AUNJ WORKSHOP−6
「ハナミズの正体」
 09/16/04 開始 09/22 一部訂正
 AUNJが発足してから、何度かこの話題が出ました。「春濁り」と言ったり、「鼻水」だったり、「よだれ」であったり・・・。ずっと、分からないままです。


「若狭の鼻水」山本正之さんより

2004/5/26、若狭湾の「鼻水」は添付の写真のようなものでした。
地元の調査関係者はサルパの1種といっていたのですが、
さてさて、いったいなんでしょう?



若狭湾 5/26/04


これに道羅さんが応えて
田ノ浦湾にも「鼻水」はいっぱいでした。


田浦湾 5/22/04


アマモが生い茂っている辺りに「鼻水」が多いような気もするのですが、単に背景が
アマモだと「鼻水」が見えやすくて、砂地だと見えづらいだけかもしれません。
「鼻水」は水面付近に層になって漂っていて、少し潜るとあまり見られなくなりまし
た。なぜでしょうね?比重が小さいのであれば水面に浮きそうな気がします。植物プ
ランクトンが含まれているとすると、光合成のために水面付近に集まるということで
説明できるかもしれません。
いずれにしても顕微鏡で観察してみたいですね。

さらに、石田さんより
以前撮影した「よだれ」の顕微鏡写真をお送りします。



 富戸ヨコバマ 05/03/04

 2002/05/03 富戸ヨコバマの水深5m付近(水温18℃)で採取したものです。当日のログブックには「よだれ多し」と書いてありますが、透視度:17mとあるのでこの季節にしては
大層抜けていた海であったようです。

なお、写真中の1mmのスケールは凡その目安です。念の為。何処を見ても、このようなグニャッとしたものばかりです。僕には「まだ生きている物」には見えませんでした。何らかの分泌物という風に思えました。

昨夜、新井さんから電話を頂き、「鼻水」についてお話ししました。これほど関心をお持ちだとは意外でした(^ ^ )。メールも頂いていますので以下に紹介します。

 余吾 豊様

 春のハナミズ様物質について何か知らないかという問い合わせがあったときに、返事を書こうと思いつつ、いつの間にか秋になってしまいました。

 個人的に15年くらい前から興味を持って、各地で写真撮影だけは継続して、 証拠集めを行っています。ハナミズ様物質は、巨視的有機浮遊物(ヌタともいう)の形成初期段階のものと考えています。

 呉の産総研に、巨視的有機浮遊物をやっていた人がいて、情報交換もしています。そのほか水産試験場の潜水する人たちからも情報を集め、 磯焼けの研究が一段落したら、本格的に研究しようと思っています。現在は仮説の構築中で、陸域から海までの調査が必要になるため、研究の理解者を増やしつつあります。

 春のハナミズ様物質は、春の水田に水を張った後の最初の大雨後に発生すると考えています。下の石川県の写真がこの時期に当たります。


ハナミズ様物質
石川県福浦 2004.5.24 写真番号0095

海底の礫地に堆積した有機浮遊物
石川県福浦 2004.5.24 写真番号0075

ヤナギモク群落でのハナミズ様物質 
石川県福浦 2004.5.24 写真番号040524

 稲の刈り取り後に、水田と畦などに集積した有機物と側溝に堆積していた有機物が、一気に海に流入し、この時期の雨の後は時化ることが少なく、有機物を含む淡水が海面に沿って広く拡散し、外海で海水と混合するときに、緩いコロイド状のハナミズ様物質が形成されると推測しています。

 通常は川口域で混合して、コロイド状の巨視的浮遊物が形成されるようです。外海に移動してくる頃には、バクテリアや微生物などが生育し茶色くなるのではないかと思っています。

 巨視的有機浮遊物は、本来干潟に集積し、食物連鎖を通じて分解、吸収されていたが、干潟が減少するにつれ、行き場を失い、静穏時には岩礁や砂地にも堆積しています。そこでは、おそらく堆積した有機物を利用する生物が干潟に比べてほとんど存在していません。そのため、荒天時には再び波で巻き上げられ、巨視的有機浮遊物に成長します。

 巨視的有機浮遊物のアマモ葉上への堆積によって、アマモの分布が制限されていることを私も参加した調査(玉置ら1999)で明らかにしています。平戸海峡や瀬戸内海の海峡状の場所において、流れの速いところにアマモは分布し、いかにもアマモが生育していそうな水のきれいな入江にアマモが生育していない場合、有機浮遊物の葉上への堆積がアマモの分布を制限している可能性があります。


アマモへの附着
広島県安浦町(三津口湾)2003.11.5 写真番号031105

アマモへの附着
広島県安浦町(三津口湾)2003.11.5 写真番号0483

 また、瀬戸内海や大阪湾のような内湾では写真にあるように、基質上に有機浮遊物が堆積し、海藻の遊走子や胞子の着生を阻害することで藻場が衰退している状況も観察されます。


