初夏の満月の夜、多くのサンゴが一斉に産卵するシーンは、とても神秘的で、多くのダイヴァーを魅了します。また、最近では多くのダイヴィングショップがツアーを企画しているので、実際にご覧になられた方もおられるかもしれません。 しかし、一言でサンゴといっても、いろんな種類のサンゴがいて、その生殖も実に多様性に富んでいます。 ここでは、サンゴの生殖様式と生殖周期について簡単にまとめてみましたので参考にしていただけたらと思います。
サンゴは石のように見えますが、れっきとした動物であることは皆さんご存じだと思います。昼間は堅い骨格の中でじっとしていることが多いのですが、夜になるとイソギンチャクのように、触手を伸ばしてプランクトンを食べます。分類学的にもイソギンチャクやクラゲに近い仲間です。 サンゴは、基本的には、たくさんの個体が集まって群体を形成しています。そのひとつの個体をポリプと言います。 ポリプは分裂して数を増やし、群体は成長します。したがって、同一の群体内のポリプはすべてクローンといえます。 繁殖期になると、ポリプは卵と精子を海中に放出します。受精した卵と精子はプラヌラ幼生になります(ただし、中には、体内で受精したのちプラヌラ幼生を放出するサンゴもあります)。プラヌラ幼生は、しばらく浮遊したのち、着底し、新しいポリプとなります。
それでは、サンゴたちの生殖様式と生殖周期について見ていきましょう。
無性生殖文字どおり、性が関与しない生殖方法です。これは、例えば台風などで、群体が壊れたりした場合に、その破片が再生・成長することで増殖する方法です。この性質を使ってサンゴ礁の造成も試みられています。 クサビライシの仲間は、群体を作らずに単体で生活しているのですが、自切によって殖えるものもあります。 ほかにも、骨格からポリプが抜けだして、新しいコロニーを造るものや、プラヌラ幼生を無性的に作るものもあります。 有性生殖
(A)雌雄異体
(B)雌雄同体
(C)放卵・放精型
(D)保育型
上記A・B、C・Dの組み合わせによって、生殖様式を次の4つのタイプに分けることができます。括弧内の種数は、参考までにインド洋・太平洋産のイシサンゴ類170種を4つのパターンに分類したものです(これによると、大部分が雌雄同体・放卵放精型であることがわかります)。 雌雄同体・放卵放精型(126種) 雌雄異体・放卵放精型(34種) 雌雄同体・保育型(6種) 雌雄異体・保育型(4種)
月周性保育型のサンゴでは、月周性がみられることが知られています。ただし、月齢周期の中のどの時期に産卵するのかについては、同一種であっても、シーズンや地域によって異なることが観察されています。 たとえば、グレートバリアリーフのハナヤサイサンゴは、夏期は新月期に、冬季は満月期に、そして秋の以降期(5-6月)には新月から満月にかけての長い期間にまたがってプラヌラを放出することが報告されています。 そして、同じハナヤサイサンゴがパラオでは、新月から上弦の月にかけて放出し、ハワイでは上弦の月から満月にかけて放出するタイプと、下弦の月から新月にかけて放出するタイプとが存在し、沖縄では冬の4カ月を除く期間に、新月から上弦の月にかけてプラヌラを放出するそうです。 年周性放卵・放精型サンゴの多くが、初夏の満月前後、数日間の夜間に産卵する、いわゆる一斉産卵をします。ただし、どれだけの種が同調するのかについては、地域差がみられるようで、温度範囲(年較差)が大きい地域ほど、同調性が高い傾向がみられます。 リッチモンドとハンターの研究によると、年間の水温差を比べてみると、グアムで2.2度、カリブ海で3.2度、ハワイで4.0度、紅海で6.0度、沖縄で9.8度、クレートバリアリーフで12.0度であり、各地における同調性は、それぞれ18、26、29、20、65、88%だったそうです。 というわけで、必ずしも全てのサンゴが一斉に産卵するわけではないのですね。
サンゴの生殖様式と生殖周期についてまとめてみてわかったことは、非常に多様性に富んでいて、まだまだわからないことが沢山あるということでした。会員の皆様の観察とレポートを期待します。 写真は、西海区水産研究所石垣支所の林原 毅・渋野拓郎両氏のご厚意によるものです。また、このお二人と東海大学海洋研究所の横地洋之氏には、様々なご教示を頂きました。 参考文献 「サンゴの生物学」山里清著、東京大学出版会 |