LET'S STUDYING - 6(7)
 
 このセミナーは、BBSで話題になっている生物について、
  情報を提供し、会員の方からの質問を引き出し、さらにそれに
  答えていくものです。

魚類の性(SEXUALITY IN FISHES)

1.性が変わる 06/12/02
2.変わりやすいのか、変わりにくいのか(新しい時代)07/01/02
3.婚姻システムと性転換(発展期)07/09/02 
4.婚姻システムと性差(発展期2)08/17/02
5.婚姻システムと性差(拡大発展期)08/27/02             
6.婚姻システムと性差(変革期)09/26/02
A.ハナダイ類の産卵 10/11/02



7.クマノミ類の社会から 
 −1 ハマクマノミの社会          02/23/04
 −2 クマノミの社会            03/01/04
 −3 ハナビラクマノミの社会        05/13/04
 −4 イソギンチャク類とクマノミ類の関係  08/11/04

8.サイズと体色変化のヴァリエーション 予定
9.フグ目魚類の繁殖生態 予定
10.Dascyllus 属の社会 予定
11.ハゼ類の雌雄同体性と社会 予定

7.クマノミ類の社会から

関連BBS:

4.イソギンチャク類とクマノミ類の関係 08/11/04

ここでは、Fautin, D. G & G. R. Allen (1992) の ”Field Guide to Anemonefishes and their Host Sea Anemones" に基づいて、話を進めましょう。

1.クマノミにとっては止むに止まれぬ共生生活(obligated association)

 共生(symbiosis)とは異なる2種が一緒に生活するものを指します。時々、双方が共生から利益を得る相利共生(mutualism)と混同されていることがあります。共生という場合には、片方が利益を受けていなくとも、また、片方が損害を受けている場合でもそう呼ぶのです。

 共生から得る利益と、蒙る損害とがあります。勿論、何もない場合もあります。例えば、ウィルスを考えてみて下さい。人がウィルスに住み着かれたとき、ウィルスの種類によっては、人に甚大な被害を与えるもの(例えば肝炎など)、逆に免疫を与えるものもあり、さらに、なにも影響を及ぼさないものもあります。

 一方的に片方が利益を受け、相手側に損害を与える場合は寄生と呼んでいますね。

 さて、クマノミがイソギンチャクとの共生で利益を得ていることは勿論ですし、水槽以外では、クマノミはイソギンチャク無しで生活できません。クマノミにとってはイソギンチャクとの共生を余儀なくされているわけで、これを obligate association と呼んでいます。
クマノミ側から見た場合です。Symbiosis という用語は同居する2種を総体として見た場合に用いているのです。

 では、イソギンチャク側からするとどうなのでしょうか?クマノミと同居することによって何か利益を得ているのでしょうか?難しい問題です。クマノミ無しでも健康なイソギンチャクは居ます。しかし、野外でクマノミを除去すると一昼夜の内にポリプがごっそりと喰われてしまうと言うデータも数多くあります。イソギンチャクを守る役割を果たしていることはあるのでしょうが、それは捕食者が居ない場合には成り立ちませんね。

 余儀なくされているのは常にクマノミで側であって、イソギンチャクは環境次第と言うことなのでしょうか?皆さんはどう思いますか?

2.イソギンチャク類とクマノミ類の組み合わせ

クマノミ類とイソギンチャク類の共生では、様々な組み合わせが生じている。約2千種といわれるイソギンチャク類の内、クマノミ類と共生するのはわずかに10種である。サンゴイソギンチャクには13種のクマノミ類の共生例が知られているが、2種のイソギンチャクにはたった1種しか共生しない。クマノミ類の側からみると、クマノミのように10種全てのイソギンチャク類に共生するものもいれば、クマノミ類のおよそ1/3はある1種のイソギンチャクに住み、その他は数種のイソギンチャクと共生生活を行っている。

分布域が重なり、同じ住み場(砂地か、堅い底質か、浅場か、深場か)を好む者同士が共生するのは言うまでもありません。これらの組み合わせ可能なものの中から、ある特定の共生が生じています。

共生の場合、選ぶのはクマノミ側であることは予想できますね。しかし、イソギンチャクは相手を選べないのでしょうか?