 礫に堆積した巨視的有機浮遊物(有機堆積物)
 広島県柱島 2003.12.10 写真番号0137


アカモクに付着した巨視的有機浮遊物 
広島県柱島 2003.12.10 写真番号0157

 巨視的有機浮遊物+カジメの粘液
大阪府岬町 2003.8.26 写真番号03826a

 サンゴについても、着底時に同じ現象があると思っています。また、高水温で白化したサンゴは、冬の低水温期に元に戻る場合が多いです。しかし、白化したサンゴに糸状海藻が入植し巨視的有機浮遊物や赤土の流入が多い場所では。海藻の間にそれらがトラップされた場合、サンゴは死んでしまう場合が多いようです。


 サンゴの粘液(体内の組織)と巨視的有機浮遊物の混じった物質
 愛媛県内海 2004.6.1 写真番号0344

 サンゴの体内組織の放出?(巨視的有機浮遊物を動物の粘液と考えている人もいるので、
そのような例も観察しています。しかし、量的には少ないと思います。) 
愛媛県内海 2004.6.1 写真番号0351

ガンガゼのトゲにトラップされた巨視的有機浮遊物 
愛媛県内海 2004.6.1 写真番号0335

 また、沖縄のサンゴ礁域でも巨視的有機浮遊物が見られます。


テングサモドキと岩上に堆積した巨視的有機浮遊物
沖縄県沖縄市泡瀬 2003.9.26 写真番号030926

 アワビ、特にマダカアワビについては、大礫を有機浮遊物が覆ってしまうと着底の場がなく、加入を阻害する要因になっていると推測されます。三浦半島の水深15mにおいて、岩の間の窪地状の砂地の礫の表面で、マダカアワビの稚貝を見つけました。砂の上に堆積した有機物が黒く硫化していたため、本来礫の底面から側面にいる稚貝が、表面に避難していました。

 魚類の稚魚の生き残りにも何らかの影響を及ぼしている可能性はないでしょうか。

 玉置仁・西嶋渉・新井章吾・寺脇利信・岡田光正 (1999): アマモの生育に及ぼす葉上堆積浮泥の影響. 水環境学会誌, 22, 663-667.

 PS.
 余吾さんに質問があります。最近各地に潜水していて、チャガラとキヌバリの大きな群れを見ることができなくなりました。15〜20年前まで、特に日本海でよく見ました。彼らが減った原因などは、魚類の研究者間で議論されているのでしょうか。

 チャガラの群れは目にしますが、減ったかと言われるとお答えできません。アマモやホンダワラとは関係が深い種ですから、海草や藻の衰退があるところでは減るでしょうね。キヌバリは余り群れない種だと思いますが、着底間もない若魚でしたら、群れている場合があるかも?日本海側で潜ることが少ないのです。お答えにならなくて申し訳ないです。別の方にも聞いてみます。会員の皆さんは如何ですか?


 さらに補足のお便りです。

 余吾さんの雪解け水は?、という質問で、雪解け水によっても、かなり沖合までハナミズ様物質が形成される例を思い出しました。以下の情報を加えてください。また、巨視的有機浮遊物が増加したと思っている時期について、書いておきます。

 春に水田に水を張った後の大雨によって、広域にハナミズ様物質が形成されますが、雪解け水によってはさらに広域に、ハナミズ様物質が形成される場合があります。日本海においては、春の融雪による増水時に茶色く濁った有機物を含んだ淡水が、海が鏡のように静穏なとき、粟島付近まで到達することがあります。そのようなときには、粟島においてハナミズ様物質が多量に観察されます。
 (1980年代に撮影した粟島北部における写真があります。)

 巨視的有機浮遊物の増加した時期
 
 三浦半島において、1976年から1998年までは潜水部の訓練、神奈川水試のアルバイト、様々な調査機関の業務で毎年複数回、多い年で100日くらい/年潜水していました。1985〜1990年に三浦半島沿岸において急激に巨視的有機浮遊物が増加したと記憶しています。それまでは、それまでは秋に巨視的有機浮遊物がなくて、透視度が非常に高い日が結構多かったのですが、それ以降あまりなくなりました。
 能登半島の外浦においては、1986年以降毎年春夏秋冬に潜水していますが、1993年ころ以降に巨視的有機浮遊物が急に増加しています。

 あくまでも想像の域を出ませんが、高度成長期に向かっての日本各地における側溝、畦や小川の急激な三面張り化によって、本来陸域で食物連鎖によって生物に分解、吸収されていた有機物がほとんど分解されないまま堆積する割合が増加し、増水時に一気に、海に流れ込むようになり、巨視的有機浮遊物の増加を招いたのではないかと考えています。

 業務の合間に個人的な写真も撮影していますが、巨視的有機浮遊物が多いときれいな写真が撮れないため水中カメラを海に持って入りません。そのころから、カメラを海に持って入らない割合が増加しました。

 継続して同じ海域で写真を撮っている方がいれば、巨視的有機浮遊物のために、没にしたり、撮り直した写真が多いのではないかと思います。この写真の没率や、写っている巨視的有機物のアバウトな定量化によって、比較できないものかと思っています。



事務局より:
 この浮遊物については、今後、成因と生物への影響を調べなくてはならないですね。

僕は、なんらかのコア(芯)となる物質が浮遊しており、それをクラゲなどの生物が体内に取り込んで吐き出したときに粘液が絡まったものだと、なんとなく考えていました。単なる想像でしかありません。

下流、河口域、沿岸域、沖合域、それから堆積したもの、附着したものなどの成分分析が必要になるのかも知れません。