AUNJ WORKSHOP−7

AUNJ冬のセミナーでのポスター発表をこの場で
紹介し、皆さんの反応をまとめます。

7-1スズメダイ類とサンゴ、海藻の関係 会員全体 12/08/06 開始
7-2:スジハナダイの産卵 平山 昌 工事中
7-3:ウマヅラハギがやってきた 塚本ひとみ 工事中
7-4:水中でのホンダワラ類の見分け方 新井章吾・余吾 豊 工事中
7-5:ハレムのように見えるが、そうではない社会 門田 立・余吾 豊
  
 12/09/06 開始



7-1「スズメダイ類とサンゴ、海藻の関係」 12/08/06 開始

1)スズメダイ類の採食縄張りと海藻の生育 12/08/06 開始
 BBSでの関連意見をまとめたものです。結構、事前学習をしていたのですね。
2)白保の礁池における海藻、スズメダイ類、その他の藻食魚、堆泥、サンゴの関 係 新井章吾 12/09/06
3)畑さんの論文 工事中  
 関連記事:
アマモを見てみよう(魚類によるアマモの採食)
     
魚類による海藻の採食


1)スズメダイ類の採食縄張りと海藻の生育(フォーラム形式で進めます)

BBS 2722 新井章吾

 余吾さん、みなさん こんにちは。

 11月末に東京で藻場調査の会議が決まったのと海藻の畑に関する話題が出
ているので、セミナーに参加したくなりました。余吾さん手続きよろしくお
願いします。

 魚類関係の知り合いも多いですが、性転換と分類の話題だけで盛り上がっ
ていると、つい引いてしまいます。魚類の種分化にも、摂餌行動や住み場環
境が影響しているはずですが、こちらも重要なのに、興味を持っている人の
割合が少ないように感じています。

> > 畑さんの研究によると、栽培されるイトグサ類は一種類(単作)で、も
> > しクロソラスズメダイが競争関係にある藻類を駆除しないと、餌とな
> > るイトグサ類は生育できない・・・ということから「双利共生関係」
> > にあることが確認できたのが、新知見と言えそうです。

 胃内容物にイトグサ属が含まれていたのか?
イトグサ属は腸に到達した時点で消化されていたのか?
(消化されず、海藻の細胞を生きたまま糞として放出する分類群もある)
イトグサ属が胃の中にあったとしても、着生藻の珪藻や藍藻が餌ではない
のか?

 ということを確認してあるのか、興味があります。

 石垣の白保などで、不定期に10年以上海藻の畑の形成と衰退を眺めていま
すが、スズメダイ類はイトグサ属を含む糸状の紅藻を直接採食せず、それら
の藻体に着生して繁殖する藍藻や珪藻を採食するのかと思っていました。採
食行動に関しては詳しく見ていないので、私の思いこみの可能性があります
。共同研究の機会があれば、胃内容物を見てみたいです。

 エダサンゴが比較的広い面積でが白化すると、スズメダイが侵入してきた
場所では、緑藻のPercursariaペルクサリア属(同定ミスの可能性もあり。
アオノリ属の幼体に似るが中空にならない)、細いイトグサ属、太いイトグ
サ属、細いテングサモドキ属(日本新産か未記載種かも)、少し幅の広いテ
ングサモドキ属(日本新産か未記載種かも)、コーラルフィクス属(日本新
産の属かな?)の順に遷移が進行します。

 コーラルフィクス属まで遷移が進行し、近くに新しく白化したエダサンゴ
があると、スズメダイ類はそれまでの畑を見捨てて、そこに移り住みます。
その結果、コーラルフィクス属も藻食魚に採食され、無節サンゴモ群落に退
行的に遷移します。

 ということで、言葉の定義の問題がありますが、双利共生関係とは少し違
うと思います。

 一方、面積が狭いか既存のスズメダイの住み場から離れているようなとこ
ろでは、スズメダイにアタックされず、アイゴ属などの藻食魚がすべての直
立海藻を採食してしまうため、無節サンゴモが優占してきます。

> 「畑」と言うからには、それなりの根拠を示す必要があります。
> 既に「畑」という概念が一人歩きしているような気がするのですが。

 私も同様に考えます。もう少し長いタイムスケールでの観察が必要と思い
ます。

> 残念ながら今度のセミナーには海藻に詳しい方の参加がありません。
> 新井さんに尋ねてみたいのですが、海藻も何時も何時も胞子を出してい
> るわけではありません。胞子から配偶体(オスとメスの配偶子を作る)
> というものが出来て、そこで受精し、新しい個体が産まれるのですが、
> 繁殖には季節性と言うものがあるはずで、何時でも胞子があるという訳
> でもないでしょう。

 遷移初期種のアオノリ属、アオサ属、イトグサ属の一部などはピークの時
期はありますが、周年成熟しています。それにもかかわらず、それらの種類
が夏〜秋の高水温期に少ないのは、この時期に藻食魚を含めた藻食動物の採
食活性が高いからだと考えています。たとえば、この時期に着生と遊離して
いるアオサ属の現存量は最低になりますが、採食にさらされない生け簀で飼
育すると高水温期の方が生長がよいことが分かっています。なんと1日で倍
近い面積になります。

> その辺をどう捉えるのか?その応えも疑問も無いように感じました。
> また、スズメダイが喰う以上は共生とは言えないでしょう。

> また、栽培共生というのは初めて聞く言葉ですが、これも変ですね。
> 何故なら、種を播くわけでもないのに栽培と言うこと自体がおかしいの
> です。そこには偶然性があるはずなのに、無理やりこじつけているよう
> な気がするのは僕だけでしょうか?

> 人間よりも以前に栽培を行っていた生物が居るという表現はとてもセン
> セーショナルですが、なんてことはないと思います。幾らでもそう言う
> 例はあります。但し、人が行ったことと生物が行ったことを同列には論
> じにくいと言うことを忘れてはならないでしょう。

> センセーショナルな扱いはマスメディアの責任でしょう。僕たちは少し
> 奥に引っ込んで,「そうなのかしら?」と思う態度をとりたいなと思うの
> ですが、如何でしょう?
> うるさく、こだわる余吾でした。

 そう思います。発表内容が事実であってもなくても、矛盾を感じさせない
用語の選択や論旨の展開が必要でしょう。この作業をしている最中に、新し
い解釈の仕方や仮説を思いつくことがあります。
------------------------------------------------------------
BBS 2723 余吾 豊

新井さん

> 11月末に東京で藻場調査の会議が決まったのと海藻の畑に関する話題が出
> ているので、セミナーに参加したくなりました。余吾さん手続きよろしくお
> 願いします。

 歓迎します。

> 魚類関係の知り合いも多いですが、性転換と分類の話題だけで盛り上がっ
> ていると、つい引いてしまいます。魚類の種分化にも、摂餌行動や住み場環
> 境が影響しているはずですが、こちらも重要なのに、興味を持っている人の
> 割合が少ないように感じています。

 少ないのはこの場だけでなく、魚類学会でも、動物行動学会でも同様です。
とても難しい問題だからです。観察だけではデータを得にくいテーマで、どう
しても採集して胃内容や歯の構造などを調べる必要があります。魚類の消化速
度や消化酵素も調べなくてはならず、手を付けにくい分野ですね。アマチュア
の方は勿論、もっと大きな障害に当たり、それは新井さんもご理解できるだろ
うと思います。

> > > 畑さんの研究によると、栽培されるイトグサ類は一種類(単作)で、も
> > > しクロソラスズメダイが競争関係にある藻類を駆除しないと、餌とな
> > > るイトグサ類は生育できない・・・ということから「双利共生関係」
> > > にあることが確認できたのが、新知見と言えそうです。

> 胃内容物にイトグサ属が含まれていたのか?
> イトグサ属は腸に到達した時点で消化されていたのか?
> (消化されず、海藻の細胞を生きたまま糞として放出する分類群もある)
> イトグサ属が胃の中にあったとしても、着生藻の珪藻や藍藻が餌ではない
> のか?ということを確認してあるのか、興味があります。

 どうでしょうか?魚類学者は海藻のことを殆ど理解していません。
僕も同じですが、藻場のことを調べていた時期があるので、少しですが慎重
に考えるようになっています。海藻の毒性についても同様に慎重に考えてい
ます。カワハギ類等が卵保護をしないことを産卵基質となる海藻の毒性に委
ねるのは余りに軽々しいことではないかと思うのです。これは以前に新井さ
んにお尋ねしたことがありますね。

> 石垣の白保などで、不定期に10年以上海藻の畑の形成と衰退を眺めていま
> すが、スズメダイ類はイトグサ属を含む糸状の紅藻を直接採食せず、それら
> の藻体に着生して繁殖する藍藻や珪藻を採食するのかと思っていました。採
> 食行動に関しては詳しく見ていないので、私の思いこみの可能性があります
> 。共同研究の機会があれば、胃内容物を見てみたいです。

