7-5:ハレムのようだが、そうでない社会 門田 立・余吾 豊
12/09/06 開始 一部の図は未だ間に合いません。しばらくお待ち下さい。
はじめに
繁殖の際に、オスとメスは夫々の繁殖成功を最大にするために様々な駆け引きをする
→ その結果、婚姻システムの色々な面で異なる形態が生じている。
1.魚類の婚姻システム(桑村、1997)
・ 一夫一妻
・ハレム型一夫一妻
・ 縄張り訪問型複婚
・ 非縄張り訪問型複婚(乱婚)
アミメハギは、雌の雄選択があるものの、乱婚と言えるのではないか
(赤川、1997)
オスからすると、受精させる卵数を最大に、あるいは孵化する仔魚数を最大にするためにメスの数を増やす。節約しているとはいえ、精子の生産コストは卵に比べると破格に安い(吉川、2001)
→ ハレム型の一夫多妻か、縄張り訪問型の一夫多妻
あるいは、自分と同じくらいの大きさのメスと安定したペアを作る
→ 一夫一妻
メスからすると、自分で作る創り出せる卵数や周期は自分の栄養状態に左右されるため、コストの高い卵を受精させてくれる良いオスを選ぶ。メス同士がオスを奪い合う競争はコストが掛かるため避けたいだろう。メスは良いオスを独占するのは難しいが、オスを選ぶことは出来る。
→ 縄張り訪問型の一夫多妻か、ハレム型の一夫多妻
2.ハレムを作るのはどんな場合か?
ハレムとはメスの集合を指す。
メスが分散せずに集合するのは、餌や産卵場所、シェルター等の資源の分布が効いている。資源がメスの分布を決め、そのメスの分布がオスの分布を決めているというのが多い(Emlen
& Oring,1977)。
しかしながら、この関係は一方的なものではない。オスがメスと共に子育てをしたり、縄張りを共同して守る場合は、オスそのものがメスにとっての資源となり、オスの分布がメスの分布を決める要因ともなりうる(藪田、1997)。
3。ハレムを作る魚
オスの縄張り内に複数のメスが住み、サイズの近いメス同士は縄張り関係にある。
→ 体長差の法則
・ホンソメワケベラ (Figure 1、桑村、1987)
・ムラサメモンガラ (Figure 2、桑村、1999, 2002)、
ツマジロモンガラ(Ishihara & Kuwamura, 1999)
・サラサゴンベ(Figure 3, 門田ほか、2006)
・キンギョハナダイの単雄群(Figure 4、余吾、1985, 1987b)
但し、メス間の縄張り関係はない。
Fig. 1 ホンソメワケベラの縄張りと行動圏
Fig.2 ムラサメモンガラの縄張りと行動圏
Fig.4 キンギョハナダイの単雄群
Fig. 3はお待ち下さい
4。ハレムのようだが、そうではない魚
1A. オスの縄張り内に小型オスが住む
→ オスは何故小型雄の同居を容認しているのか?
2A. メスはオスの縄張り内に住む
・アラメガレイ(Figure 5, Manabe et al., 1998)
・キンギョハナダイの複雄群(Figure 6、余吾、1985,1987b)
*オスは縄張り関係にあるが、縄張りの空間配置は流動的
2B. 日中、メスはオスの縄張りとは大きく異なる行動圏を持つ
→ 採餌には広い空間が必要
・ホシゴンベ(Figure 7、門田、2004)
1B. オスの縄張りには小型オスは居ない。複数のメスが住むことがあるが、産卵するのは
最大のメスとだけ? → 本当に一夫一妻なのか?
