LET'S STUDYING-4.セダカを考える−3

セダカスズメダイが僕たちの頭を楽しく悩ますこと

 1.2.より、場所を選ぶのはメスらしいが、最新の
クラッチの隣りを選ぶ理由は何か?
 また、オスはクラッチが密接して居る方を好む理由が
ありそうだと言う考えは捨て切れません。
 完全にメス主導型なのかどうか・・・・
 少し、別な面から考えてみましょう。

3.新しいクラッチと古いクラッチ

 少し、単純に、古いクラッチあるいは新しいクラッチの隣りに産み付けた場合で、それぞれ産み付けたばかりの卵と隣りの卵とを比較してみましょう。


比較する卵

古いクラッチの卵

新しいクラッチの卵
卵色の違い

大きい

小さい
発生段階の隔たり

大きい

小さい
オスの保護期間

長い

短い
共存する期間

短い

長い

 表より、これから産み付けられる卵と、古いクラッチと新しいクラッチの卵には、4つの違いが考えられます。古いクラッチの卵は発生が進んでおり、ふ化が間近く、すぐに産卵床から無くなるものです。新しいクラッチの卵はその反対になります。産卵床で共在する期間に差が出ます。メスは産卵の時だけ産卵床にいるのに対し、オスは殆ど離れません。卵と餌である海藻を守らなければならないのです。このオスの立場に立ってみると、古いクラッチの卵には、かなりの保護を行っています。せっかく育てた卵と今、目の前に産み付けられた卵では、いとおしさ?も違うか?

 もちろん、「いとおしさ」なんて計ることは出来ませんが別の言葉で言えば受精卵に掛けたオスの「コスト」は違っています。

 ここで、複数のメスが産んだ卵を保護する魚類で一般的に考えられている話を紹介します。「セダカはこうだ」(しゃれではなく)というわけではありません。

 オスは卵保護中に十分に餌が取れるか?スズメダイ類、
ヘビギンポ類、テンジクダイ類等でオスが卵の一部を食べる食卵が知られています。自分の精子で受精させた卵ですから、他人の卵を食うのと区別するために、filial carnivanism と呼んでいます。

 オスは、クラッチが小さく保護に掛かるコストの方が、
受精卵をふ化させる利益を上回る時に卵喰いをすると考えられています。その時に、2つのクラッチがあると、新しい方を食べる傾向があります。それは、古い方にはすでに保護のコストを多くかけており、ふ化も早いので、喰うなら新しい方をとみなされるからです。

 逆から、メスが一番新しいクラッチの隣りに産む理由を考えてみましょう。一番古いクラッチの側に産むと、早々にふ化してしまい、自分のクラッチが孤立する可能性が高くなります。これをメスは回避する傾向があると考えられています。

 そのために、2つ以上のクラッチがあるときには、自分の卵と一番、発生段階が近く、なるべく長い間、自分のクラッチの隣りに長くとどまるクラッチを選ぶのだろうと考えられるわけです。

 また、沢山のクラッチがある産卵床の方が、沢山のメスが来る場所です。メスは、自分以外にも多くのメスが訪れるオスの産卵床に産む方が次に別のクラッチが自分の卵塊の隣りに産み付けられる可能性が高くなります。オスの卵喰いから逃れる確率の高いオスの産卵床を選ぶのだと考えられます。

 従って、産卵場所を選ぶのは、メスの選択であろう(これは考えてそうしているという訳ではありませんよ)。しかし、産み付けられた卵をどうするかは、オスの選択になっているようだと言うことです。

 ここで、話をセダカスズメダイに戻すと、はたして、この説明がすっぽりと当てはまるのかどうか自信がなく、ここから先は、データと理論の整合性を調べることが出来ず、上手く説明できません。
 また、分散したクラッチ群と密接したクラッチ群では、オスの保護の効率(コスト)がどれだけ違うかは答えが出ていません。今はなんとも言えないのです。コンパクトな方が守りやすいというのは明らかだと思いますが、そうでない場合はどれほど負担になるのか?あるいは、コンパクト故に水生菌(カビ)が拡がりやすいとか、一気に捕食に遭うとか言うことも考えられます。

 僕と同年代の方ならご存知かも知れませんが、ミッドウェイの悲劇と言うこともあるのかな?

 隣接して産み付ける方が生残率が高くなる、優れた形質だとして話を進めてみましょう。

 メスには、すでにあるクラッチの側に産卵するものと、そうでないものとが居たのかも知れません。そして、飛び地にしないですでにあるクラッチの隣りに産み付けられた受精卵のほうが生残率が良ければ、そうしたメスの遺伝子を持った子孫が増えて、段々とその性質が個体群の中で増えていったと考えられます。

 さらに、複数あるクラッチの内、古い方に産むか新しい方に産むかは偶然で、ある時には時計回りになったり、反対になったりしますが、最新の方を選んで産む個体が出てくると、当然、その産み付け方が一番、生残率が高く、最適な(適応度の高い)行動となっていると考えられます。これが最近の行動生態学の説明です。

 では、複数のクラッチの中でも最新のクラッチを選ぶとするとメスは何によって新旧を識別をしているのか?これは難しいですね。石田さんの(422)にあるような感覚の問題なのか?あるいは僕が書いた最新クラッチの色に刺激(解発)されるのか?これらを確かめるには飼育実験が必要でしょう。この部分は、最終節で紹介する至近要因の話になります。

 幸田さんが枕崎で研究されていたときには、繁殖、採餌、卵保護という3種のなわばりが同時に維持されることに主眼が置かれており、オスの食卵と言うことにはまだ、目が向けられていない時代だったのです。逃げ口上ではないのですが、セダカでも、そうした観点から見つめた観察が不足しています。
 やはり、もう少し、データの欲しいところです。

 講師陣のコメントをいきなり出さずに、ここまで引っ張ったのには、理由があります。一般的に言われていることを、どの魚へもいきなり援用する人が増えている傾向があります。そうした姿勢には僕は不満があります。勿論、講師の方は、長いフィールド研究から理論を立ち上げている訳ですがいろんな側面から、焦らず、考えていくのが楽しいだろうと思います。自由にみんなで意見を交換したいのです。

 次節でこれまで、控えていたことを少し紹介し、
このコーナーに一度、区切りをつけたいと思います。