 是非、そうした機会を作っていただければ良いなと思います。
幸い、今度、参加される桑村哲生さんは、今、石垣島や渡嘉敷島でブダ
イ類の採食のことを調べられています。主にハマサンゴ類の死んだ部分
に生育する藻類への採食を研究されています。生きたサンゴ部分を食べ
ないのです。
 そう言うこともあって、海藻の研究者が今度メンバーにいないのを残念
に思っていたところです。

> エダサンゴが比較的広い面積でが白化すると、スズメダイが侵入してきた
> 場所では、緑藻のPercursariaペルクサリア属(同定ミスの可能性もあり。
> アオノリ属の幼体に似るが中空にならない)、細いイトグサ属、太いイトグ
> サ属、細いテングサモドキ属(日本新産か未記載種かも)、少し幅の広いテ
> ングサモドキ属(日本新産か未記載種かも)、コーラルフィクス属(日本新
> 産の属かな?)の順に遷移が進行します。

> コーラルフィクス属まで遷移が進行し、近くに新しく白化したエダサンゴ
> があると、スズメダイ類はそれまでの畑を見捨てて、そこに移り住みます。
> その結果、コーラルフィクス属も藻食魚に採食され、無節サンゴモ群落に退
> 行的に遷移します。ということで、言葉の定義の問題がありますが、双利共
> 生関係とは少し違うと思います。

 これらは新鮮な知見ですね。有り難うございます。

> 一方、面積が狭いか既存のスズメダイの住み場から離れているようなとこ
> ろでは、スズメダイにアタックされず、アイゴ属などの藻食魚がすべての直
> 立海藻を採食してしまうため、無節サンゴモが優占してきます。

> > 「畑」と言うからには、それなりの根拠を示す必要があります。
> > 既に「畑」という概念が一人歩きしているような気がするのですが(余吾)。

> 私も同様に考えます。もう少し長いタイムスケールでの観察が必要と思い
> ます。

> > 残念ながら今度のセミナーには海藻に詳しい方の参加がありません。
> > 新井さんに尋ねてみたいのですが、海藻も何時も何時も胞子を出してい
> > るわけではありません。胞子から配偶体(オスとメスの配偶子を作る)
> > というものが出来て、そこで受精し、新しい個体が産まれるのですが、
> > 繁殖には季節性と言うものがあるはずで、何時でも胞子があるという訳
> > でもないでしょう。

> 遷移初期種のアオノリ属、アオサ属、イトグサ属の一部などはピークの時
> 期はありますが、周年成熟しています。それにもかかわらず、それらの種類
> が夏〜秋の高水温期に少ないのは、この時期に藻食魚を含めた藻食動物の採
> 食活性が高いからだと考えています。たとえば、この時期に着生と遊離して
> いるアオサ属の現存量は最低になりますが、採食にさらされない生け簀で飼
> 育すると高水温期の方が生長がよいことが分かっています。なんと1日で倍
> 近い面積になります。

> その辺をどう捉えるのか?その応えも疑問も無いように感じました。
> また、スズメダイが喰う以上は共生とは言えないでしょう。

> また、栽培共生というのは初めて聞く言葉ですが、これも変ですね。
> 偶然性があるはずなのに、無理やりこじつけているよう
> な気がするのは僕だけでしょうか?

> > 人間よりも以前に栽培を行っていた生物が居るという表現はとてもセン
> > セーショナルですが、なんてことはないと思います。幾らでもそう言う
> > 例はあります。但し、人が行ったことと生物が行ったことを同列には論
> じにくいと言うことを忘れてはならないでしょう。

> センセーショナルな扱いはマスメディアの責任でしょう。僕たちは少し
> 奥に引っ込んで,「そうなのかしら?」と思う態度をとりたいなと思う
> のですが、如何でしょう?

> そう思います。発表内容が事実であってもなくても、矛盾を感じさせない
> 用語の選択や論旨の展開が必要でしょう。この作業をしている最中
> に、新しい解釈の仕方や仮説を思いつくことがあります。

新井さんの参加を心から歓迎します。プログラム案を送っておきます。
------------------------------------------------------------

BBS 2728 原 多加志

新井先生、みなさん、こんにちは。

> 胃内容物にイトグサ属が含まれていたのか?
> イトグサ属は腸に到達した時点で消化されていたのか?
> (消化されず、海藻の細胞を生きたまま糞として放出する分類群も
> ある) イトグサ属が胃の中にあったとしても、着生藻の珪藻や藍藻
> が餌ではないのか?

 素人のことで、正確に読み取っている自信はないのですが、胃内容物の調
査はもちろん行われているそうです。消化もされていて、調査地点のクロソ
ラスズメダイが栽培していると思われるイトグサ類は、他の藻類に較べてか
なり消化率が高いということも報告されていました。詳しくは畑さんごへ本
人の書かれたリポートが手元にありますので、よろしければメール添付でお
送りします。

> すが、スズメダイ類はイトグサ属を含む糸状の紅藻を直接採食せ
> ず、それらの藻体に着生して繁殖する藍藻や珪藻を採食するのかと
> 思っていました。採食行動に関しては詳しく見ていないので、私の
> 思いこみの可能性があります

 海藻を直接栄養源としていない可能性もあるのですね。それは考えもしま
せんでした。

> エダサンゴが比較的広い面積でが白化すると、スズメダイが侵入し
> てきた場所では、緑藻のPercursariaペルクサリア属(同定ミスの可
> 能性もあり。アオノリ属の幼体に似るが中空にならない)、細いイ
> トグサ属、太いイトグサ属、細いテングサモドキ属(日本新産か未
> 記載種かも)、少し幅の広いテングサモドキ属(日本新産か未記載
> 種かも)、コーラルフィクス属(日本新産の属かな?)の順に遷移
> が進行します。
> コーラルフィクス属まで遷移が進行し、近くに新しく白化したエダ
> サンゴがあると、スズメダイ類はそれまでの畑を見捨てて、そこに
> 移り住みます。その結果、コーラルフィクス属も藻食魚に採食さ
> れ、無節サンゴモ群落に退行的に遷移します。

 藻類の知識がないのでもどかしいのですが、奄美大島で見るかぎりクロソ
ラスズメダイの仲間が守っていると思われる藻類は、場所によっても異なっ
ています。畑さんは、主に西表島で観察されたようですが、写真を見ると同
じクロソラスズメダイでも、藻園の環境は奄美大島とはずいぶん異なってい
る印象を持ちました。アイスズメダイも奄美大島の別の地点ではまったく別
と思われる藻類を守っていました。お話のような、遷移も関連している可能
性も大いにありそうです。

 セミナーの時に画像をお見せして、ご教示いただきたいと思います。

> 遷移初期種のアオノリ属、アオサ属、イトグサ属の一部などはピー
> クの時期はありますが、周年成熟しています。それにもかかわら
> ず、それらの種類が夏〜秋の高水温期に少ないのは、この時期に藻
> 食魚を含めた藻食動物の採食活性が高いからだと考えています。た
> とえば、この時期に着生と遊離しているアオサ属の現存量は最低に
> なりますが、採食にさらされない生け簀で飼育すると高水温期の方
> が生長がよいことが分かっています。なんと1日で倍近い面積になり
> ます。

 これも素人が、わずかな観察例に基づいて言うことなので、矛盾等あれ
ばご指摘いただきたいのですが、季節性については先日ひとつ気づいたこと
があります。奄美大島では去年の秋からアイスズメダイを定点観察している
のですが、少なくとも今年の3月と6月に見たときと、10月はじめに見た
ときでは、藻園の様子がずいぶん異なっていました。というのは、3月、6
月は芝生状に刈り込まれたような白っぽい藻類が中心に繁茂していたのです
が、10月には一面が緑色の藻類で覆われていました。よく見ると、その間
に白い糸状の藻類も生えているのですが、緑藻類の勢いは目を見張るほどで
した。

 ここを縄張りとするアイスズメダイは、盛んに藻類をつついては捨てる
という行動を繰り返していましたが、捨てるのは前にご報告したようにすべ
て緑色の藻類でした。種類はよく分かりませんが、アオノリかアオサのよう
な平べったいものがほとんどで、稀にやはり緑色の糸状の藻類も捨てていま
した。

 現地のガイドさんによると、8月ぐらいから緑藻類が目立つようになる
ということでしたから、高水温期、もしくは日照の長い時期にこれが優勢と
なるようです。しかし、アイスズメダイはこれを食べているようには見えず
、むしろ駆除しているとしか思えない行動をとっていたことを考えると、緑
藻類の繁茂が、白い糸状の藻類の生長を邪魔している可能性も高いと考えま
した。もちろん、白い糸状藻類が緑藻類とは競争関係にはなく、アイスズメ
ダイは単に採食の邪魔になる緑藻類を除去していたに過ぎないという可能性
もあります。