・オキゴンベ(Figure 8、余吾、1987a、1988)
Fig.5と Fig.7はお待ち下さい
Fig. 6 キンギョハナダイの複雄群
Fig.8 オキゴンベの縄張りと行動圏
まとめ
5、ハレムが成り立つ条件
・狭い範囲でも採餌が可能
・好適な産卵場所(子育ての場所も)がオスの縄張り内にある
・オスがハレムの全メスを産卵させる能力と産卵環境が整っている
・メスがオスと出会って直ぐに産卵する
これらの条件を満たさないに場合にはハレムとはならない
話題
6. ハレムにならない魚達
・生息密度が高く、雌雄異体であるために小型雄が多数出現し、大型オスは全てのメスをコントロールできない状況になる。サイズに見合った(size-assortative)オス、メスの関係となる。つまり、大きなオスは大きなメスと、小さなオスは小さなメスと産卵する。
→ アラメガレイ
・採餌のため広い行動圏が必要となり、オスはメスを囲い込むことが出来ない。シェルターをの近くで産卵するが、その前にオス、メスが出会うランデブーサイトが必要となる。メスは産卵時刻を制限する(あるいは雄をじらす)傾向が強く、オスはその為に一日に複数のメスを産卵させることが出来ない。
→ ホシゴンベ、オキゴンベ
7.トピック:ワヌケトラギスの例
「口之永良部島におけるワヌケトラギスの一夫一妻と性転換」(筒井ほか、2006)
Fig.9. ワヌケトラギスの行動圏(図はお待ち下さい)
ワヌケで今言えること
複数のメスの独占により、オスの繁殖成功は上昇するが、メスは産卵できない日が生じている(この理由は今ひとつはっきりしていない)。その為に一部のメスがグループを離れることがあるようだ。
オスがグループ内のメスをコントロールできない。
→ ハレム型の一夫多妻から一夫一妻になる
オスの死亡率が高く、雌性先熟であるにもかかわらず、雌の個体数が少ないのは、雌同士が摂餌のために互いに排他的であり、小型個体の加入が難しい為と考えられる(雌性先熟であれば、オスの方が高齢なのでメスが多くなるのが普通である)。
最後に
ホシゴンベ、オキゴンベ ある状況下での一夫一妻(facultative monogamy)と言われがちだが、そうではないと思う。もっと主体的な原因があるように思われる。
産卵時刻はそれほどきつい制限要因であるのか?門田君はその点を重視しているが、余吾は産卵時刻が制限的であることは認めているが、産卵まで長く時間を掛けるのは雌の「焦らし」ではないかと考えている。何故、焦らすのか?それが今も分からない。今後の進展を待って欲しい。
引用文献
赤川 泉。1997. アミメハギの雌はどのようにして雄を選ぶのか。桑村・中嶋編著「魚類の
繁殖戦略ー2」 海游舎
Emlen & Oring,1977. Ecology, sexual selection, and the evolution
of mating system.
Science,197(4300):215-223.
Ishihara, M. & T. Kuwamura. 1996. Bigamy or monogamy with
maternal egg care in the
triggerfish, Sufflamen chrysopterus. Ichthyological Research,
43(3):307-313.
門田 立、2004. ホシゴンベの繁殖システムに関する研究。広島大学生物生産学部修士論文
門田 立、2006. 口之永良部島におけるホシゴンベの繁殖のタイミング。(日本魚類学会の
ポスター発表原稿を著者の許諾を受けて引用)
門田 立、2006. 口之永良部島におけるサラサゴンベの一夫一妻と性転換。(日本動物行動
学会のポスター発表原稿を著者の許諾を受けて引用)
Kuwamura, T. 1984. Social structure of the protogynous fish Labroides
dimidiatus.
Pub. Seto Mar. Biol. Sta., 29(1/3):117-177.
桑村哲生、1987. ハレムにおける性転換の社会的調節 桑村・中嶋編著「魚類の社会行動氈v
海游舎
桑村哲生、1996 魚類の繁殖戦略入門。桑村・中嶋編著「魚類の繁殖戦略ー1」海游舎
桑村哲生、1996 魚類の繁殖戦略入門。桑村・中嶋編著「魚類の繁殖戦略ー1」海游舎
桑村哲生、1999 ムラサメモンガラのオスはなぜ卵保護をしないのか? 遺伝 53(3):61-63
桑村哲生、2002 ムラサメモンガラのメスのなわばりと卵保護.上田恵介・佐倉統監修「動物
たちの気になる行動 (2)」裳華房.
Manabe, H., M. Ide and A. Shinomiya. 2000. Mating system of the
lefteye flounder,
Engyprosopon randisquama. Ichthyological Research, 47(1):
69-74
筒井勝也・小林研吾・坂井陽一・橋本博明・具島健二。2006.口之永良部島におけるワヌケ
トラギスの一夫一妻と性転換。(日本動物行動学会のポスター原稿より、著者の許諾を受けて
引用)。
藪田慎司 、1996. チョウ チョウウオ類の多くは何故一夫一妻なのか。桑村・中嶋編著「魚類の
繁殖戦略ー2」海游舎
余吾 豊、 1985. 雌性先熟魚類3種の性成熟と産卵生態に関する研究。九州大学農学部付属
水産実験所報告、7:37-83
余吾 豊、 1987a. 魚類の雌雄同体性とその進化。中園・桑村編著「魚類の性転換」東海大学
出版会
余吾 豊、 1987b. 群れの構造と性転換の起こり方。中園・桑村編著「魚類の性転換」東海大
学出版会
余吾 豊、 1988. 鹿児島県坊津町におけるオキゴンベの産卵生態。魚類学会講演要旨。
吉川朋子、 2001. サンゴ礁魚類における精子の節約。桑村・中嶋編著「魚類の社会行動
ー1」海游舎
事務局より:日頃からぼんやり考えていたことをまとめてみました。皆さんのご意見、
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