LET'S STUDYING-4.セダカを考える−2

セダカスズメダイが僕たちの頭を楽しく悩ますこと

前回は、次の卵は産卵床の中にある一番新しいクラッチ
の隣りに産み付けられていく。これは、ある特定のメス
だけに見られる性質ではなく、何尾ものメスで共通する
ことらしい。
 というところまで、こぎ着けました。

2.産卵床の空き地
 「産む場所を決めているのはオスかメスか?」
 「では、何故その場所を選ぶのか?」
 この問いは深い関係を持っています。
 
 石田さんの記録した8/15〜8/20までのクラッチの変
化を下に示しました。黄色が観察日の朝に産み付けられ
たクラッチで、産卵より2日目を黄緑、次いで古いもの
へ暗緑、灰、銀(うすい灰色)の順に示しています。銀
はその日の夕刻にふ化します。ふ化した翌朝の空き地は
ピンクにしてあります。         
           
   08/15     08/16      08/17

      08/20     08/19      08/18


 これより、クラッチの変化をみると、オスの産卵床に
は5クラッチが産み付けられた場所があります。過去の
観察からもある日には最大5クラッチの卵塊が並んでお
り、その中で一番新しいのは観察当日の早朝に産み付け
られたもので、一番古いのはその日の夕方にふ化するも
のだったそうです。8/15、17、19 の黄色を見ると右
回りと言うことが分かります。
 また、産卵のない日もあり(8/16、18、20)、日
によって1〜3クラッチ分の空き地がありますね。また、
日によって1〜3クラッチ分の空き地があります。

 1クラッチ分の空き地しかない場合、産み付ける場所
は自ずから決まりますが、2クラッチ分以上のスペース
があるときにも一番新しいクラッチの隣りに産むと言う
のは、明らかに選択があると考えられます。

 新しいクラッチの隣りというのは、どんな場所なので
しょうか?

 夜間、オスは寝ていると思われますから、翌朝の産卵
時間帯が過ぎた後から、摂餌、卵保護、なわばり防衛な
どと平行してふ化した跡の基質を掃除し始めるのでしょ
う。忙しいことですね。

 さて、2クラッチ以上のスペースがあった場合、片方
は未だ前のクラッチの残さが残っており、片方は掃除が
済んでいるとします。他のクラッチを無視して考えると、
どちらに産むかは明らかです。綺麗な方です。でないと、
オスが掃除する意味がありません。
 しかし、最大5クラッチがあったということから、前
の夜にふ化した跡にも翌朝、産んでいる場合があると思
われます。必ずしも掃除が行き届いていなくとも産むの
でしょうね。産みに来たメスは、出きれば綺麗なところ
に産む位に考えて良いのでしょうか。
 この辺は、石田さん、如何でしょうか?

 以下、青字は石田さんの補足です。

 まず確認しておきます。
・今回、余吾さんがまとめて下さった図は非常に分かり
易いのですが、これだと岩面には5クラッチ分のスペー
スしかないように思われる方がおられるかもしれません。
が、僕のまとめた図や写真を見て頂くと分かるのですが、
産卵床は実際はもっと広いのです。クラッチ1つ分の大
きさにもよるのですが、7クラッチ分位の広さはあるの
ではないでしょうか(勿論、そんなに並んだ事はありま
せんでしたが)
 
・次に産卵の連続性の件。
 ハッチアウト後、次の卵が同じ場所に産みつけられる
のにはもう少し時間が必要でした。それでは、一体何日
を必要とするのでしょう? 今まで連続観察出来たのは、
2000年、2001年の夏休みの1週間ずつだけなので確認
例は少ないのですが、確かなのは2例で、いずれもハッ
チアウト後2日半の早朝に同じ場所に新しい卵が産み付
けられていました。つまり、クラッチがこの岩面を右回
りに1周するのにおよそ1週間程度を要しているという事
です。