> 但し、人が行ったことと生物が行ったことを同列には論
> じにくいと言うことを忘れてはならないでしょう。(余吾)

 確かにそうですが、ヒトだっていまのような洗練された農法を最初から確
立していたわけではないでしょう。採集生活から農業生活に移行する初期の
課程では、ヒトにとって有用な植物の生息地を防衛して囲いこむことから始
まり、やがて日照の確保や、競争相手となる植物の除去へと進み、本来の生
息地でない場所に耕作地を構えて種子を撒くという農法をはじめるのはずっ
と後になってからと考えるのが自然だと思います。となれば、ヒトの農業だ
って、初期はスズメダイの行動と大して変わらなかったのではないか・・・
と言ったら、あまりに乱暴かな? ヒトの行動というと、文明化した後の数
千年単位のことを考えがちですが、生物学的に比較するならば数万年単位〜
数十万年の中でどうだったのか・・・・ということも考慮する必要はあると
思うのです。うーん、文化人類学も勉強しないといけませんね。(笑)
------------------------------------------------------------
BBS 2741 新井章吾

原さん、みなさんこんにちは。

> 新井先生、みなさん、こんにちは。

 私も余吾さん同様、先生と呼ばれるのが嫌いです。「さんつけ」でお願い
します。

> 素人のことで、正確に読み取っている自信はないのですが、胃内容物の調
> 査はもちろん行われているそうです。消化もされていて、調査地点のクロソ
> ラスズメダイが栽培していると思われるイトグサ類は、他の藻類に較べてか
> なり消化率が高いということも報告されていました。詳しくは畑さんごへ本
> 人の書かれたリポートが手元にありますので、よろしければメール添付でお
> 送りします。

 読んでみたいので、お願いします。温海域と冷海域の藻食魚は、人間が食
用にしている分類群に対して嗜好性が高く、イトグサ属などは最後の方に採
食されると思っています。

> > すが、スズメダイ類はイトグサ属を含む糸状の紅藻を直接採食せ
> > ず、それらの藻体に着生して繁殖する藍藻や珪藻を採食するのかと
> > 思っていました。採食行動に関しては詳しく見ていないので、私の
> > 思いこみの可能性があります

> 海藻を直接栄養源としていない可能性もあるのですね。それは考えもしま
> せんでした。

 水槽で飼っているヨコエビとワレカラの胃内容物(実際には糞)の調査を
依頼されてしたことがあるのですが、いつもはアマモに着生する珪藻や海藻
の発芽体を採食し、それらがかなり少なくなってからアマモを採食していま
した。彼らは切断した細胞の内容物を消化しますが、正常な細胞の藻体は生
きたまま糞として出てきます。

 彼らはアマモの草体上やホンダワラ属の藻体上を餌場として利用してくれ
るので、ある一時期だけを見れば、光合成を阻害する着生藻を掃除してくれ
るので共生といえますが、餌が足りなくなるとアマモの場合、葉である基盤
自体もかなり採食されてしまいます。

> 藻類の知識がないのでもどかしいのですが、奄美大島で見るかぎりクロソ
> ラスズメダイの仲間が守っていると思われる藻類は、場所によっても異なっ
> ています。畑さんは、主に西表島で観察されたようですが、写真を見ると同
> じクロソラスズメダイでも、藻園の環境は奄美大島とはずいぶん異なってい
> る印象を持ちました。アイスズメダイも奄美大島の別の地点ではまったく別
> と思われる藻類を守っていました。お話のような、遷移も関連している可能
> 性も大いにありそうです。
> セミナーの時に画像をお見せして、ご教示いただきたいと思います。

 ぜひ見せてください。

>  これも素人が、わずかな観察例に基づいて言うことなので、矛盾等あれ
> ばご指摘いただきたいのですが、季節性については先日ひとつ気づいたこと
> があります。奄美大島では去年の秋からアイスズメダイを定点観察している
> のですが、少なくとも今年の3月と6月に見たときと、10月はじめに見た
> ときでは、藻園の様子がずいぶん異なっていました。というのは、3月、6
> 月は芝生状に刈り込まれたような白っぽい藻類が中心に繁茂していたのです
> が、10月には一面が緑色の藻類で覆われていました。よく見ると、その間
> に白い糸状の藻類も生えているのですが、緑藻類の勢いは目を見張るほどで
> した。
>  ここを縄張りとするアイスズメダイは、盛んに藻類をつついては捨てる
> という行動を繰り返していましたが、捨てるのは前にご報告したようにすべ
> て緑色の藻類でした。種類はよく分かりませんが、アオノリかアオサのよう
> な平べったいものがほとんどで、稀にやはり緑色の糸状の藻類も捨てていま
> した。
>  現地のガイドさんによると、8月ぐらいから緑藻類が目立つようになる
> ということでしたから、高水温期、もしくは日照の長い時期にこれが優勢と
> なるようです。しかし、アイスズメダイはこれを食べているようには見えず
> 、むしろ駆除しているとしか思えない行動をとっていたことを考えると、緑
> 藻類の繁茂が、白い糸状の藻類の生長を邪魔している可能性も高いと考えま
> した。もちろん、白い糸状藻類が緑藻類とは競争関係にはなく、アイスズメ
> ダイは単に採食の邪魔になる緑藻類を除去していたに過ぎないという可能性
> もあります。

 緑藻はサンゴに生えていたのでしょうか。それとも寄り藻が多量に絡まっ
てそこで生長しているという感じなのでしょうか。一昨年の夏から秋に、石
垣と与那国のサンゴ礁の一部で多量に寄り藻の緑藻がサンゴに引っかかりな
がら繁殖しているのを見ました。種類については同定していません。環境省
でも調査していたようです。
>
> > 但し、人が行ったことと生物が行ったことを同列には論
> > じにくいと言うことを忘れてはならないでしょう。

 これは余吾さんの意見です。私も同様ですが。

> 確かにそうですが、ヒトだっていまのような洗練された農法を最初から確
> 立していたわけではないでしょう。採集生活から農業生活に移行する初期の
> 課程では、ヒトにとって有用な植物の生息地を防衛して囲いこむことから始
> まり、やがて日照の確保や、競争相手となる植物の除去へと進み、本来の生
> 息地でない場所に耕作地を構えて種子を撒くという農法をはじめるのはずっ
> と後になってからと考えるのが自然だと思います。となれば、ヒトの農業だ
> って、初期はスズメダイの行動と大して変わらなかったのではないか・・・
> と言ったら、あまりに乱暴かな? ヒトの行動というと、文明化した後の数
> 千年単位のことを考えがちですが、生物学的に比較するならば数万年単位〜
> 数十万年の中でどうだったのか・・・・ということも考慮する必要はあると
> 思うのです。うーん、文化人類学も勉強しないといけませんね。(笑)

 タイムスケールをどのようにとるかで、定義も変わってしまうので、難し
い問題ですね。

 私自身は、土地を二次遷移(一次遷移によって土壌の遷移が進んでいる)
の初期まで退行させ、特定の種に有利な生育環境を作り、そこにその種の種
子を蒔く場を畑と定義しています。かつ、その場は同じ方法で、収穫後、二
次遷移の初期までの退行的遷移が繰り返されます。
 
 スズメダイは、一次遷移の途中相をより長く維持して利用していますが、
自ら畑を作っているわけではありません。これを畑とは異なる「藻園」と定
義すればよいのではないかと考えます。農業の初期段階である人間の焼き畑
がこれに近そうですが、これも極相林を焼き払って、二次遷移の初期相の裸
地まで退行させる点で、遷移の視点から見ると質的に大きな相違があります
。原さんが書いているように、もっと初期の農業では、区別がつかないです
また、行動を主体に整理しようとすると、区別がつきにくいと思います。
------------------------------------------------------------
BBS 2742 余吾 豊

原さん、新井さん
面白い展開だと思います。

 ジャングルと熱帯雨林の違いとが「熱帯雨林」(岩波新書)に紹介
されていました。僕を含めてこの2つを混同している人ってかなり
多そうですね。

 以前に新井さんがダイヴァーの踏み分けによる海藻群落の遷移と言
うことを書かれていました。行動する研究者は事実を良く直視し、
視点が新鮮で、感度が高いのだなと感心しました。

 これはプロの研修者だけでなく、個人的な資質の問題だと思います。
皆さんは研究者といっても、その人の言うことを鵜呑みにする必要は
全くありません。僕もそうはしません。良く聞き、よく考え、そして
自分なりの意見と情報を持つことが大事ですね。

