AUNJ-WORKSHOP


ワークショップ 2「紛らわしい魚達」

このコーナーは、みんなで作り上げていく新しいコーナー です。

 2−9.キンセンイシモチ類 09/17/04 開始

09/22/04 石田さんの追加観察結果

11/04/04  仮屋さんからの田辺情報
11/10/04 展開あり
11/11/04
 原さんのIOPからの関連情報


関連BBS:2288,2289, 2293,2303-06,2326,2328-32



09/17/04
石田さんよりメールと写真が届きました。「紛らわしい魚」にピッタリの材料なので、紹介します。

「衣布利 黒潮の魚」という図鑑を見ていたら、キンセンイシモチについて次の様な記述がありました。

 「本種には、鰓蓋から腹部にかけての白色縦線が破線状になる“ドット型”と、その線が細く実線状である“ライン型”が存在する」

何々? と思わず身を乗り出してしまいました。キンセンイシモチに2通りのパターンが有るらしいと聞いた事はありましたが、本に記述されてあるのを見たのは初めてでした。図鑑には更に

 「両者は体中央の橙黄色縦線が尾鰭後端まで達する(ドット型)、尾柄部付近で止まる(ライン型)と言う点でも区別できる」

とあります。(1cm 余りの幼魚から成魚まで両者の写真も掲載されています。
全て平田さんの撮影なのですが、いつもながら凄い!)

 また、これらは、分布にも違いが有るらしく、

 「ドット型は主に伊豆から九州にかけて分布する」
 「ライン型は主に高知県から沖縄にかけて分布し」

なのだそうで、更に、これらは、「別種である可能性が強い」

のだそうです。もう、これだけで僕の頭の中は「どうなってるの?」で一杯です。

 まず、上記の分布が正しければ、高知から九州にかけてはドット型とライン型が共存しているという事ですよね。そうならば、同じ群れの中にドットもラインも混在しているのでしょうか。それとも、同じ海域でも環境によって住み分けているのでしょうか。

 さて、伊豆では本当にドットが多いのかを先日から注意して調べ始めました。
確かに成魚はドットばかりに見えます(kinsen-1)。

成魚: 2004/09/12、水深8m、岩場、水温25℃、全長約6〜7cm

ところが、岩場で集っている幼魚を見ると、「これはラインじゃないのかな?」と思える個体が多く見られます(kinsen-2)。

幼魚: 2004/09/12、水深6m、岩場と砂地の境、水温25℃、全長約3〜4cm

頬の下のラインは微妙に繋がっているように見えますし、尾ビレに黄色ラインは達していないのでライン幼魚だと思うのですが、それでいいのでしょうか。もし、そうならばこれらは南から流れて来たと考えるのが妥当なのでしょうか。



事務局より:1993年に、キンセンイシモチとアカホシキンセンイチモチとが区別されましたが、その後、
キンセンイシモチがさらに2種に分かれるのではないかという検討がなされています。

ここでは、分類を検討すると言うより、幼魚の出現、2タイプの幼魚が混在する地域、そこでは幼期から2タイプが別々に暮らしているか?、成魚は交雑?しないのか?等の生態面について、各地域からの情報を寄せていただければ嬉しいです。

観察しやすい魚ですし、見分けの付けやすい斑紋ですので、色んな情報が集まるのではと期待しています。
伊豆諸島、本州太平洋岸、四国、九州、沖縄などで、アカホシキンセンも交えて、情報交換していきましょう。

長崎県での僕の観察では、オオスジイシモチ、コスジイシモチの幼魚が同じ群れに混じります。オオスジとコスジの幼魚はよく似ています。また、イサキの幼魚もパターンが似ており、時々、混じっています。さて、このキンセン達はどうなのでしょうか?