これは実は大変に難しい問題です。一つは両者の分類にはややこしい問題があります。それを無視しても難しいところがあるのです。

分布域と住み場の好みという要因の他に、クマノミと宿主との組み合わせが決まるのに、次の3つの要因があるようです。

1) 好み(preference):クマノミ類は生まれつき、あるイソギンチャクを好む。あるいは、数種のイソギンチャクを試して、選んでいると言う「好み」に要因を求めるもの。
さらに、同じイソギンチャクでも、その場所を選ぶ傾向がある。例えば、レッド&ブラックA. melanopus はサンゴイソギンチャクでもサンゴ礁の頂上に絨毯状に拡がるコロニー(無性生殖によって増えたクローンの集団)を好むのに対し、ツーバンド A. biaculatus は礁斜面に単独で住んで居るサンゴイソギンチャクを好む。

2) 競合(competition):特定のイソギンチャクを好むクマノミ類同士は激しく競争し、その競争に勝った種が共生しているという種間競争の結果に要因を求めるもの。

3) 機会(chance):たまたま、そのイソギンチャクと出会ったという偶然性に要因を求めるもの。

イソギンチャクの刺胞毒が組み合わせを決める要因になっているということも考えられる。

3.刺胞毒とクマノミ

クマノミは刺胞毒を体表から分泌する粘液によって保護しているとすると、進化の過程で、ある特定のイソギンチャクに対する免疫性を持った粘液を作り出すようになったと考えられる。その場合、別のイソギンチャクにたどり着いて入った仔魚は死んでしまうだろう。実際、普段は住んでいないイソギンチャクに強制的に入れると死ぬ場合もある。

一部のクマノミ類の仔魚はイソギンチャクの出す化学物質に誘因されて宿主を探し出す。この場合、視覚による宿主の選択はないそうである。しかし、化学物質に誘引されないクマノミの種もいる。

どう刺胞毒から守るかと言うことは、どの宿主を選び、そしてそれをどう探し出すかと同様に、クマノミの種によって異なっているのかも知れない。

一方、クマノミはイソギンチャクの粘液で体を覆うことによって自分を守っているという説もある。そうだとすると、全く接触のない宿主にも適応可能である。事実、水槽の飼育例では、カリブ海(クマノミ類は分布しない)のイソギンチャクにも入る例が良く知られている。

刺胞毒から守っているのは、クマノミ自身の粘液なのか、イソギンチャクの粘液なのか、いずれにせよ、仔魚がイソギンチャクの化学物質に誘引されていると言うことは十分に考えられることである。化学物質を認知できるのは生まれつき備わった能力かも知れない。あるいは、生活史の初期に学習するのかも知れない。何故なら、クマノミはイソギンチャクの直ぐ側で発生し、ふ化するからだ。ふ化までの間に、宿主の化学物質を受け取って、刷り込みが起こるのかも知れないのである。サケが母川の匂いを覚えるのと同じように。

10種以上ものクマノミが住む例が知られているイソギンチャクは、我々が未だ知らない理由で好まれているのだろうと思う。強烈な匂いで引きつけるのか、あるいは、クマノミに別の利益を分け与えているのかも知れない。

イソギンチャク側から見てみると、クマノミから何か利益を得ていると言うことも考えられる。熱帯のサンゴイソギンチャクは空き家となっているものは皆無である。クマノミ無しでは生きていけないのである。このサンゴイソギンチャクは共生するクマノミの種が最も多い仲間であり、どこでもクマノミを受け入れることで生存を確かにしているのかも知れない。