 10年ほど前、桑村さん、中嶋さんなどが発起人となって「闘う生
態学」というのを生態学会で実施し、マスコミの人が取材に来たこ
とがあります。物まねではなく、常に新しい視点と新鮮な疑問を発
し続けることの大事さを訴えたコンテストでしたが、このところ、
学会はやはり風潮、流行の話題というものに大勢がなびく傾向が否
めません。これではいけないです。

 松井さんが愚痴っていたことにもそのことがありました。僕も同感
でした。以前、5つの学会に入っていましたが、今は2つで、その
内の一つも辞めようかなと思っています。
--------------------------------------------------------
BBS 2745 原 多加志

新井さん、余吾さん、こんにちは。

> 水槽で飼っているヨコエビとワレカラの胃内容物(実際には糞)の
> 調査を依頼されてしたことがあるのですが、いつもはアマモに着生
> する珪藻や海藻の発芽体を採食し、それらがかなり少なくなってか
> らアマモを採食していました。

 一見「植物食」に見えても、じつは「雑食」だということですね? やは
り栄養価の高いものから優先的に利用していくのでしょうか。

> 彼らは切断した細胞の内容物を消化しますが、正常な細胞の藻体は
> 生きたまま糞として出てきます。

 それは細胞壁を消化することができないからなのですか?

> 彼らはアマモの草体上やホンダワラ属の藻体上を餌場として利用し
> てくれるので、ある一時期だけを見れば、光合成を阻害する着生藻
> を掃除してくれるので共生といえますが、餌が足りなくなるとアマ
> モの場合、葉である基盤自体もかなり採食されてしまいます。

 生物の最終目的が個体の維持ではなく、遺伝情報の継続であるとすれば、
たとえ個体は食べられてしまっても、より多くの子孫を残すことができると
いう関係は、「共生」とは言えないまでも、限りなく「双利的関係」である
とは言えませんか。もし、スズメダイが競争的関係にある他の藻類を駆除し
てくれなければ、ある種の藻類はその場所で生きていくことも繁殖していく
こともできないわけですから、たとえ一部が食べられたとしても十分メリッ
トはあるわけです。

> 緑藻はサンゴに生えていたのでしょうか。それとも寄り藻が多量に
> 絡まってそこで生長しているという感じなのでしょうか。一昨年の
> 夏から秋に、石垣と与那国のサンゴ礁の一部で多量に寄り藻の緑藻
> がサンゴに引っかかりながら繁殖しているのを見ました。種類につ
> いては同定していません。環境省でも調査していたようです。

 すみません、寄り藻というのがどう言うものなのか、具体的にイメージで
きません。 奄美のアイスズメダイの藻園は、背の低いハマサンゴ群落の周
囲にあり、サンゴそのものに藻類は見られません。糸状藻類が岩石や岩石化
した死サンゴの表面に芝生のように生えています。緑藻類(種を確認したわ
けではないのでそれに当たるのかどうかは自信ありませんが・・・)は、糸
状藻類を覆うような形で混生していました。

> スズメダイは、一次遷移の途中相をより長く維持して利用していま
> すが、自ら畑を作っているわけではありません。これを畑とは異な
> る「藻園」と定義すればよいのではないかと考えます。農業の初期
> 段階である人間の焼き畑がこれに近そうですが、これも極相林を焼
> き払って、二次遷移の初期相の裸地まで退行させる点で、遷移の視
> 点から見ると質的に大きな相違があります
> 。原さんが書いているように、もっと初期の農業では、区別がつか
> ないです。また、行動を主体に整理しようとすると、区別がつきに
> くいと思います。

 なるほど、植物の側から考えると区別しやすいですね。もしスズメダイが
すべての藻類を排除し、それまでそこには自生していなかった種類の藻類を
育てている・・・ということがありうるならば、初めて「畑」ということが
できるわけですね。
------------------------------------------------------------
BBS 2746
 余吾 豊

原さんへ

> 一見「植物食」に見えても、じつは「雑食」だということですね? やは
> り栄養価の高いものから優先的に利用していくのでしょうか。

 栄養価が高いものを優先的に利用するとは思えません。自分の口の形態、他
との競合、餌を探す探索能力というものも関係するでしょう。

> それは細胞壁を消化することができないからなのですか?

 それが先にも書いたように摂餌した側の消化酵素の種類、胃内容に入ってい
るものが喰ったものか、紛れ込んだ物かを判別しがたい問題があるんですね。

> 生物の最終目的が個体の維持ではなく、遺伝情報の継続であるとすれば、
> たとえ個体は食べられてしまっても、より多くの子孫を残すことができると
> いう関係は、「共生」とは言えないまでも、限りなく「双利的関係」である
> とは言えませんか。もし、スズメダイが競争的関係にある他の藻類を駆除し
> てくれなければ、ある種の藻類はその場所で生きていくことも繁殖していく
> こともできないわけですから、たとえ一部が食べられたとしても十分メリッ
> トはあるわけです。

 生物の最終目的が各個体の遺伝情報の継続としても、それは個体自身が捉え
ているものではないでしょう。長く生き残り、多くの子孫を残すことに夢中に
なり、そして、多くの子孫を残すことが出来た結果、それが自身の遺伝情報を
子孫に残す可能性が高くなると言うだけのことで、意識下のことではないでし
ょうね。そう言う情報の伝搬や模倣と言うものが言葉のない生物社会では存在
しないので、人と他の生物を同列に論じては拙いですよと呼びかけて居るんで
す。


------------------------------------------------------------
BBS 2748 新井章吾

原さん、こんにちは。

> 一見「植物食」に見えても、じつは「雑食」だということですね? やは
> り栄養価の高いものから優先的に利用していくのでしょうか。

 植物食ですが、珪藻、海藻、種子植物など何でも食べるということです。そのように考えています。1980年代にアワビなどの稚貝が成長していくと、大型褐藻などに餌料が変化するのは、珪藻や藍藻の方が単位重量当たりのカロリーはかなり高いが、一般に自然では現存量が少なく、成長に伴い採食行動のためにロスするエネルギー量が大きくなっていき、効率が悪くなると、単位重量当たりのカロリーは低いがまとまった量を採食できるコンブ科の海藻などに食性が移行していくという論文があります。

> > 彼らは切断した細胞の内容物を消化しますが、正常な細胞の藻体は
> > 生きたまま糞として出てきます。
> それは細胞壁を消化することができないからなのですか?

 アマモの細胞壁、海藻の細胞膜(海藻に細胞壁はありません)、珪藻の殻
を消化できないからだと思います。基礎的すぎるのか海藻の一般の解説書な
どには出ていません。文献では確認していません。珪藻についてはほぼ100%
の殻が壊されていました。

> 生物の最終目的が個体の維持ではなく、遺伝情報の継続であるとすれば、
> たとえ個体は食べられてしまっても、より多くの子孫を残すことができると
> いう関係は、「共生」とは言えないまでも、限りなく「双利的関係」である
> とは言えませんか。もし、スズメダイが競争的関係にある他の藻類を駆除し
> てくれなければ、ある種の藻類はその場所で生きていくことも繁殖していく
> こともできないわけですから、たとえ一部が食べられたとしても十分メリッ
> トはあるわけです。

 私は海藻のうち緑藻、褐藻、紅藻は、藍藻を採食する雑食あるいは藻食動
物が出現してから、爆発的に進化したと考えています。藍藻(珪藻も)は繁
殖速度が速くこれを誰かが藻体表面から除去してくれなければ、藍藻以外の
海藻は光合成できません。進化的な背景を考えると、ほとんどの雑食と藻食
の動物と海藻が共生関係にあると定義することが可能です。共生を広く捉え
一般的なものとするか、もっと厳密に扱い特殊な種間関係とするかで、見解
が異なると思います。
 
> すみません、寄り藻というのがどう言うものなのか、具体的にイメージで
> きません。 奄美のアイスズメダイの藻園は、背の低いハマサンゴ群落の周
> 囲にあり、サンゴそのものに藻類は見られません。糸状藻類が岩石や岩石化
> した死サンゴの表面に芝生のように生えています。緑藻類(種を確認したわ
> けではないのでそれに当たるのかどうかは自信ありませんが・・・)は、糸
> 状藻類を覆うような形で混生していました。

 寄り藻は、表層を漂う流れ藻に対して、海底を漂う海藻のことをいいます。
説明の緑藻は、死サンゴに根で着生しているので、寄り藻ではありません。

> > スズメダイは、一次遷移の途中相をより長く維持して利用していま
> > すが、自ら畑を作っているわけではありません。これを畑とは異な
> > る「藻園」と定義すればよいのではないかと考えます。農業の初期
> > 段階である人間の焼き畑がこれに近そうですが、これも極相林を焼
> > き払って、二次遷移の初期相の裸地まで退行させる点で、遷移の視
> > 点から見ると質的に大きな相違があります
> > 。原さんが書いているように、もっと初期の農業では、区別がつか
> > ないです。また、行動を主体に整理しようとすると、区別がつきに
> > くいと思います。

