LET'S WATCHING


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 まず、お手本ではないのですが、余吾のフィールドノートより、オキゴンベを例にして、ゴンベ・ウオッチングの紹介をします。成果は出ていないので、論文にもしていません。が、その話の中で、何か参考になればと思います。次のような順序で進めたいと思いますので、宜しく、お付き合いください。

1)オキゴンベとの出逢い
2)オキゴンベの何を知りたい?
3)地図作りを始めたら
4)産卵。一夫一妻?
5)消えたゴンベ

オキゴンベ編  余吾 豊
(文・写真・図)

1)オキゴンベとの出逢い

図1.産卵が間近いオキゴンベ。左がメス、右がオス。メスの腹部は熟卵ではち切れそうになっている。オスの方が大きく、やや色がくすんでいる。後ろに見えるのは、沈んだ養殖イケスの鉄枠。
 鹿児島県川辺郡坊津町。1987年8月2日。18:50 

 1983年から88年にかけて、坊津の海をフィールドにしていた。最初は、魚類相(特にベラ科)とヨソギ、キタマクラを調べる目的で、通っていた。坊津は湾が深く入り込んでおり、季節風に強く、岸からエントリーできるのが魅力だった。
 最初にオキゴンベを見たのは85年の8月だった。荒所という場所でヨソギの採集をしていると、視野のへりで何かがしきりに動いているような気がした。「何だろう?」と思ってみると、オレンジ色のゴンベが岩の上にいる。図鑑では知っていたが、実物は初めてだった。しきりに飛び跳ね、ちょこんと止まると、胸鰭を左右に拡げて座り、背鰭をピンと立てる、背鰭棘の先の皮弁が実に可愛い。目が良く動き、こちらを興味津々と言う感じで見つめている。
 「キタマクラとヨソギは性転換しているのではないか?」というある人の話を聞いて調べていたが、どうもその可能性は低く、別の魚を欲しいと思っていた時だった。オキゴンベは東海大の鈴木克美さんグループが水槽で産卵を確認し、雌雄同体であることも発表していたが、フィールド研究は全くなかった。良い魚に会ったと思った。
 翌日で調査を切り上げる予定だったので、その日は採集を止め、付近を泳ぎ回って、オキゴンベがどれくらい住んでいて、どんなサイズのものが居るのか、個体識別は可能か等をざっと調べた。そうすると、テニスコート4面ほどの範囲に、9個体が見つかった。余り小さな個体は居なくて、全長8センチから15センチくらいのものばかりだということ。また、マーク(標識)を付けなくても個体識別は可能だと言うことが分かった。次の日に、水中ノート(注1)を用意し、簡単な地図を書いて、およその場所、体の大きさ、特徴などを地図の中に書き入れた。この作業をしていて、どうも大小のペアが出来ていて、大きい方がオスなのではないかと言う気がした。この場所は良いフィールドになりそうだったので、今後の観察を考えて、サンプル(標本)はまだ採らなかった。
 良いフィールドというのは、海岸までは急な坂なのだけど、駐車場から近いこと、浅く長時間観察が可能なこと、岸から近いこと、内湾で水が少し濁っているためダイバーが少ない等の理由だった。
 調査から戻って、オキゴンベの文献などを調べていると、居残り調査をしていた卒論生がにこにこしながら、「お土産です」とオキゴンベ5尾のホルマリン標本を持ってきた。「これから調べようと思ってたのに、なんちゅうことをするんや!」と怒ったが、後の祭り。せっかくの標本だから、生殖腺を取りだして、性、成熟度、雌雄同体(注2)かどうか調べることにした。生殖腺をパラフィンの中に埋めて固め、その後に、ごく薄く(0.005ミリ程)スライスして、内部を調べる方法です。

 これから、坊津はオキゴンベを中心にした調査基地となりました。翌年は動きがとれず、87年春に坊津に出かけました。以下、次号。


注1:水中ノートは色々なものがありますが、今は、製図用のマイラー紙と言うのを使っています。これは、手差しでコピーでき、とても丈夫です。鉛筆で書けます。
注2:雌雄同体というのは、1個体の体の中に卵と精子の両方が表れることを意味します。両方が同時に表れる場合もあるし、別々の時期に出来ることもあります。

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