少し、時間が開きましたが、この位でじっくりやるのも良いですね。今年のセダカスズメダイの繁殖期には、石田さんだけでなく、多くの人が新しい視点で見つめることが多くなるのではないかと思います。その意味でも、こうした問題提起(話題提供と言った方が石田さんは好きかな?)はとても大事なことで、貴重だと思うのです。
さて、セダカを考える−5はフォ−ラムです。
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クラッチの回転方向に関する今回のお話のキーワードとして「食卵」が度々出て来ます。
セダカの卵を観察し始めた2000年の段階で、ヘビギンポのオスが卵を守りながらそれを食べてしまう事があるという事を本で読んで知っていましたので、それも注意して見ていたつもりでした。でも、その時僕が抱いていた食卵のイメージというのは、
「卵を守る使命を背負いながらも、空腹に耐えかねたオスが止むに止まれず一部を失敬する」というものでした。つまり、卵塊の一部のつまみ食いです。ですから、セダカが卵塊をチョンチョンとついばむ様な仕草を見せるたびに
「むっ? 食卵か?」と目を凝らしていたのでした。
ところが、「魚類の社会行動−1」で奥田昇さんが紹介なさっているオオスジイシモチの食卵では、「食べる時には卵塊丸呑み」とパターンですよね。これは僕は全く想像していませんでした。
「少しずつ卵を食べて少しずつ飢えを癒し、残った卵を孵す」
というのと「そのクラッチ全体はもう諦めて、その代わりそれを全て食べて一気に充電」という作戦のコストとメリットの引き算の結果なのだろうと思います。
でも、お話を伺っていると、魚類の世界のフィリアル・カニバリズム(親が実の子・卵を食べてしまう)では「一気食い」が普通の様に語られている様に見えるのですが、そうなんでしょうか?
@これは種によって産み方が違うので、一概にどうだとは言えませんね。一日に同じクラッチをバラバラに産むものもいるし、卵の色にも発生段階で違いがないものもいるでしょう。今、僕は卵の色に
とても興味を覚えています。
もし、セダカでも「クラッチ一気食い」が行われていたとしたら、親魚は産卵日の異なる隣接クラッチは食べないようにしながら特定のクラッチだけを慎重に選んで食べるような事をしているのでしょうか。
もしそうならば、と思い当たる事があります。セダカの卵は産卵日とその翌日は色の変化が非常に少なく、明るい黄色をしています。しかし、その次の日は劇的に色を変えるのです。仮に、セダカが色盲であったとしても、明度の差として明らかに認識できる変化です。
もし、セダカのオスが新しいクラッチだけを選んで食べるのだとしたら、新しい卵が明るい色をしているというのはオスの食卵にとっても都合がいいのかなと思うのです。
@ 都合がいいかどうかは微妙ですが、これには脱帽です。狩野さんから「自分が産み付けたクラッチの近くに次々と新しい卵を加えてもらえば、それだけ自分の卵が食べられにくくなる。だから、新しい卵は目立つ色をしているという説もあります。まだ、検証されていないので何とも言えませんが」というコメントが来ていましたが、僕は、敢えて隠していました。ワナじゃないですよ。
この意見が出るとは、失礼なようですが驚きでした。
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「セダカを考える-4」にて、クラッチの回転方向が変わるメカニズムとして、食卵の影響による可能性を余吾さんが挙げられています。
僕が理解出来ていないのかも知れませんが、食卵によって回転方向が変わる可能性があるのは、
「岩面に2クラッチしかなく、その内の新しいクラッチが食べられて1クラッチだけが残った場合」に限られるという事ですよね。
@いえ、一つの例なのです。
でも、僕が見てきた限りでは、岩面に1クラッチしかなかったということは一度もありませんでした。2クラッチという事すら珍しいほどでした。
そこで、こんな事はあり得ないでしょうか。
「産卵は必ず最新のクラッチの隣に」
という前提を単順にはずしてしまうのです。正確には「少しだけ緩める」のです。
時計周りに規則正しくクラッチが並ぶ産卵床があったとします。仮に何かの都合でメスが最新ではなく、最古のクラッチの隣に産卵したとします。そして、その夕方、最古のクラッチがハッチアウトしなかったとします。翌朝、或るメスがその産卵床に産卵に現れたとします。さて、このメスは、イレギュラーな位置にあるけど最も新しいクラッチの隣に卵を産むのでしょうか?