> なるほど、植物の側から考えると区別しやすいですね。もしスズメダイが
> すべての藻類を排除し、それまでそこには自生していなかった種類の藻類を
> 育てている・・・ということがありうるならば、初めて「畑」ということが
> できるわけですね。

 そういうことです。自然は自分が想像しているよりはるかに多様で美しく、どこかにそのような藻食魚がいるかもしれないと思っています。
------------------------------------------------------------
BBS 2749 原 多加志

新井さん、こんにちは。

> 私は海藻のうち緑藻、褐藻、紅藻は、藍藻を採食する雑食あるいは
> 藻食動物が出現してから、爆発的に進化したと考えています。藍藻
> (珪藻も)は繁殖速度が速くこれを誰かが藻体表面から除去してく
> れなければ、藍藻以外の海藻は光合成できません。進化的な背景を
> 考えると、ほとんどの雑食と藻食の動物と海藻が共生関係にあると
> 定義することが可能です。共生を広く捉え一般的なものとするか、
> もっと厳密に扱い特殊な種間関係とするかで、見解が異なると思い
> ます。

 藻類の違いについてほとんど知識がないので、藍藻とはどういうものかネ
ットで検索して調べてみました。水草を栽培するアクアリストのサイトがズ
ラッと並び、藍藻の駆除には皆いかに頭を痛めているのかがよく分かりまし
た。ものすごい繁殖力なのですね。
 で、奄美でアイスズメダイが除去していたものですが、一部は藍藻かもし
れないという気もしてきました。海苔みたいな緑色で、味噌汁に入っている
ワカメの切れっ端みたいに見えましたが・・・・。また、緑色ではないので
すが、以前、岩の上を突付いていたアイスズメダイが、透明でネバネバした
ようなものを吐き出すのも観察したことがあります。これが藍藻や、珪藻と
いう可能性もありますか?

> そういうことです。自然は自分が想像しているよりはるかに多様で
> 美しく 、どこかにそのような藻食魚がいるかもしれないと思ってい
> ます。

 魚はともかく、昆虫などにはそんなことをしているものが居ても不思議は
ないという感じはします。僕の少ない経験からしても、同じクロソラスズメ
ダイの仲間が藻園を持つ方法は決して1つのパターンだけではないように思
えるのです。種によって、場合によっては場所によっても違いがあるように
思えます。そんな違いの中に、行動の進化のようなものが見て取れたら、こ
れは面白いですね。

------------------------------------------------------------
BBS 2749 新井章吾

原さん、こんにちは。今日は中海の調査に来ています。

> 藻類の違いについてほとんど知識がないので、藍藻とはどういうものかネ
> ットで検索して調べてみました。水草を栽培するアクアリストのサイトがズ
> ラッと並び、藍藻の駆除には皆いかに頭を痛めているのかがよく分かりまし
> た。ものすごい繁殖力なのですね。
> で、奄美でアイスズメダイが除去していたものですが、一部は藍藻かもし
> れないという気もしてきました。海苔みたいな緑色で、味噌汁に入っている
> ワカメの切れっ端みたいに見えましたが・・・・。また、緑色ではないので
> すが、以前、岩の上を突付いていたアイスズメダイが、透明でネバネバした
> ようなものを吐き出すのも観察したことがあります。これが藍藻や、珪藻と
> いう可能性もありますか?

 藍藻の可能性もあります。藍藻は房状の海藻のような群体になる種もあり
、粘液物質を含んでいることもあります。

 藍藻は、バクテリアの内、光合成する分類群のことで、シアノバクテリア
とも呼ばれています。30億年以上前から存在し、長く生きているため多様に
分化しています。95℃以上の温泉からちょっと湿ったところがあれば陸上に
も生育しています。梅雨時に、湿った芝生にキクラゲのようなものが生えて
くることがありますが、これも藍藻です。かなり古い地層からは、多量の藍
藻の化石が発見され、藻食動物や競合種がいなかった時代には現存量が大き
かったと推測されます。今、藍藻の現存量が小さいのは、それらを採食する
動物が多い結果だと思っています。

 藍藻は英語ではblue green algaeと呼ばれているように、青緑色がかった
色の種類が多いですが、鮮紅色、鮮緑色、黒色のものまであります。夏に潮
間帯にフクロノリのような形態で青緑色の小型の藻類が生えますが、これは
アイミドリという藍藻です。それから、タマキビ属が分布しているあたりの
岩の色がもとの色と違って黒くなっていますが、これも藍藻です。タマキビ
属は他の動物が、乾燥、夏の高温、冬の低温のため侵入できなかった厳しい
環境に進出し、未利用だった潮間帯上部の藍藻資源を独占できるようになっ
たため、繁栄を遂げていると考えられています。

 一方、藍藻には採食適応のためか強い毒を持つ種類もあります。那覇空港
などの海水魚の水槽に赤紫色の藻類が薄く広く生えていますが、この種類に
は毒あるいは魚の嫌いな成分が含まれているため、食べ残されているのかも
しれません。

> 魚はともかく、昆虫などにはそんなことをしているものが居ても不思議は
> ないという感じはします。僕の少ない経験からしても、同じクロソラスズメ
> ダイの仲間が藻園を持つ方法は決して1つのパターンだけではないように思
> えるのです。種によって、場合によっては場所によっても違いがあるように
> 思えます。そんな違いの中に、行動の進化のようなものが見て取れたら、こ
> れは面白いですね。

 除藻するかしないか、特定の種類だけを採食するかしないか、藻園の範囲
内で採食をするかしないか、藻園を維持しているのか遷移の途中相を利用し
ているだけなのか、藻園の海藻の種類ごとの被度はどうなっているのかなど
を、スズメダイ類の種類ごとに調査していけば、行動の進化が分かると思い
ます。また、近縁種などがいる場合といない場合などで、同じ種であっても
行動が違えば、近縁種同士の社会性なども分かるのではないでしょうか。と
ても興味があります。
------------------------------------------------------------
BBS 2756 原 多加志

新井さん、こんにちは。

 詳しい説明ありがとうございました。

 海藻も苦手ですが、藍藻・珪藻とかバクテリアの世界になると素人には得
体の知れないものということだけが先に立ち、まったく未知の世界でした。
しかし、こうして魚の行動と結びついてくると少しずつ興味が沸いてくるも
のですね。ネットでいろいろ検索してみたのですが、顕微鏡写真とか水槽の
写真など、それこそ得体のしれない画像ばかりで、実際海でどのような状態
で見られるのかいまひとつ想像がつきません。画像などお持ちでしたら、代
表的なものだけでもセミナーの際にお見せいただければ・・・と思います。

 おかげさまで、いままでなんとなく見過ごしてきたことに、少し道筋がつ
いてきたような気がします。今後もお知恵を拝借しながら少しずつ観察を続
けていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
------------------------------------------------------------
BBS 2783 新井章吾

 今回私が発表した内容は、サウジアラビアの紅海沿岸と石垣島の白保の大
きな藻園のスズメダイに海藻の調査中に集団で襲われたことから興味を持ち
、始めた観察の結果です。大きな藻園のスズメダイほど怖いもの知らずで、
激しくアタックしてくるような気がしています。単独で侵入する藻食魚はす
ぐに追い払われ、ごく稀にいろいろな種類の藻食魚の集団が侵入を試みます
がやはり追い払われます。

 セミナーでは時間の関係で省略しましたが、藻園の周囲には海藻がほとん
ど生えていない場合が多く、これは藻食魚の採食圧が高いことの結果であり
、藻園の一部を取り出し、スズメダイの制空権以遠、制空権ぎりぎり、制空
権内に設置したらどうなるのだろうと、妄想をふくらまらせていき、実験し
ました。制空権がおよばない距離では、自分でもびっくりするくらいの藻食
魚が集まってきました。制空権ぎりぎりの場所では比較的長い時間、スズメ
ダイ対藻食魚の争いが観察でき面白かったです。かれらはテリトリーの藻園
も守らなければならないし、相当な葛藤にさらされたのではないかと思いま
す。(ごめんなさい。)

 防衛に出てきたスズメダイと隣の縄張りのスズメダイの関係は、この時ど
うなっているのだろうとか、藻園の中に礫についている緑藻やホンダワラ属
を置いたら、どんなことになるのだろうかとか疑問がつきません。

