DINING LOG BOOK No.007 A,B

ログブックーアマモ場観察会 アラカルト

A 「動く砂」 石田根吉 07/13/04
          
「事務局より」を更新 07/18/04
B 「
アマモの表面」 道羅英夫 07/16/04 


動く砂                     石田 根吉

 6月10〜11日に亘って下田市須崎の日大臨海実験所で開かれたアマモ観察会は、多士済々の参加者の方々から色んなお話が伺えて本当に楽しいひとときでした。

 さて、海から上がってワイワイやっている時、

 「砂粒がチョコチョコ動いていた」

という事が話題になりました。何々? これは聞き逃せないぞ。呼ばれもしないのに手を上げて

 「ハイッ。僕、それを顕微鏡を使って調べた事があります。あれは、ヤドカリのチビなんですよ。僕は『動く砂』と呼んでいます。貝殻に砂粒をつけたヤドカリが歩いてる姿なんです」

と鼻高々の説明です。そこで、じゃあ、次のダイビングで採取してみようという事になりました。そうして砂地の水底から持って来た「動く砂」が下の写真です。




 ホラホラ、1〜2mm程度の貝殻から触角と、目・脚が出てるでしょ。こんなに小さなヤドカリが居るのも驚きですが、それに合う貝殻がちゃんとあるというのも可愛いですよね。ただ、ヤドカリならば貝殻に入っているだけでよいように思うのですが、必ずいつもこうして砂粒をくっつけています。環境にカモフラージュするための知恵なのでしょうか。

 ところが、ここで、

 「こいつら、ヤドカリなのにハサミがないんじゃない?」

との声が出ました。えっ? そんなの今まで注意して見て居ませんでした。貝に居るからヤドカリと信じ込んでいただけです。そこで、顕微鏡をもう一度覗きこんで見ると確かにハサミが見当たりません。


 そこで、幾つかの動く砂を改めて調べてみると、貝殻を持たずに砂粒だけに身を包んだ者も居るのに気付きました。そこで、この砂粒をピンセットの先で軽く叩いてみました。各粒は何らかの粘着物質でかなり強固にくっ付いているようでしたが、やがてハラリと剥がれ、中から件の生き物が飛び出して来ました。


 「あれっ?」

ヤドカリの仲間(異尾類)ならば貝殻に合わせて腹部が右側に曲がって巻いているはずなのですが、こいつはどちらかというと左に巻いています。
 「やっぱりヤドカリじゃないのかぁ・・」
と、高々だった鼻がポキリと折れてしまいました。
 「これは等脚類の仲間じゃないのかなぁ」
とは瓜生さんの推測。と、等脚類? またややこしい事になってきました。


 更に、この「ニセヤドカリモドキ」(?)は、一つの砂粒ブロックに2匹〜3匹が同居している例も幾つか見る事が出来ました。それぞれが違う方向に動こうとしたら身動き取れなくなるだろうに、何故こんな不自由な暮らしをしているんでしょう。

 「これらは性別が違うんじゃないのかな。1匹のメスの両側にオスがくっ付いて来たとか」

高校生の様に何でも性の話しに結びつけたがる余吾さんはそんな風に推理します。

 ま、分かったつもりだった事がまた分からなくなり困った事ですが、それがまた楽しいのでありました。みなさん、どうもありがとうございました。

事務局より
 池谷さんが撮影したビデオを夜のミーティングで鑑賞しました。室内は騒然!
撮影の時、松井さん、僕、渉が一緒に見ていました。僕の水中ノートには、「何か居るのは分かる」、「ヤドカリ?」と書いています。ノートを見せると、池谷さんは、ニッコリし、それから、首を傾げていました。小さなものが見えない僕は、それが精一杯でした。詳しい講師の方に、写真と標本を送ってみます。また、中村洋平さんも標本を持ち帰って居ますので、その内、正体がはっきりするでしょう。


07/18/04 どうやら正体が明らかになりかけてきました。

甲殻類、端脚目ヨコエビ亜目ドロクダムシ科の仲間でしょう。端脚目というのは、大ざっぱに言って、ヨコエビ類とワレカラ類を指します。第2触角が第1触角に比べて著しく肥大化するのがドロクダムシ科の特徴だそうです。保育社の「海岸動物図鑑」には、さきにBBSで挙げたスナクダヤドムシというのが出ていません。何故だろう?未だ、すっきりしませんが、少しずつ、謎解きを進めましょう。


ドロクダムシ Corophium crassicorne のメス
脚に分泌腺を持つ。腹肢の間の丸い部分(斜線部)は覆卵葉。
椎野季雄著「水産無脊椎動物学」(培風館)より転載。


ヨコエビ亜目の体の構造と名称
椎野季雄著「水産無脊椎動物学」(培風館)より転載。



スナクダヤドムシのことは、ちょっと置いておいて、「海岸動物図鑑」(保育社)平山 明さんの記述よりドロクダムシ科ってどんな仲間なのか?拾ってみますね。

ヨコエビ亜目の中で、ドロクダムシ科の特徴(標徴と言い、他と区別される特徴)は、
・第1〜第4底板節は連続して繋がらない。
・触角は通常の長さ
・第1咬脚は第2咬脚より小さい
・第2触角は第1触角に比べて著しく肥大する。