以布利「黒潮の魚」は高知県土佐清水市以布利の魚を海遊館と高知大学・京都大学が調査し、まとめたものです。発行は、大阪海遊館。ISBN4-931418-04-X (税込み6000円)
・09/20/04 【2289】平田さんより

キンセンの2タイプについては
2003年の魚類額雑誌50(3):293-296
「Genetic comparison of two color-morphs of Apogon properuptus from southern Japan」
馬渕浩司・奥田昇・小北智之・西田睦
において、ミトコンドリアDNAの比較などにより独立した2種であるとされました。
馬渕君は「以布利・黒潮の魚」の著者の一人です。

紛らわしい魚の石田さんの2枚目の写真につきましては、ライン型の頬の縦線も角度によってこの写真のようにやや途切れて写ることがしばしばあります。
ドット型の途切れ方は1枚目の写真のように点状ではっきりしています。
加えて尾鰭のラインを欠く事も考え合わせると、ライン型だと思います。
これまで、ライン型が撮影された年はありますでしょうか?

先の画像のように尾鰭にラインが無ければライン型の可能性が高いのですが、
あるからといってドット型とは判断出来ません。
こちらで見られるライン型の3cm TL前後の個体には尾鰭のラインが見られることが多いので、これだけで判断することは難しいと思います。
ライン型・ドット型という仮称はあくまで頬の縦線から来たものです。

事務局より:この論文では2者が別種であることは明らかにしていますが、学名はまだ検討中で、和名も与えられていません。



・09/22/04 石田さんの追加観察結果です。

> これまで、ライン型が撮影された年はありますでしょうか?

 過去の写真を見直してみると、キンセンの成魚はドットばかりでした。
ただ、残念ながら、幼魚の記録はありませんでした。

 富戸のダイビングエリア内におけるテンジクダイの仲間の個体数はおおよそ次のような状態です。

 クロホシイシモチ >> ネンブツダイ >>オオスジイシモチ > コスジイシモチ≧キンセンイシモチ >>クロイシモチの順になると考えています。

 キンセンイシモチは決して多くは居ないのですが、夏には繁殖行動もしっかり確認することができます。

 さて、9月のこの時期には完全に繁殖期は終了しているらしく、確認できたのはすべて単独個体で、その数も5〜6匹に過ぎませんでした。これらはすべてドット型で、尾鰭の縦線もはっきり確認できました。

 一方、幼魚の群れは岩や海藻の陰に幾つも見つけることが出来ました。その殆どが現在全長3cmサイズです。そして、それらの90%以上はドット型でした(kinsen-3)。ドット幼魚はこの段階でも点々が肉眼でも確認することができますし、何よりも尾鰭の黄色縦線が太くはっきりしている様に見えました。水中の肉眼ではやや赤みを帯びて感じられました。

 しかし、ドットのみ100%という幼魚の群れは見つけられませんでした。30〜50匹程度のドットの中に必ず数匹のライン個体が混じっていたのです。これらのライン個体も、厳密に分ければ2通りあるように見えました。一つは、明瞭なライン型(kinsen-4)。但し、平田さんのコメントにもあるように、この写真の個体は尾鰭への黄色縦線が細いながらも認められます。ただし、ドット型に比べるとその線はかなり細いように見えました。

 もう一つは、前回の写真でお送りしたように、途切れ気味のライン型(kinsen-5)です。これは、見る角度によって途切れ気味になると言うより、このような斑紋なのだと思います。また、この個体の場合は、尾鰭の縦線は殆ど分かりません。但し、ラインと尾鰭縦線の関係はまだ十分に調べていません。

 また、2箇所だけですが、「ライン幼魚の群れ」も見つけました。15匹と30匹程度の集まりですが、その殆どがライン型で、その中に2〜3匹のドット型が混じっているという構成でした。以上の結果は、キンセン幼魚の群れには必ずマジョリティーが存在することを示唆しているように思います。
つまり、ラインはライン同士、ドットはドット同士で集ろうとする傾向があるのではないでしょうか。

 これらのキンセンの群れに混じっている多種の幼魚の中で多いのは、オオスジイシモチ(或いはコスジイシモチ)の同サイズ、或いはクロホシイシモチの幼魚でした。

 更に、オオスジやコスジの幼魚の群れにキンセンの幼魚が少数混じっている例もありました。この場合も、混入個体にはドット型とライン型の両者がいました。

 さて、秋から冬に向けて、これらの群れの構成はどの様に変化していくのでしょうか。富戸の海の普通種でこんなにも遊べるなんて、文字通り「金銭に代えがたい」楽しみなのでした。