 原さんや石田さんを始めとするAUNJのメンバーが白保で一緒に2日間くらい
観察すれば、多くの疑問が解けると思いました。セミナー以外にこんな機会
があったらよいですね。同じフィールドを見ながら「おもしろい」を共有で
きます。
------------------------------------------------------------
BBS 2784 原 多加志

 昨日(12/4) 、今回のスズメダイ類による藻園維持行動に関する話
題のきっかけになった京都大学大学院理学研究科動物生態学研究室学
振特別研究員、畑啓生さんの研究について講演会があったので、AU
NJセミナーに引き続き行ってまいりました。連日のお勉強で知恵熱
が出そうです。(笑) 事前に新井さんのお話で「理論武装」していた
ため、内容は非常によく理解できました。新井さんの受け売りで図々
しく質問などもしたので、畑さんからもかなり突っ込んだところまで
お話いただけました。

 畑さんの研究の内容は以前にも少し書いたように、クロソラスズメ
ダイが藻園を維持するのに、特定のイトグサ類のみを選択する「単作
」を行っていること。そのイトグサはスズメダイによる維持行動がな
いと他の藻類との競争に負けてしまうため、共生に近い関係にあると
いうことです。この件については余吾さんから疑問視する発言もあり
ましたが、本人から詳しい話を聞いてだいぶ論点が整理できたように
思えました。

 藻園を維持するスズメダイの存在はすでに有名ですが、実際、どん
な藻類をどれほど育てているのか・・・ということはこれまでほとん
ど研究されていなかったようです。また、同じスズメダイ類でも、例
えば、僕たちが愛するアイスズメダイなどは広い藻園をかなりラフに
守っており、特定の種の藻類だけを守っているわけではないそうです
。これは、僕たちが奄美大島で見ていることとかなり一致しています
。このように同じクロソラスズメダイ属の中でも、好む藻類や、藻園
の保護方法にはかなりのバリエーションがあるようなのですが、中で
もクロソラスズメダイは狭い範囲の縄張りを集中的に守り、徹底的な
除藻を行うことで特定の種のイトグサに強く依存する傾向があるそう
です。

 畑さんが調べた西表島の例では、ほぼ単作と言えるほどある特定の
種のイトグサを育て、またそのイトグサをDNA分析して比較したと
ころ、クロソラスズメダイの藻園の外では観察されたことのない未記
載種だったそうです。また、そのイトグサは新井さんのおっしゃる通
りサンゴが死滅して最初に発生するパイオニア種であり、クロソラス
ズメダイが保護しなければ他の種に遷移していく・・・ということも
新井さんの見解通りでした。ただし、畑さんが太平洋各地のクロソラ
スズメダイほか、藻園を守る種のスズメダイを調べたところ、クロソ
ラスズメダイが特定のイトグサに依存する傾向は強いものの、「単作
」といえるほどの集中度が見られるのは、西表島はじめ、沖縄地方で
とくに多い傾向はあるようです。つまり、海域によって、特定の藻類
への依存度も、共生関係の度合いにも違いがあるだろう・・・という
ことは畑さんも認めておられました。

 ここで気になるのは、新井さんに見ていただいた奄美のクロソラス
ズメダイが守っていた藻類が、イトグサ類ではなくテングサモドキ類
或いはコーラルフィクス類らしいということです。畑さんの研究によ
ると、クロソラスズメダイは胃内容物の調査では特定のイトグサが占
める比率が非常に高いそうです。また、僕にはよく理解できませんで
したが、必須脂肪酸の分析でもそのイトグサに由来するものが重要だ
ということが分かっているそうです。しかし、奄美のクロソラスズメ
ダイの藻園では、ざっと見るかぎりイトグサ類は優占していませんの
で、では彼らは何を中心に生きているのか・・・・が問題になります
。畑さんも、こういう例は調べてないのでよく分からないと言ってい
ましたが、新井さんがおっしゃっていた紅藻類の藻体に付着する他の
藻類などを食べているのではないかということについては、可能性が
ないとは言えないというようなことをおっしゃっていました。

 また、奄美のアイスズメダイが藍藻類と見られる緑色の藻類を除去
していた件ですが、西表島では奄美ほどこのような季節的変化がない
ようで、あまり深くは認識されていないようでした。今回は時間もな
かったので、奄美のビデオ画像を畑さんに渡してきましたので、追っ
てなにかコメントが戻ってくるかもしれません。個人的には、奄美大
島はクロソラスズメダイの広い分布域の中でも、最北限に近いという
ことで、藍藻類のことなどで代表されるように季節的影響が強いのか
な・・・・という印象も持ちました。もちろん、その他の環境的要因
もあるのでしょうが、奄美と八重山でクロソラスズメダイの藻園の構
成が異なるとすれば、これは興味深いですね。畑さんのお話で、スズ
メダイ類の藻園維持行動も地域などでかなりのバリエーションがある
ことが確認できたのは収穫でした。この行動がどのように進化してき
たのかなど、考えるべき課題はたくさんありそうです。

 なお、話のなかで「スズメダイが藻園を作るためにサンゴを殺すこ
とがある」ということが出てきました。これが事実なら、新井さんの
おっしゃる「遷移を退行させる」という行動を行っていることになり
、かなり「農業」といえる形態に近づいているとも言えそうです。残
念ながら、出典やその方法などが確認できなかったのですが、これも
ぜひ確かめてみたい項目ですね。
------------------------------------------------------------
BBS 2793 新井章吾

 私の学生時代からの研究の主要なテーマは、動物と海藻の相互作用です。
15年前から温海域(陸上の温帯に該当)の大型褐藻とアイゴを始めとする
藻食魚の関係を扱っています。文献調査すると、スズメダイ類と海藻の関係
の論文は結構ありましたが、興味が藻園の管理ではなく、藻場の衰退機構に
あったため、興味を持ちながらも、あえて研究テーマとしては避けてきてい
ました。

 畑さんの方が、D論をまとめるためにそのテーマに関して深く見ています。
私がセミナーで発表したものは、予備調査の段階で、思い込みもあるかもし
れません。

> 新井さんの受け売りで図々
> しく質問などもしたので、畑さんからもかなり突っ込んだところまで
> お話いただけました。

 お役に立てて、嬉しいです。謎解きが進展します。

> このように同じクロソラスズメダイ属の中でも、好む藻類や、藻園
> の保護方法にはかなりのバリエーションがあるようなのですが、中で
> もクロソラスズメダイは狭い範囲の縄張りを集中的に守り、徹底的な
> 除藻を行うことで特定の種のイトグサに強く依存する傾向があるそう
> です。

> ただし、畑さんが太平洋各地のクロソラ
> スズメダイほか、藻園を守る種のスズメダイを調べたところ、クロソ
> ラスズメダイが特定のイトグサに依存する傾向は強いものの、「単作」
> といえるほどの集中度が見られるのは、西表島はじめ、沖縄地方で
> とくに多い傾向はあるようです。つまり、海域によって、特定の藻類
> への依存度も、共生関係の度合いにも違いがあるだろう・・・という
> ことは畑さんも認めておられました。

 先月、ウミウチワ属の日本新産種などの採集の仕事で西表や石垣に行って
きました。西表では数箇所潜水したので、事前に場所が分かっていれば、畑
さんのフィールドを見てきたかったです。

> ここで気になるのは、新井さんに見ていただいた奄美のクロソラス
> ズメダイが守っていた藻類が、イトグサ類ではなくテングサモドキ類
> 或いはコーラルフィクス類らしいということです。

 私はスズメダイを種別に見ていないからかもしれませんが、石垣の白保の
ほとんどの藻園はテングサモドキ属かコーラルフィクス属でした。イトグサ
の藻園もあったと思いますが比較的新しい藻園に限られていたと思います(
この辺りはきちんと観察していませんでした)。藻園のテングサモドキ属と
コーラルフィクス属も、畑さんのイトグサ属同様、周囲には生育していませ
ん。テングサモドキ属に関しては、周辺の薄く砂を被った岩盤の上に別種が
数種生育しています。それらも日本未記載種か新種です。鹿大の寺田さんと
共同研究を進めていますが、サブテーマという感じでやっているため、発表
できるまでには進展していません。

 西表と石垣でも状況が異なるのかもしれません。

> 畑さんの研究によ
> ると、クロソラスズメダイは胃内容物の調査では特定のイトグサが占
> める比率が非常に高いそうです。また、僕にはよく理解できませんで
> したが、必須脂肪酸の分析でもそのイトグサに由来するものが重要だ
> ということが分かっているそうです。

 クロソラスズメダイの身の必須脂肪酸が、餌であるイトグサ由来と言うこ
となのでしょうか。だからといって、他の紅藻にこの成分がないとは言えま
せん。共生関係を強調あるいは証明したいために成分分析も行ったのかもし
れません。以下の奄美のクロソラスズメダイの事例は畑さんにとっては例外
かもしれず、今の研究が論文として公表されてから聞きたかったかもしれま
せんね。

