AUNJ-WORKSHOP


ワークショップ 2「紛らわしい魚達」

このコーナーは、みんなで作り上げていく新しいコーナー です。

 2−8.アゴハゼとドロメ 06/20/04 開始

関連BBS:2158-2167,2169, 2171-73

先ず、平田さんが撮影されたアゴハゼとドロメの幼期ステージを繋いだ写真を紹介します。さぞかし、苦労したんだろうな〜。

(撮影:平田智法)

平田さんのコメント:アゴハゼとドロメの幼魚を調べたのは、以布利「黒潮の魚」をご覧になった瀬能さんから「掲載しているアゴハゼの写真はドロメでは?」とご指摘いただいたのがきっかけです。この本は高知県土佐清水市以布利の魚を海遊館と高知大学(遠藤さん、平松さんお疲れさまでした)・京都大学が調査し、まとめたものです。この中の生態部で、前述のミスをしてしまいました。当時私はこの2種の幼魚の区別が全くついていませんでした。また、生態写真も発表されていなかっ たと思います。ちょうど幼魚が出現している時期でしたので、いろいろな場所で多くのいろいろなステージの個体を観察することが出来ました。これら画像を
つなぎ合わせて、成長過程を知ることが出来ました。しかし、水中写真では両種共に尾柄部に大きな黒斑があるにもかかわらず、文献にはアゴハゼの幼魚にはないとしてありました。記述と一致しないため麻酔下でも撮影し、黒斑の消失を確認しました。


BBSより抜粋

坪井【2162】

アゴハゼ・ドロメの幼魚の違いですが、1番簡単な見分け方はズバリ!尾鰭基底の辺りが黄色か黄色でないかです。
ドロメの幼魚は尾鰭基底にある黒色斑の周辺が黄色くなっていますが、アゴハゼには黒色斑があるのみです。
かなり鮮やかな黄色ですので(ヤライイシモチのような)、ある程度近づけばそれで判断できると思います。
成長とともにドロメの黄色は薄れていきますが、着底するのがアゴハゼは20mm前後なのに対し、ドロメは30mmと大きく違うので判断は可能だと思います。
つまり、黄色いかどうかは微妙だけど、ちょっと大きめの個体が群れて浮遊してるぞ!というときは、ドロメの可能性が高いということです。

あと、浮遊期の幼魚では生息場所にも若干違いがあります。
 
 アゴハゼ:外洋に面した波打ち際
 
 ドロメ:比較的波が穏やかで水深が1mくらいの海藻の茂み

成魚では、アゴハゼは外洋、ドロメは内湾を好む傾向があることもわかっています。ただし、生息場所については確実とは言い切れません。

幼魚の写真については、平田さんがスバラシイ写真をまとめておられます。
成長に伴う体色の変化を、両種の写真を並べて比較してあるものです。
水中写真と麻酔時の写真が両方載っており、非常にわかりやすくなっています。
これについては、後日メールでお送りいたします。

両種の食性の差についてですが、私の研究していた高知県沿岸では両種ともにソコミジンコ目などの動物プランクトンが多く確認されました。
しかし、その他にもさまざまなものを食べており、強い広食性を示すこともわかりました。
底層−中層で、動いているものはとりあえず口に入れる大食漢のようです。
中でも特に多かったものは以下のようになっています。

 アゴハゼ:ヨコエビ類・巻貝類(アマオブネガイなど)

 ドロメ:カニ類・昆虫類(ユスリカなど)

高知県沿岸で両種は同所的に採集されなかったため、私はこれらの食性の違いは生息環境の違いによるものだと推測しました。
また、共存する場合アゴハゼはヨコエビ類、ドロメは十脚目を専食するということが佐々木・服部(1969)によって発表されています。
このことから、本来両種は広食性であるが、なんらかの理由で共存せざるを得なくなった状況でのみくいわけをおこなっているのではないか、というのが私の考えです。
そこでまず日本沿岸での両種の分布を調査し、そこから共存する・しないの原因を解明していけたら、と調査を続けています。



坪井【2163】

原田様、こんにちは。

貴重なご意見ありがとうございます!

> 結論から先に申し上げますと、三浦半島において両種は共存しております。

三浦半島は行ったことがないのですが、どのようなところなのでしょうか?
簡単でよろしいので、教えていただけませんか?

> 先月、油壺の潮溜まりで採集してみたところ、両種の成魚が採れました。

5月に見られる成魚は2才魚である可能性が高いですね。
アゴ・ドロともに、生涯に1度しか繁殖しませんので、もうそろそろ成魚の姿は見られなくなると思います。
繁殖期は1月〜4月くらいですが、関東のほうでは3〜6月という説もあります。
繁殖期が過ぎてもまれに生き残る個体がいますが、その数はドロメのほうが多いようです。

> 幼魚も採れましたが、数量的にはアゴハゼの方が多かったような印象でした。

同所的に存在する場合、ドロメよりもアゴハゼのほうが数は多くなります。
ドロメのほうが大きく成長するのが原因となっているのでしょうか??