(写真の kinsen3〜5 は、2004/09/18、富戸・ヨコバマ、水深12m、岩場と砂地の境、水温25℃、個体の全長3cm)

事務局より:東伊豆で繁殖しているのはドット型だけのようですね。だとすると、2者の幼魚はふるさとが大きく異なる可能性があります。幼魚の出現割合が色んな場所で継続的に記録されていくと良いなあと思います。



・11/04/04 仮屋さんの田辺からの関連情報です。

先日から話題になっていたキンセンイシモチの画像をお送りします。

田辺では、ライン型とドット型、両方見られます。
夏にはどちらも繁殖しています。
以下の4枚の写真はいずれも2004年11月1日に撮影。水深17m、水温23℃。


kinsenline.jpg ライン型 7〜8 cm TL
 
kinsendot.jpg ドット型 7〜8 cm TL

kinsenyg.jpg 幼魚 3cm TL どっちか分かりません。

田辺では両種が混在しています。
また、オオスジイシモチやクロホシイシモチも混在。


kinsenque.jpg 7〜8 cm TL

kinsenque.jpgのお腹の辺りから白い物が出ています。
この個体以外にも、2個体同じような物を出しているのがいました。
コレは何ですか?
仮屋 伸一(かりや のぶかず)



事務局より:嬉しい情報ですね。
kinsenyg.jpg:ライン型だと思います。皆さんは如何でしょう?
kinsenque.jpg:うーん、糞にしては色が変かな?

11/10/04 展開あり
平田さんより 【BBS 2328 】
仮屋さん撮影の「kinsenyg.jpg 幼魚 3cm」はライン型だと思います。
尾柄部のあたりがぼてっと黄色いのが特徴です。

「kinsenque.jpg 7〜8cm」の白いものは寄生虫ではないでしょうか?
もっと長いものが多いですが、クロホシイシモチで良く見られます。
アップで撮影するとゴカイのような体節が観察出来るかもしれません。

石田さんより 【BBS 2329 】
ラインとドットでは、特に3cmサイズの幼魚の段階では体色が微妙に違うように僕は感じます。ラインの方が「少し明るいレモン色」という風に僕には見えるのです。それは、「ぼてっと黄色」と同じかな?

ちなみに、富戸のキンセンイシモチは、幼魚の全長が4〜5cm程度に成長して来ると共に、群れがバラけ始めました。中には単独生活を始めたライン個体も居ます(ドットの独居も勿論居ます)。

成長と共にラインとドットの棲み分けが始まるのかなと期待して見ているのですが、今のところ、

 「22m以深では、ライン幼魚の割合がかなり多くなる(ドットよりずっと多い)」

という傾向がありそうです。でも、富戸には深い岩場環境が少ないので、これが一般的傾向なのか偶然の結果なのかはまだ分かりません。水温が低下するこれから本格的な「ふるい分け」が始まるのでしょう。

また、白く垂れ下がったものは僕もクロホシイシモチでよく見ます。僕は、あれは脱腸なのかなと思っていました。今度もっとよく見てみます。



・11/11/04 原さんのIOPからの関連情報です。

IOPでは、瓜生さんの感覚では約1割がライン型というところのようです。幼魚・成魚の群れを見ると、大抵1〜2個体のライン型が混じってますので、おおよそそんな感じかな・・・・と、僕も思っています。成魚になると、じっくり見ないと分からないので、最近はあまりよく見ていませんが、幼魚はひと目でライン型
が分かります。この前の日曜日も水深12mぐらいの岩場に、20個体ぐらいの幼魚が群れていたので、ちょっと見ていたら尾柄部のあたりが妙に黄色い個体が2個体ほど目立ったので、写真を撮ってきました。サイズは 2.5 〜 3 cm TL というところでしょうか。


line2.jpg 11/07/04 IOP

このサイズだと、前から来るラインが尾柄部でスプーン状に丸くなるので、ちょっと目でも黄色が目立ちます。同じ黄色でもドット型より、濃くて鮮やかな黄色という感じです。なお、ドット型もライン型も同じ群れにいた個体です。

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