種はツキノワイトヒキベラと酷似しており、4cm TL 以下では尾鰭以外に差異が認められない。
本種の尾鰭は橙黄色で上下葉端に透明域を持つことで、ツキノワイトヒキベラと区別できる。
しかし尾鰭を広げた小型個体では、この特徴はほとんど現れない。(19mm TL 個体参照)
また、尾鰭の色が小型個体ほど薄くなるためこれらの特徴が不明瞭になる傾向がある。
加えて、閉じられた尾鰭中央部は軟条が重なりやすいためツキノワイトヒキベラ幼魚においても若干の着色が見られることがある。特に2cm TL以下の個体は複数の画像をもとに慎重に検討すべきである。

後記:左下の画像はRudie H. Kuiter の「Fairy & Rainbow Wrasse and Their Relatives -
A Comprehensive Guide to Selected Labroids」p.42 (A)でツキノワイトヒキベラ雄・婚姻色として掲載されたものです。
しかし本稿をまとめるに当たってよく見てみると、全体の体色はツキノワイトヒキベラなのですが、ピンテール雄の要素をほとんど持っています。そこで別カットを探し出して(右下画像)尾鰭を見ると、ちょうど両種の中間的な形をしていました。これらのことより両種の雑種ではないかと思っています。この個 体はイトヒキベラの雌に盛んに側面誇示をし、イトヒキの雄と追いつ追われつの闘争を繰り返していました。もし雑種だとすると、種認識も乱れるのかもしれません。


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