*事務局より:必須脂肪酸というのは生命を保つのに必須であるけれど、
自分の体内で合成することが出来ない脂肪酸を指します。つまり、他の生
物体にある脂肪酸を摂取しなくてはなりません。必須アミノ酸も同様です。

> しかし、奄美のクロソラスズメ
> ダイの藻園では、ざっと見るかぎりイトグサ類は優占していませんの
> で、では彼らは何を中心に生きているのか・・・・が問題になります
> 畑さんも、こういう例は調べてないのでよく分からないと言ってい
> ましたが、新井さんがおっしゃっていた紅藻類の藻体に付着する他の
> 藻類などを食べているのではないかということについては、可能性が
> ないとは言えないというようなことをおっしゃっていました。

 畑さんが、大学などに就職できれば、今後、この辺りのことも手がけてく
れると期待します。

> また、奄美のアイスズメダイが藍藻類と見られる緑色の藻類を除去
> していた件ですが、西表島では奄美ほどこのような季節的変化がない
> ようで、あまり深くは認識されていないようでした。

 奄美から沖縄では北の方ほど水温が急に低下して藻食魚の採食圧が低下す
るので、一時的に食う食われるのバランスが崩れて藍藻の増殖が見られるよ
うです(仮説の段階)。

>今回は時間もな
> かったので、奄美のビデオ画像を畑さんに渡してきましたので、追っ
> てなにかコメントが戻ってくるかもしれません。個人的には、奄美大
> 島はクロソラスズメダイの広い分布域の中でも、最北限に近いという
> ことで、藍藻類のことなどで代表されるように季節的影響が強いのか
> な・・・・という印象も持ちました。もちろん、その他の環境的要因
> もあるのでしょうが、奄美と八重山でクロソラスズメダイの藻園の構
> 成が異なるとすれば、これは興味深いですね。畑さんのお話で、スズ
> メダイ類の藻園維持行動も地域などでかなりのバリエーションがある
> ことが確認できたのは収穫でした。この行動がどのように進化してき
> たのかなど、考えるべき課題はたくさんありそうです。

 1つの疑問が解決されると、別の疑問を認識できるようになります。この自
然のパズルを解いていくのは面白いです。

> なお、話のなかで「スズメダイが藻園を作るためにサンゴを殺すこ
> とがある」ということが出てきました。これが事実なら、新井さんの
> おっしゃる「遷移を退行させる」という行動を行っていることになり
> 、かなり「農業」といえる形態に近づいているとも言えそうです。

 エダサンゴが白化し、遷移初期種が入植すると、イトグサ属でなくてもス
ズメダイは藻園の隣接地なら、他の藻食魚を追い払うので、結果的に海藻の
繁殖を妨げず、サンゴを殺しています。

 これとは別に、ハマサンゴはなかなか白化しませんが、ハマサンゴ下部の
藻園の周辺が不規則に白化している場合(写真があるのでそのうち余吾さん
にアップをお願いします)があり、こんなふうに白化するのが普通なのか普
通でないのか疑問を持ったことがあります。もしかしたら、スズメダイがポ
リプを引き抜いているなんてこともあるのかもしれません。この場合は、私が
定義する畑ですが、これは真に受けないでください。しかし、空想というか
妄想がふくらみ、確認せずにはいられません。

------------------------------------------------------------
BBS 2802 原 多加志

> 私がセミナーで発表したものは、予備調査の段階で、思い込みもある
> かもしれません。

 スズメダイが藻園を持って守るという話は有名ですし、僕も最初はなんの
新味も感じなかったのですが、いろいろな方から詳しくお話を伺うにつけ、
思ってもみなかった事実に驚きの連続です。新井さんの、スズメダイが他の
藻食者から藻場を守ることで、サンゴの生育にまで影響を与えるという話も
意外でしたし、同じ藻園を持つスズメダイでも、種類によってさまざまな守
り方をしているという畑さんの話も、まったく考えていませんでした。もと
もと魚好きなので、ついつい興味の対象の魚ばかりを見てしまうのですが、
こうなると藻類から周囲の魚類の行動まで、総合的に見ていかないとなりま
せんね。次回、奄美で確認してみるのが楽しみです。

> 私はスズメダイを種別に見ていないからかもしれませんが、石垣の
> 白保のほとんどの藻園はテングサモドキ属かコーラルフィクス属で
> した。イトグサの藻園もあったと思いますが比較的新しい藻園に限
> られていたと思います(この辺りはきちんと観察していませんでし> た
)。藻園のテングサモドキ属とコーラルフィクス属も、畑さんの
> イトグサ属同様、周囲には生育していません。テングサモドキ属に
> 関しては、周辺の薄く砂を被った岩盤の上に別種が数種生育してい
> ます。

 これからの課題ではあるのですが、畑さんの発表されたような「イトグサ
の単作」という環境はその地域ならではの行動なのかもしれませんね。そう
ならそうでこの海域で、なぜ、またいつごろから特異的な行動が進化したの
か、さらに興味が増します。

> クロソラスズメダイの身の必須脂肪酸が、餌であるイトグサ由来と
> 言うことなのでしょうか。だからといって、他の紅藻にこの成分が
> ないとは言えません。共生関係を強調あるいは証明したいために成
> 分分析も行ったのかもしれません。

 そのような意味あいだと捉えましたが、そのあたり、僕はどのような方法
で何を調べるのかが理解できないので、なんとも言えません。

> 以下の奄美のクロソラスズメダイの事例は畑さんにとっては例外か
> もしれず、今の研究が論文として公表されてから聞きたかったかも
> しれませんね。

 論文はすでに発表されていて、「ネイチャー」誌などでも紹介されている
ようです。昨日、畑さんから英文の論文も届きましたのでメールにてお送り
します。藻類の学名レベルの記述や、データも掲載されていますので、僕に
はやや「ネコに小判」ですが、新井さんならいろいろ分かる部分があると思
います。

> 奄美から沖縄では北の方ほど水温が急に低下して藻食魚の採食圧が
> 低下するので、一時的に食う食われるのバランスが崩れて藍藻の増
> 殖が見られるようです(仮説の段階)。

 そうなのですか。奄美や屋久島など、僕が比較的よく行く場所はそんな
境界域が多いので、いろいろヘンな現象が見られるのかもしれませんね。

> これとは別に、ハマサンゴはなかなか白化しませんが、ハマサンゴ
> 下部の藻園の周辺が不規則に白化している場合(写真があるのでそ
> のうち余吾さんにアップをお願いします)があり、こんなふうに白
> 化するのが普通なのか普通でないのか疑問を持ったことがありま
> す。もしかしたら、スズメダイがポリプ引き抜いているなんてこと
> もあるのかもしれません。この場合は、私が定義する畑ですが、こ
> れは真に受けないでください。しかし、空想というか妄想がふくら
> み、確認せずにはいられません。

 今後はそのあたりも注意してみます。空想や妄想を結論とするのは論外で
すが、スタートするきっかけにはなりますよね。何年か前だったら、一度オ
スになった魚がまたメスに戻る・・・・なんて言い出したら、「妄想」とし
てたたかれていたかもしれません。(笑) 誰かが口に出すことによって、「
それならこんな事実がある」というような情報も集まり、やがては妄想が妄
想でなくなることもあるのでしよう。

*事務局より:新井さんへ。論文が届いたら、要約してまとめて下さいませ
んか?手書きでも結構です。僕が清書します。勿論、新井さんのコメントも
添えて。急ぎません。

-----------------------------------------------------------
BBS 2805 常見 真紀子

 新井さん、原さん、こんばんは

 畑さんのトークセッション、私も聞いてきました。

 沖縄のクロソラスズメダイと特定のイトグサ属との関係については、
かなり詰めて調査されておられ、思わず納得してしまいそうでしたが、
クロソラスズメダイと並行して調査されていた、その他の藻食性スズメダイ
(スズメダイモドキ・ルリホシ・ハナナガ)にもそれぞれ別の特定の
イトグサとの関係が見られるということを、説明されていましたが、
若干疑問を感じました。

 クロソラも含めそれらのスズメダイは確かにサンゴのあるところで藻園と
セットで見られますが、居場所が違うからです。
クロソラは浅い場所でサンゴの表面に近い場所で見られますが、
スズメダイモドキはサンゴの下の方をうろうろしているように思います。

 陸上の植物と全く同じというわけではないでしょうけど、海藻もやはり
生える場所を選ぶのではないかと考えると、スズメダイとの関係もあるか
もしれませんが(あることが分かるといいなーとは思いますが)、生える
場所の影響は大きいのではないかと思うのです。
 たまたまサンゴの上とか下とか、同じような場所が好きなもの同士が
一緒にいるだけかもしれないと考えることもできるのではないでしょうか。

