FIELD NOTE No.5

FIELD REPORT はあるテーマに添って長期観察したレポートですが、このコーナーはある日の出会いといったものを出していただいています。たった一回の観察だからなんて思わずにどうぞお寄せ下さい。あるちょっとした出会いから発展していくことも多いと思います。

謎のシートー2 石田根吉 09/03/04
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 謎のシート 石田 根吉 07/07/03

さて、以前にキアンコウとみられる卵帯を採集された石田さんが、再びよく似た卵帯を採集し、ふ化まで追跡しました。


8月23日、富戸脇の浜の水深8mの砂地水底のミルに写真の様な卵帯がミルに引っ掛かって揺れていました。幅20cm程度、長さ2.5m程度(僕の身長より遥かに長かった)のかなり大きなものでした。

季節は合わないのですが、「キアンコウの卵の再来か?」

と思った程です。この卵嚢はキタマクラに食われまくっていました。そこで、キタマクラのおこぼれの「はぎれ」を頂いてきました。

発生経過の写真を順を追って簡単に説明します。水槽温度は25℃。

・発見した時

 シートの水中での写真です。ゆらゆら揺れるのでなかなか平らにはならないのですが、卵が並んでいるのが肉眼でもよく分かりました。卵、卵嚢の造りはキアンコウそっくりでした。

・採取後1.5時間後。 kasago-1

 卵一つ一つは5〜6角形に仕切られた部屋に収まっているのが分かります。これは以前見たキアンコウの卵帯の場合と同じでした。

・採取後15時間(半日)写真 040822-2

 卵を取り囲むように白い胚が育っているのが分かりました。

・採取後15時間 040822-3

採取後15時間の段階で、定規の上に卵を載せて卵径を測定しました。およそ0.7〜0.8mmでした。

・採取後29時間(1日) 040822-4

 胚がかなり太ってきた様子。前回のキアンコウは、敢えて言えばこのステージではなかったかと思われます。

・採取後40時間(1日半) 040822-5

 尾ビレの部分は既に卵膜を突き破っているように見えました。既にこの段階では激しく動いていました。しかし、卵嚢の部屋の中にはまだ納まってました。この段階で眼と黒い色素胞がはっきりしてきました。

・採取後53時間(2日) 040822-6

 仔魚は完全にハッチアウト(?)した状態ではあるが、まだ小部屋の中からは出られてはいませんでした。この頃には、シート状の卵嚢はかなり弾力を失い、バラけて来た様子でした。

・採取後63時間(2日半) kasago-3

卵嚢から出て水面を泳ぐ仔魚が多く出て来ました。卵嚢はこの頃にはかなりゼリー状になりました。

・採取後76時間(3日) 040822-7

全ての仔魚は卵嚢を出ました。と言うよりも卵嚢の小部屋が溶けたような形になったらしく、死卵(写真中、白く映っているもの)も水面に漂っていました。この時まで卵嚢は水面近くに浮いていたのですが、この時には抜け殻となって水底に沈んでしまっていました。



石田さんのコメント

後の発生の速度を考えると、囲卵腔が明瞭になった発見時は、受精後して間もないのではないかと思えました。卵帯を見つけたのが午後4時頃ですから、もしそうならば、産卵はその日の日中に行われたことになります。

この時期に凝集浮性卵を産むのは、ミノカサゴやオニカサゴの仲間かと思われるのですが、それにしては卵嚢が大きすぎるように思えます。
また、彼らは夕刻から夜に産卵する筈ですので、お昼頃(?)の産卵なんて奇妙です。

この特徴的な斑紋、卵黄の形などから、これが何の仔魚か分かる手掛かりはないでしょうか。

ちなみに、この仔魚はこれから1日を経ずしてすべて死滅してしまいました。どうやら、卵帯を出来るだけ早い内に除いてやることが必要だったようです。水は毎日半量ずつ替えていたのですが、途中からちょっと妙な匂いがするようになりました。卵帯に由来する腐敗臭と言う感じです。
ちょっと申し訳ない思いです。

以上です。
こうして見ると、やはり昨年の謎のシートとは別物の様な気がするのですがいかがでしょうか。


事務局より:
卵帯の大きさや、卵の並び方は同じように見えますが、卵径や色素胞などが違い、キアンコウとは別種だろうと考えられます。

ゼラチン質の袋や帯に囲まれる、あるいは互いに粘着する卵は凝集浮性卵と呼ばれ、卵のまとまり方やゼラチン質の形状から卵帯、卵嚢、卵塊と分類されます。
卵帯:アンコウ科、イザリウオ科
卵嚢:フサカサゴ科の一部(ミノカサゴなど)
卵塊:不明種が多い(稚魚図鑑にはハナビヌメリが挙げられている)

イザリウオの仲間かなとも考えましたが、稚魚図鑑を読むと、卵帯の大きさや油球を欠くという点で違うのかなとも感じました。

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