AUNJ WORKSHOP
日本産 Cirrhilabrus 魚類の幼期
 

写真・説明:加藤昌一・平田智法・宮本育昌(50音順) 編集:余吾 豊

 Cirrhilabrus katoi Senou and Hirata 2000 
クレナイイトヒキベラ 担当:平田智法(四国西南部からの記録)



クレナイイトヒキベラ
Cirrhilabrus katoi Senou and Hirata 2000 

本種は伊豆大島・八丈島・伊豆半島・高知県西部・鹿児島県坊津町で確認されている。生息水深は10〜45mであるが、20m以深が生息の中心と思われる。
2cm TL未満の幼魚は確認されていないため、色彩は不明。
なお、本種の種小名は発見者の加藤昌一氏にちなんだものである。

○高知県西部のデータ
*3cm TL以下の幼魚の知見のほとんどは、水深25〜30mの狭い範囲に群生するセンベイサンゴ属(黒潮生物研究所 岩瀬文人氏私信)の生息域で得られた局所的
なデータを元にしたものである。

出現状況:雄の婚姻色とディスプレイは3〜7月に観察されているが、腹部の膨らんだ雌は5〜7月に観察されたのみである。
幼魚は水深20mから30mのセンベイサンゴ属の群生域・転石帯・礫域・ガレ場に稀に観察された。
観察された最小個体は2cm TLで8月に、2.5〜3cm TLの個体は7月から2月にかけて観察された。
しばしばイトヒキベラ・クロヘリイトヒキベラ・ツキノワイトヒキベラ・ピンテール・クジャクベラ・カミナリベラの幼魚と一緒に観察された。

水中での色彩:2cm TL以上の個体は赤っぽい体色に見え、3cm TL以上の個体はしばしば頭部や頬部が黄色に見える。体側の縦縞も確認できる。

水中写真での色彩:肉眼と同じ傾向の色彩で体色は赤色、青色の6〜8本の細い縦縞がある。尾柄部の黒斑は、2〜3cm TLの個体ではかなり変異があり、小黒斑があるもの、数個の小黒斑が散在するもの、不明瞭な暗色域のあるもの、斑を欠くものなどが確認されている。この黒斑にはしばしば青色斑が散在する。この黒斑は4cm TLを超える個体では観察されていない。
吻端に特徴的な斑紋は見られない。虹彩は内側が黄色でその周辺が赤色である。

類似した幼魚:本種は誤同定が多い。雑誌やネット上でツキノワイトヒキベラやピンテ‐ルの幼魚や雌が、しばしば本種として掲載されている。
本種は眼下部に接する縦線が胸鰭基部中央を通る(ツキノワイトヒキベラやピンテ‐ルは胸鰭基部より上方を通る)ことで区別できる。
また、伊豆大島での水中観察によれば、本種の虹彩はツキノワイトヒキベラに比べ黄色く見える(宮本の観察による)。
イトヒキベラの幼魚は体側の縦線の入り方が類似するが、本種は吻端に斑紋を欠き、尾柄部の黒斑も小さいか不明瞭であることで区別できる。

後記:本稿をまとめるにあたって、下の2枚の画像には悩みました。
 上の画像はRudie H. Kuiter の「Fairy & Rainbow Wrasse and Their Relatives - A Comprehensive Guide to Selected Labroids」p.39 (B)でクレナイイトヒキベラ幼魚として掲載されたものです。この画像は、鮮やかな体色から判断しクレナイとしてKuiter 氏に送ったものです。しかし、種々の幼魚画像が得られるに従い、細部の模様がイトヒキベラと一致することが分かりました。現在はイトヒキベラと考えています。
 下の画像にはつい最近まで迷っていました。この1枚だけを見ればクレナイに見えるのですが、上記クレナイの他の画像と全く繋がりません。イトヒキとするに
も無理があるように思います。この色彩の幼魚は同時にもう1個体観察され、単なる変異ではないようです。
では何なのか? 現在のところ分かりません。


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