 しばらくはクロソラ属を見たら一緒にいる海藻のアップ写真を忘れない
で撮るようにしなくては。

------------------------------------------------------------
BBS 2807 新井章吾
 おはようございます。新井です。

> 先ずは、スズメダイ類の採食縄張りと海藻の生育に
> 関するものです。かなりの方が新井さんのポスターに関心を寄せられ
> また、掲示板でもクロソラスズメダイの話題で盛り上がっています。
> 新井さん、お忙しいと思いますが、掲示板へのコメント、宜しく
> 御願いします(余吾)。

 これをきっかけに海藻に興味を持つ人が増えれば嬉しいので、可能な限り
対応します。

> 先ずは掲示板でのやり取りを拾ってみました。未だ全てを出していま
> せんが、相当にありました。順次、書き加えていきます。次ぎに、新
> 井さんのポスター内容を紹介しますので、宜しく(余吾)。

 セミナーから帰ってから、筑前大島で環境省の藻場調査(ウスイロモクで
なくフシスジモクでした)をして、翌日から隠岐で天然記念物のクロキズタ
の調査をしています。今はフェリーで隣の島に移動中で、携帯電話を使って
接続しています。今日ホテルに戻ってから、有線ランを使って写真などを送
信します。

 
事務局より:ウスイロモクは僕の間違いでした。

 ポスターでは、準備時間が足りなくて用意できなかったハマサンゴに作ら
れた藻園の写真も送信します。

 皆さんの反応の良さに、スズメダイ類と海藻の関係をもう少し気合いを入
れてやっておけばよかったかなと思いますが、すでにいろいろな研究に首を
突っ込んでいて、首が回らない状況です。アイゴと藻場の関係の研究がもう
少しで一区切りつくので、それから、論文を書くための調査を少しやってみ
る予定です。

 機会があれば原さんや常見さんに同行させてもらい、すでに観察が行われ
ているフィールドで調査をしてみたいと思っています。私の場合、大学など
の公的機関の研究者と違い、多くの場合予算のない自主研究なので、多くの
日数を使った調査計画を立てず、半日から1日でできるような調査計画を現
地を見てから即興でつくります。(このような能力を買われて、調査業務の
依頼があります。)

 何らかの環境勾配を見いだしこれに沿って調査するか、藻園の一部をスズ
メダイの縄張りから離していくなどの実験生態学な調査をします。原さんた
ちにとっても、ものの見方の参考になるはずなので、奄美に行くときはぜひ
声をかけてください。仕事と重なっていなければ、行きます。
------------------------------------------------------------
BBS 2808 原 多加志

新井さん、おはようございます。

いや、素晴らしい提案です!

 奄美には次回、1月の半ばに行くことになっていますが、もちろんこれに
限らず新井さんと調整のうえ、設定いたしますのでどうぞよろしくお願いい
たします。奄美大島の場合、ある程度季節的な違いもあると思いますが、今
年、何回か見た経験から言えば、もう少し水温が上がってからのほうが藻類
を見るにはいいのかな?・・・とも思えますが、いかがでしょうか?

 こんな貴重な機会を僕たちだけで独占するのは申し訳ないので、もし他の
会員の方にも参加していただける形が可能であれば、それも検討したいです
ね。
------------------------------------------------------------
BBS 2813 常見 真紀子

新井さん、余吾さん、原さん、こんにちは!

クロソラ関係で盛り上がっていて、興奮してきました。

> こんな貴重な機会を僕たちだけで独占するのは申し訳ないので、もし他の
> 会員の方にも参加していただける形が可能であれば、それも検討したいです

 大賛成です。奄美の海をいろんな方の目で見ていただくのはいいですね。
ついでにヒレナガクマノミもいっぱい見られますヨ。

 私は1月の中旬ではなく上旬の連休利用で行く予定ですが、もし中旬に
新井さんが行くのであれば、休暇取って日程変更しちゃおうかな
(多分ムリですが)。

------------------------------------------------------------
BBS 2815 新井章吾

 白化して死亡したエダサンゴの浅い方と深い方の位置では、あまり海藻の
種類が変わらないかもしれませんが、サンゴが死亡した時期のずれで
遷移の進み具合が異なり、海藻の種類が狭い範囲でも異なることがあるかも
しれません。私は全く同じは所を何回も見ているわけでないので、確証はあ
りません。定期的に同じ場所で調査する機会があれば、見てみます。

> たまたまサンゴの上とか下とか、同じような場所が好きなもの同士が
> 一緒にいるだけかもしれないと考えることもできるのではないでしょうか。

 餌の海藻の種類より、それぞれの種が好む住み場空間の環境が隣接していて、
一緒にいる可能性もあるかもしれません。

> しばらくはクロソラ属を見たら一緒にいる海藻のアップ写真を
> 忘れないで撮るようにしなくては。

 いろいろなケースをよく観察して、記録に残すことが大切です。
------------------------------------------------------------

事務局より:やや抽象的な話が含まれており、把握するのは難しいところもあると思いますが、新井さんが根気よく説明して下さるので、皆さん、遠慮なさらずに基本的な質問をぶつけて下さい。新井さんにとってもご自分の話をどこまで理解して貰えるかというのはとても気に掛かっていると思います。その為には、質問責めにするのが一番なのです。「分からない話を、分からないと」そのままにしないで根気よく詰めて欲しいなと思います。12/07/2006




2)白保の礁池における海藻、スズメダイ類、藻食魚、堆泥、サンゴの関係
    新井章吾 (株)海藻研究所 12/09/2006

 石垣白保の礁池においては、生きている正常なサンゴも着生基質としている海藻にカサモクがあるが、サンゴの一部を死亡させる程度である(図1)。白化しているがまだ生きているサンゴに入植する海藻に、緑藻のペルクサリア属の1種、イトグサ属、テングサモドキ属(非常に細い種類)の小型海藻3種がある。

 スズメダイ類の密度が低い場合、それらの小型海藻は、藻食魚の採食によって排除され、水温の低下する秋まで白化していても死亡していなければ、復活することが観察される。これに対して、スズメダイ類の密度が高い場合、藻食魚はスズメダイ類の攻撃によって採食活動が妨げられ、入植した小型海藻にサンゴは覆われる。入植した海藻が浮泥を集積することで、サンゴは確実に死亡すると考えられる。


図1.匍匐根による栄養繁殖によって生きているサンゴに生育しているカサモク
   (よくラッパモクに誤同定されている)。

 また、藻園の一部を周辺の砂地に移設し、スズメダイ類が藻食魚の採食を妨げない場合、藻園にどのような影響があるのか観察した。周辺から数分以内に藻食魚が集まり、40〜50個体の藻食魚によって藻園のテングサモドキ属の1種は15〜20分以内に採食されつくした。


図2.上:正常なサンゴと藻食魚。下:スズメダイ類の「藻園」の隣接地で白化したサンゴ。
スズメダイ類が藻食魚の採食活動を妨げるため、小型海藻が入植してきている。


図3.スズメダイ類の藻園から離れた場所で白化したエダサンゴに入植したペルクサリア属
1種とイトグサ属の1種.。藻食魚による採食で、海藻の入植は少ない。



図4.ペルクサリア属の1種. 遷移初期に入植する緑藻. スズメダイ類のテリトリー内
でなければ、すぐに藻食魚に採食されてしまう。また、スズメダイ類がこの海藻を除藻して
いるのは観察できなかった. 遷移の進行に伴い、消失していくと思われる





図5.スズメダイ類が維持している藻園。白っぽく見えるのは、密生している
テングサモドキ属によって泥が堆積しているためである。




図6.上:比較的最近死亡したサンゴに入植したテングサモドキ属の1種には堆泥が少ない。
   下:古い死サンゴに密生して生育するテングサモドキ属の1種では堆泥が多い。
対比のため、左側の死サンゴでは堆泥を払い落とした。





図7.スズメダイ類の藻園からテングサモドキ属の1種が密生する死サンゴを
周辺の砂地に移設した採食実験。数分以内に藻食魚が集まり、
15〜20分以内に採食されつくした。

質問コーナー


事務局より:海藻による泥のトラップというのは気づきにくいことかも知れません。そのような視点も大切ですね。
 それから、僕は本当にスズメダイがとても苦手です。新井さんの写真に写っているスズメダイの種を教えて下さい。各図には複数ある場合がありますが、その場合は上から順に、図7−1,図7−2という風に示して下さい。御願いします。新井さんも助かるだろうと思います。

 図6−1はハナナガスズメダイではないでしょうか?八重山の黒島で岡本一志さんの研究をお手伝いした時の記憶が蘇ります。