・そして、孵化後の掃除についてです。
 孵化後の朝一番にその場所を覗きこむと、少し白っぽ
いものがある様に見えるので、何か残渣があるのかも知
れません。オスは、口をパクパクさせてそこを行き来す
る事があるので、それが掃除なのかなと思います。でも、
そんなクリーニングはせいぜい1日だけと言う印象です
(しっかり確かめた訳ではありません)。だから言い換
えれば、孵化後1日たったらもうその場所は綺麗になっ
ているといってよいのではないかなと思います。


 とすると、右回り、左回りは別にして、古い順に産み
付けられている場合、綺麗なのは、ふ化してから時間の
経っている方ですから、そこは当然、一番新しいクラッ
チの隣りと言うことになります。

 一方、掃除するのは、卵が正常に発育するのを助ける
目的だと考えられますので、オス、メスの利害の対立は
ないでしょう。
 従って、オスはメスに掃除の進んだ方へ卵を産ませる
ように誘導する必要はなく、メスが選んでいると考えて
良いのではないでしょうか。

*ただし、産卵床の掃除は、卵の生残には余り意味が無
く、オスがメスを引きつけるためのディスプレイだとい
う研究者も居ます。スズメダイ類は色々な種で研究が進
んでいるので、いろんな論議が多いのですね。とても難
しいなあ。
 これも含めて考えるとややこしくなるので、ひとまず、
置いておきましょう。

 ここまで、整理すると、
・新しいクラッチの隣りに産んでいく。
・それを選ぶのはメスらしい。
 と言えるような気がします。

 次に、その理由は綺麗だから・・・?

 ここで、「オスが保護しやすいようにクラッチを集約
させ、飛び地を作らないために」という考えはどうなる
のでしょうか?もう少し、別の視点で、空き地のことを
考えてみましょう。
                  またもや、続く。

【セダカ・フォーラム】

 掲示板は少し、イライラするのでここにまとめてみま
した。

工藤さん(411)

 親魚がクラッチの世話をする際の頻度の差というもの
はないのでしょうか?例えば、新しいクラッチほど世話
する回数が多くなり、孵化間近まで成長したクラッチに
対しては世話の頻度が少なくなるということです。
産卵後間もないクラッチの方が酸素(新鮮な水)を多く必
要とするわけですし、成長が進んだクラッチの方が手間
いらず(?)になるのではないのでしょうか?

呼吸生理の友達(九大・及川 信氏)に聞いてみました。
サヨリやメダカの実験では、発生が進むにつれて酸素消
費量が高くなるとのことです。スズメダイでも同様でし
ょう。
 ただ、酸素を供給するだけが保護行動ではないのです
から、手の掛かり方(コスト)は考えて置かなくてはい
けませんね。

 結局、孵化率が高いのが一番大事なことと考えられる
ので、雄の世話がより受けられ易い場所に産卵するので
はないでしょうか?

 
「オスの世話が受けられやすい場所」これが問題です
よね。その差があるとすれば、どういう違いに基ずくの
でしょう?
 

石田さん(412)
掃除は比較的早く済み、スペースも比較的余裕があると
なると、最新のクラッチに隣接してがメス産卵する必要
はないのじゃないのかなと思うのですが如何でしょうか
?という事で、僕はまだ「オスの都合」が優先している
気がしています。

 
これは3節で考えましょう。

原さん(413)

 僕は2つ目以降のいずれにしてもクラッチは隣接して
産みつけるものと思っていたので、「新しい」クラッチ
の横に産むか、「古い」クラッチの横に産むかは3つ目
からしか分からないのではないかと思ったのです。

 
それはその通りだと思います。

 実は、クラッチ同士が隣接して産みつけられることは、
オスの世話の都合に関係し、「新しい」クラッチの横に
産み付けられることはなにか別の理由ではないかと思っ
ているのです。
このあたりは次回で展開されることになりそうですね。

 
鋭いですね。

 工藤さんのコメントを拝見して、僕は前回、産卵直後
より孵化直前の卵のほうが多くの酸素を必要とするとカ
ン違いしていたことに気づいたのですが、新しい卵のほ
うが頻繁に世話してやる必要があるとなると辻褄は合う
ような気もしてきました。
とにかく、先の展開が楽しみです。