しかし、1種のクマノミとしか共生しないイソギンチャク2種(Cryptodendrum adhaesium Heteractis malu* )が、最も宿主選択性が弱く、最も広く分布するクマノミ A. clarkii と共生する事実はどう考えればよいのだろうか?このイソギンチャク2種は、他のクマノミ類には居心地の悪い宿主なのだろうか?
一方、A. clarkii は、イソギンチャクを選り好みしないため、個体数も多く、分布範囲も広くなっているのだろう。

あるクマノミが特定のイソギンチャクを選ぶという事実は共生の組み合わせが限られていると言う事実を説明する上で何らかの理由を語っていると思われる。しかし、上に述べた要因以外に次の2つのことを考えることも大事である。

1)イソギンチャクを巡るクマノミ類の競争。一旦、イソギンチャクを得たクマノミは次に入ろうとする他種を追い払うのが一般である。しかし、空き家となっているイソギンチャクに別種同士が同時にたどり着いた場合には競争が起こる。この時、宿主への選択性が強い種はそうでもない種より競争には強いはずだ。選択性の強い種が競争に負けた場合は、隠れ家を完全に失う可能性があるあらだ。一方、選択性の弱い種は、負けても、別の宿主を探し出すことが可能だ。
しかし、次のような例もある。

2)競争に弱いと見られている種が、特定のクマノミに特に好まれるイソギンチャクに居るのが時々観察される。どうして、そのような同居が許されるのか?

*このイソギンチャクはハワイ諸島にも分布しているが、クマノミ類はハワイには分布しない。

4.揺りかごイソギンチャク(nursery anemones)

Heteractis aurora H. malu に成熟したペアが入っていることは滅多にない。おそらく、あるサイズまではクマノミは共生し、成長することができるが、大きなグループの同居は何かの理由で不適なのだろう。それで揺りかごイソギンチャクと呼んでいる。また、一時的な住み場として利用されているのかも知れない。

5.黒化現象

クマノミの通常オレンジ色の部分が黒ずむ現象が知られている。この黒化現象には、3つのタイプがある。成長に伴い段々に黒くなるもの。ある孤立した特定の水域(例:小笠原)の個体群が皆、黒いもの。特定のイソギンチャクに入ると黒くなるもの。

3番目の例は、イソギンチャクがクマノミに影響を与えている例である。オレンジフィン A. chrysopterus は アラビアハタゴ S. mertensii に 、トウアカ A. polynemus は シライト H.crispa に入っていると黒くなる。

6.タマイタダキイソギンチャク?

サンゴイソギンチャクはクマノミが入っていると触手の先がボール状に膨らむが、クマノミが入っていない時には膨らまない。しかし、そのイソギンチャクにクマノミを移すと、数分でボール状に膨らむ。逆を行うと、膨らみが消えるのには時間が掛かる。先端が膨らんだ標本は、しばしば、タマイタダキイソギンチャクと同定されてきた。それ以外の形質には差がないのである。先端が膨らむと、表面積が大きくなり、太陽光を十分に吸収でき、褐虫藻が光合成を行うには都合が良くなるだろう。しかし、クマノミが入ると何故膨らむのか?その理由はさっぱり分からない。

7.口の中まで

紅海では、ツーバンド A. bicinctus がサンゴイソギンチャクの中に飛び込んだ後、幾ら探しても、触手の間に魚が見つからないことがあるという。パプア・ニューギアで、トウアカがイボハタゴ S. haddoni の口の中に入ったのを目撃した。追いかけると、何時も口の中へ飛び込むとは限らない。この行動も謎である。




謎の多い共生生活ですね。この本が出てから、すでに10年以上経ちました。
新しい知見も出ています。追々、追加していきたいと思いますので、宜しく。

話題 
 クマノミガイドブックの読者からのハガキの中に、「おやっ?」というニュースが入っていた。山村哲一さんという方からのハガキで、「ティレズ・アネモネフィッシュとハナビラクマノミが同じイソギンチャクに入っていた」というものだった。
この写真は、山村さんのHPに掲載されています。
「ダイビング魂」
『ダイビング』→『ドゥマゲッティ』にあります。

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