それとも、少し古くなるけど本来あるべき位置に卵を産むでしょうか?
@これは2つの仮定が連続するので、少しややこしくなりますね。このケースも図に作っていたのですが混乱しそうで、止めておきました。少数のメスは一番新しいクラッチの隣りに産まないという仮定ですから、そのメス次第ではないかと言うことになるかと思います。
僕には、セダカがややこしいパターン認識出来るとは思えません。それよりも、もっと単純な「最新のクラッチの隣に産め」
の設計図の方が有効に思えます。そしてイレギュラーな最新クラッチの隣に産卵したとしたら、そこを基点にクラッチは反時計方向に回り始めることになるのです。
こうして、頭の中の設計図がどこかずれたメスがたった1匹現れるだけでそして、その他大勢のメスの「最新のクラッチの隣に産め」の設計図が有効であればあるほどクラッチの反転は生じやすくなるでしょう。
ちなみに、このようなパターンがありえるならば、最古のクラッチがハッチ・アウトした時点で飛び地のクラッチも生じる事になります。
「設計図のずれたメス」という存在を仮定してしまうのはルール違反でしょうか?
@考えは、どこまでも自由でルール違反はありません。このことは「セダカを考えるー3」の後半で僕も考えています。色んな産み方をするメスが居ると考えて、その中で、どの戦術を採るメスの子供が一番、生残率が高くなるだろうか・・と。
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卵食がクラッチの回転方向の逆転や飛び地の原因にはなりえないのではないか、と思わせる例があります。
もし、卵を守るオス・セダカが或るクラッチを一気食い(或る誕生日の卵を残らず食べてしまう)するならば、という前提つきです。
以下は、昨年2001年8月25日に見つけた或るクラッチです。
○○○○○4○○○○○○
○○○○4433○○○○
○○○○433○○○○○
○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○
○2○○○○○○○○○○
○2211○○○○○○○
2111111零○○○○
○111111零零○○○
○1111111零零○○
○○○11○○○零○○○
(数字は産卵後の推定日数です)
岩面には5クラッチが並んでいます。「零」はその日の朝に産
まれた卵であり、「4」は、その日の夕方にハッチアウトすると
思われる卵です。
ここのクラッチは上下2グループに分かれてしまっています。
つまり、飛び地クラッチになってしまっているのです。しかも、
上部のグループは「時計回り」しようとしていると思えるのに、
下部のグループは「反時計回り」になってしまっています。
この岩面では、毎日産み付けられた卵が残っている(つまり、
卵食の一気食いの被害をを受けなかった)にもかかわらず、飛
び地も方向逆転も両方生じているのです。
上図で考えると、「2」のクラッチが産み付けられた時、
・そのほかのクラッチはどんな配置にあったのか
・「2」のクラッチ自身はどれ位の範囲あったのか
が分からねば正しい事は分からないでしょうね。
@そうですね。4や3が最初からこんなに少なかったかどう
かが知りたいですね。この産卵床は8/25だけの観察だっ
たのですね。
このクラッチが見られた翌週、ここの産卵床のこのシーズン
の産卵は終了していました。宿題は今年の夏に持ち越された
のでした。
@うむ。これは、面白いですね。産卵終期と言うのが大きい
感じがします。また、セダカのオスによる卵食以外のことが
起こったかも知れません。例えば、ベラやカニ等による捕食
もあり得るでしょう。観察には色々と制限がありますが、そ
の中で一つずつ、詰めていって下さい。期待しています。
皆さんからの反応、お待ちしています。
長々とお疲れさま。ちょっと、写真を一枚。子育てに疲れ
切ったオスと思われるスズメダイの写真です。
場所は、筑前沖の島。