 酸素消費量以外の点について考えなくてはならないで
すね。次の石田さんのオスの保護行動の違い。これは今
年の夏の課題かも知れませんね。

石田さん(414)
 ただ、少し気になった事がありました。
卵に新鮮な水を送る場合、多くの魚は2通りの方法を取
るように思います。一つはフウフウ口から水を吹きかけ
る方法で、もう一つは胸ビレでパタパタ扇ぐ方法です。
これは本当に僕の印象に過ぎないのですが、ハッチアウ
ト間近の卵に対してはフウフウの頻度が高く、産卵後間
近の卵に対してはパタパタが多かった気がしたのです。
これはあくまで何度か見た印象に過ぎません。何か訳が
あるのかなあと少し気になっていました。

工藤さん(415)
 孵化直前のフウフウは孵化を助ける意味もあるという
ことはないでしょうか?バタバタとして強すぎる水流を
送るとハッチアウトが早過ぎて、異常仔魚になってしま
う可能性もあるのではないかと思うのですが。それに対
して、産卵直後の卵では多少の水流ではどうということ
はないですよね。

 鍵はサンセットダイブですね。八丈では可能ではない
でしょうか?どなたかチャレンジしませんか?

原さん(417)
 その年初めての産卵が行われるとします。
オスは手入れの終わった産卵床にメスを誘い、最初のメ
スが産卵します。その時、最初のクラッチの場所はどの
ように決定されるのかという問題がありますが、これは
とりあえず置いてきます。

 これはいろんな産卵基質を用意して実験しないと難し
いでしょうね。


 2番目の産卵は、最初のクラッチに接して行われます。
なぜ離れた場所に産卵しないのか、右側か左側かという
問題もありますが、これも僕の疑問には直接関係しない
ので、置いておくことにします。

 
ここが難しいのです。3番目の問題から解いて行く方
が良いのかもしれません。先走りなどと言ってしまいま
したが、取り消します。ごめんなさい。

 問題は、3番めの産卵です。2つのクラッチ以外の場
所は、オスが意図的に清掃の頻度を変えないかぎり、ど
こに産んでも「きれい」という条件は変わらないはずで
す。新しいクラッチの隣だろうが、古いクラッチの横だ
ろうが、構わないはずなのに、なぜ新しいほうが選ばれ
るのでしょうか? このことは、余吾さんの分析では説
明できないと思うのです。そして、ここで新しいクラッ
チの横に産卵・・・・というパターンが決まらなければ、
以後のサイクルも決まりようがないと思うわけです。

 
その通りです。

新しいクラッチの隣だろうが、古いクラッチの横だろう
が、構わないはずなのに、なぜ新しいほうが選ばれるの
でしょうか?

 
これを3節で展開しますので、お待ち下さい。

石田さん(422)

さて、セダカです。
僕が彼らの産卵の現場に立ち会って是非見てみたい事の
一つが、「どういう順番に卵を産んでいくのか」という
事です。僕は「最新のクラッチを産卵管で触れながら位
置決めして卵を産み始める」んじゃないのかなあと想像
します。それで一列産んだら、次には今産んだばかりの
卵に触れながら2列目の卵を産んでいくというプロセス
です。こうしてその日のクラッチが広がって行くのです。

 狩野さんの表現では、スズメダイ類のメスはクルリ、
クルリと廻りながら産み付けると書いていました。この
クルリが一列に相当するような気がします。

メスの産卵管は何らかの理由(硬さ、感触、分泌物、表
面の化学組成?)で新しい卵に感応しやすいのではない
でしょうか?
 だから、その日の卵に一番近い最新のクラッチに触れ
ることを好むという事はないのでしょうか。

 石田さん、最新のクラッチの色が一番鮮やかに見える
という点は如何でしょうか?
 ダルマハゼの生殖突起の横に生えていた突起もこうい
ことに関係しているのかなあ?と思いました。

またまた何の根拠もない妄想なのですが、これくらいの
「積極的理由」もないとメスの動きが説明出来ない気が
するのですが如何でしょうか?

「何故、好むか?」に届きそうになってきました。
 3節、明日まで待って下さい。
 
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