LET'S STUDYING - 2

 このセミナーは、BBSで話題になっている生物
について情報を提供し、問題を出します。また、会
員の方からの質問を引き出し、さらにそれに答えて
いくものです。

2.ハリセンボンの大量出現

 引き金になったBBS
 :57,76,122,134,135,139,251,253,258,
  259,260,275,295等  

1) ハリセンボン Diodon holacanthus とはどんな魚か?

 フグ目ハリセンボン科(Diodontidae)の魚で、インドー
太平洋に広く分布します。
 フグ目には、10科が含まれますが、なじみの深いのは、
モンガラカワハギ科、カワハギ科、ハコフグ科、フグ科、
ハリセンボン科、マンボウ科などでしょう。ハリセンボン
科の特徴は、歯(正確には歯板という)が上顎と下顎に1
枚ずつ、体に鋭い棘を持つ点です(Diodon という属名は、
2枚の歯、種小名の holacanthus 体中に棘があると言
う意味。ちなみにフグ科は上顎と下顎に2枚ずつの計4枚
なので Tetraodontidae ウチワフグ科は上顎に2枚、下顎に
1枚の3枚なので Triodonntidae といいます。このように
覚えると割と覚え易いでしょう)。
 棘の数は、千本もなく、375本くらいです。この棘が
身を守るのにどれほど役に立っているのか?ウミガメやサ
メが食べきれなかったという観察談もあれば、キハダマグ
ロやシイラの胃の中から数十匹も出てくることもあるそう
です。
 沖縄の市場では、皮をむかれ、内臓が取り除かれたハリ
センボンが並べられ、一目見た感じは、犬のチンのようで、
初めて見た人はびっくりするでしょう。アバサーと呼ばれ、
イシガキフグ(トーアバター)と共に賞味されています。

 日本には、この他にヒトヅラハリセンボン、ネズミフグ
等のハリセンボン科魚類も分布しています。

2) ハリセンボンの大量出現についての過去の情報

 この魚は、まん丸に膨らむことから、食用としてよりも、
ダイバーの間ではペットのような感じで親しまれています。
水中では海水を飲み込んで脹らみますが、空気中で脹らま
させても、海に戻すと上を向いて上手に空気を吐き出しま
す。また、九州北岸から、山陰地方、越前地方などでは、
冬から春に沿岸に多量が漂着することでも良く知られてい
ます。
 昨年から、沖縄や奄美、屋久島などで大量に出現し、
BBSを賑わせるニュースになっています。

 果たして何がこういう現象を引き起こしているのか?
不思議ですが、先ずは従来から知られている日本海沿岸で
の打ち上げ現象について整理してみましょう。

 故西村三郎氏の研究成果から紹介します。
文献はセミナーの最後に紹介します。

 西村さんがハリセンボン研究をされたのは1950年代の
後半で、彼は冬から春に沿岸に大量に出現し、浜に打ち
上がったり、定置網等に入るのを「寄り」と表現していま
す.e-mail等ありませんから、対馬暖流域の漁業協同組合
に往復葉書でアンケートを出して、ハリセンボンの寄り現
象を回答して貰う方法を用いて寄り現象の実態を調べたの
です。根気のいる作業ですし、回答の仕方がまちまちで歯
がゆい思いもされたのだろうと思います。

 その結果は以下のように整理されました。

1.寄りが起こるのは、対馬暖流域、即ち日本海に面した
 本州と九州北部である。
2.北海道、九州南部(種子・屋久を含む)、黒潮の流れ
 る太平洋岸では寄りが起こらない。
3.寄りは夏から翌年の春にかけて起こり、特に秋から翌
 年初春に多い。
4.秋から翌年の初春にかけて起こる寄りは北から始まり、
 次第に南下する。
5.津軽海峡付近と九州の対馬水道近海では夏にも寄りが
 起こる。しかし、その規模は冬から春に比べると小さい。
6.対馬暖流域における寄りには、日本海沿岸で秋から翌
 年春にかけて津軽海峡から九州北岸に向けて次第に南下
 して起こるものと、津軽海峡付近と対馬水道近海で夏に
起こる2つのラインがあるようだ。規模は前者が大きい。


図1 日本近海に来遊するハリセンボンの産卵場
(1)と推定漂流経路(2)。西村(1981)より
一部改変して示す。

 西村さんは、寄せの記録と海流や季節風の情報などから
漂流経路を推定しました。論文には細かい推定経路図も出
ていますが、ここでは一番シンプルなものを紹介し、図1
に示します。

 図のように、フィリピンのルソン島から台湾、八重山に
かけて産卵場を想定し(産卵期は3〜7月位)、黒潮に
乗って北上、そして、薩南海域で分岐した対馬暖流に乗り、
対馬西水道を通って日本海に入り、さらに北上、そして冬
から春にかけての北西季節風によって日本海沿岸に運ばれ
て、段々に南に下がりながら「寄せ」となる経路を推定し
ています。

 津軽海峡付近に夏に現れるのは、日本海を最初に北上し、
津軽海峡を抜け出た早期群、いわゆる「ハシリ」ともみら
れていましたが、冬に日本海の深場で越冬し、翌年に更に
北上したものと考えられました。また、対馬・五島などに
夏に現れるのは対馬海峡を抜ける際に、南下する反流に
よって引き戻された群れではないかと考えたのです。一方、
トカラ海峡や大隅海峡を抜け、太平洋に運ばれたハリセン
ボンは大多数が沿岸から離れた沖合を移動し、一部だけが
太平洋岸に現れているとみなされました。

 もし、産卵後に黒潮で北方に運ばれるものが途中で接岸
し、沖縄本島周辺や、奄美、屋久島などに現れたとします。
産卵場が西村さんの推定通りだとすると、その集団は、
ふ化してから1ヶ月も経過していない小さな個体ではない
でしょうか?サイズはどうか?、大量に出現し始めたのは
何月からか?としつこく聞くのもそこに興味があるからで
す。

 実は、この時代にはハリセンボンが、どんなに産卵する
のか殆ど分かっていませんでした。産卵行動は直接、観察
しないことには分かりませんが、産卵期、産卵場等が分か
らなければ、水槽で年中見張っていない限り、観察のしよ
うもないですね。飼育していたからと言って必ず産卵する
というものでもないし。水槽内で産卵が明らかにされたの
は、1978年のことです。この結果は、次に紹介します。

 
では、産卵期、産卵場などはどうやって推定したので
しょう?
これが、このセミナーの第一問です。ここでは、
ハリセンボンの産卵期と産卵場を推定するには、何を手
掛かりにして、どう推理するか?自由に想像を拡げて考
えてみて下さい。皆さんの反応を楽しみに、そして期待
しています。

 では、本セミナーの第一回目の区切りとします。第一
問への回答、及びここまでに対する質問、意見など事務
局へお寄せ下さい。
 回答などのメールは、suikosha@mx2.tiki.ne.jp へ
BBSはだめです。

 なお、今回のハリセンボンについては、評議員の鈴木克
美氏より様々な資料やアドバイスの提供を受けています。
この場を借りて、厚く感謝の意を表します。

  

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