ドロクダムシ科 Corophidae

世界から9属が報告されている。日本には3属。底板節と腹部は退化・変形傾向。第2触角は著しく発達する。腹肢は太くて短い。第3尾肢は単肢か、または枝を欠く。「海岸動物図鑑」(保育社)にはCorophium ドロクダムシ属と、Bubocoraphium ハイハイドロクダムシ属が紹介されている。
・補注:ドロクダムシ属では第2触角に性的2型が見られるようですが、Bubocoraphium ハイハイドロクダムシではそのことが触れられていません。石田さんの写真を見ると、隣り合う個体の第2触角には差は見られないように思えます。


タイガードロクダムシ Corophium kitamorii (A〜E)。
瀬戸内海、九州西岸の泥、ないし、砂泥底にU字管を作って生息する。
アリアケドロクダムシ Corophium ackerusicum (F〜I)。
我が国沿岸に普通に見られ、基質を選ばず、管を基質上に構築する。
「海岸動物図鑑」(保育社)より。

ハイハイドロクダムシ Bubocorophium exolitum 。
九州西岸、
本属は小型の貝殻を含む砂質底に分布し、貝殻に小砂をつけて、
そのなかに入り、ヤドカリのような生活を送る。
「海岸動物図鑑」(保育社)より。


第1,第2胸脚は交尾や摂餌と深く関わり、咬脚と呼ばれる。第3〜第7胸脚は歩脚と呼ばれ、特に第5〜第7胸脚は長く、丈夫で、体の保持や移動を担う。第1〜第3腹肢は水流を起こす役割を担う。第4〜第6腹肢は尾肢と呼ばれ、3対。

また、一般にヨコエビ類の特性と端脚目の雌雄差についても簡単に

・ヨコエビ亜目の基本的な形態は、頭部1節(癒合した第1胸節を含む)、胸部7節(第2〜第8胸節)、及び腹部6節から構成される。第1〜第3腹節は側面の延長した側板を備え、第4〜第6腹節は尾部を形成する。そして、第6腹節後端には単一または双葉の尾節(尾節板)を備える。
 体は一般に側偏しているが、匍匐生活や砂泥中に潜入して生活するグループでは背腹扁平に、管や巣の構造物を作るグループでは、円筒状になる傾向がある。遊泳力に富むグループでは、胸部に比べ腹部の発達が目立つ。
 
・端脚目の性別は、オスが第7胸節腹面に1対のペニスを備える点で判別できるが、小さくて見落としやすい。
これ以外に、オスでは第2触角が著しく太いか長く、第2咬脚が著しく肥大化、もしくは変形しており、また、それが種の特徴をよく示す。一方、メスでは、胸脚に覆卵葉を備える。


「アマモの表面」 道羅英夫

プランクトンネットで採集したものを持ち帰ってじっくり観察しようとしたのですが、
あの暑さでやられてしまって全滅でした。
しょうがないので、あの場で撮影した画像を送ります。

まず、アマモの葉の切れ端があったので、高倍率で観察してみました。


細胞が見えますが、気孔のような構造は見られませんね。
また、葉の表面にはたくさんのケイ藻が付着していました。タツナミガイがアマモを舐めるようにして何かを食べているシーンがありましたが、このケイ藻を食べていたのでしょうか?

次に小さなクラゲです。


傘の径は測ってないですが、5mmくらいの非常に小さなクラゲでした。
あまりに小さいのでクラゲの幼体かなぁ?なんて話をしてましたが、正体はわかりませんでした。
そんなとき、「BE-PAL」の8月号に「カギノテクラゲ」というのが掲載されていて、「おっ、似てる!!」と思ってネットで検索してみると、「コモチカギノテクラゲ Solionema suvaense」というのが引っ掛かってきました。例えばミズクラゲなどは固着したポリプが横に分裂し、平べったい幼生がはがれ落ちてエフィラ幼生となり、これが成長して成体になります。コモチカギノテクラゲは「子持ち」という名前の通り、成体が単為生殖により体内で4匹の幼体を発生させることによって増殖するそうです。
改めて画像を見てみると、確かに赤い矢印で示した幼体が確認できました。

事務局より
アマモ場もスケールを変えてみると、色んな世界があるものですね。今西錦司大先生が生物社会は大縮尺的にも、小縮尺的にも認識可能だと仰っていますが、僕らも、色んな視点だけでなく、様々な縮尺でものを見ることが大事かなと思います。個人の体の中も一つの社会ですし、イラクで起こっていることも地球社会の出来事ですよね。

難しい話はこれまでで、アマモの破片が沢山、落ちていましたね。あれは一体、どうして生じたのでしょうか?

タツナミガイ、指で押すと紫色の分泌物を出す個体も居ましたが、殆ど出さずに、薄い水色の液体(精子?)を少量だけ出す個体も居ました。初めは、皆が面白がって押していき、品切れになったのかななんて考えたりもしました。