事務局より:生涯に一度繁殖で、満1才で成熟するのなら、この個体は1才魚ではないのですか?2才魚と言うと満2歳以上、満3才未満と言うことになります。
以下、年齢の表記法です。

誕生         満1才             満2才             満3才
0   0+(当歳)  1     1+(1才)   2     2+(2才)   3



道羅英夫【2167】

僕もアゴハゼとドロメの違いにはいろいろ悩んでいたのですが、ちょうど
先々週にタイドプールでいろんなサイズのアゴハゼの幼魚を少なくとも100匹以上観察して、「アゴハゼの幼魚には尾鰭基底の黒斑の周囲が黄色くならないに違いない」と考えていたところでした。これで確信が持てました。

ところで、観察したのは下田大浦の湾奥のタイドプールで、潮が引いていると水路状に外海と繋がってはいるものの、潮が満ちると水面に出ていた部分が水没してタイドプールではなくなるという場所です。
場所の写真はURLにアップしてあります
そんな環境では、観察したすべての幼魚がアゴハゼでした。成魚は2個体しか見ていませんが、これらもアゴハゼでした。つまり、ここではアゴハゼとドロメは共存しているということはないようでした。

> 成長とともにドロメの黄色は薄れていきますが、着底するのがアゴハゼは20mm前後なのに対し、ドロメは30mmと大きく違うので判断は可能だと思います。

浮遊しているか着底しているかは潮の干満とも関係があるように感じました。
潮が引いてタイドプールになっている時には浮遊している個体が多かったのですが、潮が満ちて完全に外海と繋がってしまうとほとんどの個体が着底していました。僕は波によって外海に運ばれてしまうのを防ぐためかなぁと思ったのですが、そのような知見はあるのでしょうか?

事務局より:直接のお答えではないのですが・・

鈴木克美先生の「潮だまりの生物学」(講談社現代新書)より引用します。

潮だまり定住魚といっても、それらが潮だまりに一生かじりついて暮らすわけでわない。一生のうちのある時期には、潮だまりからはもちろん、潮間帯からも出ていってしまうものがほとんどだ。潮だまりに特有な、と考えられやすい、潮だまりで最も普通に見かけるドロメやアゴハゼでさえ、満潮どきには潮だまりから出て、潮間帯のあちこちの岩の上やくぼみの底など、好き勝手な場所に、一尾二尾と散らばっているのである。

しかし、ドロメやアアゴハゼは、潮が満ちてきて、潮だまりというせまい環境から開放されたからといって、これ幸いと、沖へ遠ざかってゆくわけでわない。潮が引き始めて、潮間帯が再び陸になり出すと、彼らはまた潮だまりのなかへ戻るのである。ドロメやアゴハゼは、高潮亜帯から中潮亜帯にかけての、見たところさえもなさそうな、他の魚はちょっと入ってこられそうもない、浅い広い潮だまりにもいる魚たちだ。

佐々木 喬・服部 仁(1969)の千葉県安房郡小湊及び坂田における研究より抜粋して引用します。

潮だまりにおける定着性と移動:アゴハゼは、かなり自由に潮だまり間を移動するのに対し、ドロメはひとつの潮だまりに定住する傾向が強い。

産卵場所:アゴハゼは半ば以上が埋没した石に、ドロメは大きな石(一人では起こせない位の)に産み付ける。

年齢と成長:アゴハゼは生まれた年の秋には成魚に近い大きさまで成長し、満一才で体長40〜60mmとなり、満一才を過ぎて生き残るわずかな個体は最大で体長75mmに達する。ドロメは、アゴハゼよりも成長が速く、春に生まれたものは5月末には40〜50mmに、10月には50〜70mmに達する。満一才で、おそらく70〜80mmに成長し、最大130mmに達する。



坪井【2172】

1才魚が見られる時期についてですが、高知県では三浦半島と少し異なっているようです。

アゴハゼの成魚は初夏になるとほとんど見られなくなります。ドロメ成魚は、秋口まで生き残るものもいるようです。しかし、2003年に採集したドロメの標準体長を月別に検定したところ、すべて当年魚という結果になりました。ドロメは成長が早く、すぐに1才魚に近い大きさになるためかと思われます。初春に充分な採集を行えなかったのも原因のひとつでしょう。詳しく年齢査定することもしませんでしたし(苦笑)。

南日本では産卵期が若干早いため、成魚が消失する時期も早くなると考えられます。繁殖後に長く生き残れる個体はそう多くないはずですから(特にアゴハゼ)、東日本では6月後半に生まれた個体が、翌年の秋口まで生き残っているのではないでしょうか?はたまた、繁殖に参加できなかった個体が生き残っているのでしょうか??それぞれの地域で継続した観察と採集を行わないとはっきりしたことは言えませんね…。

アゴハゼとドロメの研究は卒論で1年間やっていただけですが、非常に興味深いところが多かったです。それに加えて謎も多かったのですが、修論では別の魚を研究することになりそうです。片手間にアゴ&ドロをやるのは少々無謀ですが、今後も続けていきたいと思っておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。原田さまの研究成果も楽しみにしております。お互いがんばりましょう!


府川【2173】

 あまり参考にならないかもしれませんが、私の潜っているフィールド「早川」は、原田さんの潜られている相模湾の三浦半島と、真鶴半島の中間地点にある、だだっ広い砂地のポイントです。エントリー口の水深は2m程度までのゴロタ石が敷き詰められたような状態で、前にはテトラポットが積まれています。なので、タイドプールといった環境はありません。今のところ、「アゴハゼ」しか確認されていません。


06/21/04
さて、次の写真は原さんのHPで、話題を醸した府川さんが撮影したハゼです。


府川さんのコメント:原さんの掲示板で火種になってしまった「アゴハゼ」の写真です。2004.2.4 撮影。水深2mで、エントリー口前にあるテトラポットの脇をすり抜けていくところのゴロタ(20cmくらいの石)を1つずつめくっていたら出てきました。目測で全長90mmくらいでした。
当時のログです。潮が引いていたので、水深は浅めです。

余吾はアゴハゼに1票です。


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