ウミサボテンに向かって図のように鎌首をもちあげるように立つ棒状の生物がいました。
指で押すと簡単に倒れ、しばらくするとするとウミウシと解る形にになり、近辺には這っている個体もみかけました。しかし、図のように棒状に立っているのは他には1個体だけでした。その時に一緒に潜水していたウミウシに詳しい友人がダイオウタテジマウミウシと同定してくれました。
その後、この図のように棒状に変形した個体を見ていませんが、ウミサボテンの近辺でダイオウタテジマウミウシをたまに見かけます。
この棒状に立ちあがった生物を見た時、その付近のウミサボテンのポリプが引っ込んでいたので、こいつは今ポリプを食べ、またねらっているんじゃないかと思いました。どうでしょうか?その後5分ぐらい経ってもなにも起こりませんでした。
しかし、これがこのダイオウタテジマウミウシの捕食方法だとしたら、なぜこんなポーズ(体を棒状にしてウミサボテンから離れた状態)をする必要があるのか、もしかしたら前の写真のホソハスエラウミウシのようにウミサボテンに乗ってしまっては、なかなかポリプがでてこないから、こっちの方が頭脳的なのかとも、勝手に想像してしまうのですが。
終わりに
さて、なぜ「捕食しようとしている」と感じたかです。
ウミサボテンのポリプはよほどの刺激を与えないと広範囲に引っ込まないのですが、写真のウミサボテンは丸坊主状態で、ホソハスエラウミウシの口付近が膨らんでいるように見えます、とにかく、なんらかの攻撃を加えたのは明らかのようです。
イラストの方のウミサボテンは描いた通り、下のほうだけポリプが引っ込んでいました。つまり、ダイオウタテジマウミウシがなんらかの攻撃を加えた後だと考えました。
そして、どちらの場合もウミサボテンに傷跡らしいものがみつからなかったのです。僕には開いたポリプめがけて瞬時に攻撃するウミウシの姿が目に浮かんだのですが。如何でしょうか?
ちなみに、近縁のオトメウミウシの仲間は八方サンゴ類を食べます。サンゴのどの部分を食べているのかは水族館でウミウシの飼育をしていた友人に今度聞いてみます。
ユビノウトサカウミウシがこのトサカを数匹で食べている状態をよく見かけます。その時は食べられた跡がよく分かります。特に枝状のサンゴやヒドロ虫類を食べるウミウシはその食べた跡が一目でわかりますね。
ウミウシについては、「ウミウシ研究所」というサイトが詳しいようです。
追記
水族館で長年ウミウシの飼育にかかわった友人に聞いたところ、ヒドロ虫類やサンゴ類を食べるウミウシは骨格以外の柔らかい部分すべてを食べるそうです。その友人は今奄美に引っ越してしまったのですが、以前同じポイントで今回の写真の方のホソハスエラウミウシが砂泥に頭を突っ込んでいたので引っ張り出したところ、その先には砂に潜り縮んだウミサボテンがあったそうです。
今回の僕の話を聞いて、彼は「このホソハスエラウミウシは、ウミサボテンの粘液を食べているか、もしかしたら、丸呑みするのかも知れないな」と言っていました。
ウミサボテンは縮むと相当細く小さくなります。つまり、ほとんど水太りなのですから、それもありえますね。
終わり
−事務局より−
ウミウシ類の採餌についてのリポートは、これが最初ですね。また、夜間の観察記録としても初めてでしょう。大変興味深い観察ですね。
ウミウシ類の食性や採餌方法はどれほど判明しているのでしょうか?「ウミウシガイドブック2」には、チゴミノウミウシがミスガイなどの卵塊を食べるということが紹介されています。加藤さんや石田さんにお聞きしたところ、カイメン類、ユビトサカ類のポリプ、他種のウミウシ類、ヨコエビ類やアミ類、タイラギなどの2枚貝を食べるウミウシ類がいるということです。さらに外国には魚類を捕食する種が居るそうですよ。また、アメフラシなどが海藻類を食べるというのは皆さんよくご存じですね。ウミウシの仲間は多いし、その採餌方法、餌生物は多様だろうと感じます。
今回、平山さんが観察した2種が、ウミサボテンのポリプが出た時、そのポリプを狙って捕食するのなら、採餌行動はポリプが活発に活動する潮汐周期と関係するかも知れませんね。ウミウシ類は視力が弱いし、しかも、夜間です。どういう感覚器を持っているのでしょう?
夜間潜水できる機会は誰にでも、どこでもと言う訳にはいかないと思いますが、チャンスがあれば気をつけてみては如何でしょうか。
また、逆にウミウシを食べる動物も居ます。加藤さんはアオミノウミウシがアサガオガイにムシャムシャ食べられたことを紹介しています。「ギャラリー」をご覧になって下さい。一方で、「水産無脊椎動物学(椎野季雄著、培風館)」では、アオミノウミウシがアサガオガイを捕食すると書いてあります。
最初に平山さんのイラストを見た時には何か異様な感じを受けました。特に体の形を変え、倒されるとウミウシらしい体型に戻るなど、少し、ぞっとします。超低速度撮影された粘菌類のムラサキホコリカビのようでもあるし、グァーと立ち上がって、光線を発射する寸前の怪獣という印象を受けたのは僕だけでしょうか?
余吾 豊 08/03/06