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オキゴンベ編その2をお届けします。
なお、レポートはオキゴンベ編全5回の連載が終了したのち、提出していただきます。提出方法等の詳細については、のちほどお知らせします。

オキゴンベ編  余吾 豊
(文・写真・図)
2)何を知りたい?

図2.餌を採るオキゴンベ。アミ類や魚類の稚魚などを海底で待ちかまえ、写真のように飛び上がって捕食する。待ち伏せ型の採餌方法である。
 鹿児島県川辺郡坊津町。1987年8月4日。12:30

 ゴンベ科の魚は、世界に9属35種ほどいるとされ、その大部分がインドー太平洋に分布している。日本では、7属13種が知られているが、オキゴンベはその中で最も北まで分布するゴンベ類である。

 当時は、ゴンベ類の生態についての報告はごく少なかった。サラサゴンベでは、オスが複数のメスのハレムを囲むなわばりを持ったハレム社会になっていると言う他は、殆ど明らかにされていなかった。その後、サンゴ礁域の種では、テリー・ドナルドソンという研究者を中心に繁殖生態の観察が進んでいる。現在までに分かっているゴンベ科の情報は最後に紹介する。

 オキゴンベは雌雄同体であること、そして、メスからオスへ性転換しているのではないかと言われていた。もし、そのような性転換をしているのなら、その社会はサラサゴンベと同様にハレム型社会である可能性が高い(注3)。本当にそうなのだろうか?

 85年の観察は、ざっとしたもので、たった2日だけのものであったが、一夫一妻のペアなのではという印象が強かった。しかし、これは直感だけによるもので、何も根拠はなかった。それを、87年に調べようとした。そのためには、産卵を確かめるのが一番手っ取り早いのだが、坊津における産卵期、産卵時間、産卵場所などは分からなかった。ただし、東海大の水槽での観察から、日没の役1時間後に産卵したことが分っていた。産卵を直ぐに観察出来ないという可能性もある。こればかりはやってみないと分からないのである。

 先ず、状況証拠を押さえなくてはならない。その為には、各個体の行動圏(注4)を調べ、誰と誰とが互いに排斥しあい、誰と誰とが仲が良いかを知ることである。それをはっきりさせるためには、個体を一尾ずつ識別し、地図上に各個体の動き回る範囲をはっきりと記録して、行動圏を知らなければならない。きっちりした地図が必要になる。きっちりした地図とは何だろう?

 やるべき作業は、先ず、個体識別と地図作りである。87年5月に、地図を作製しながら、1尾ずつの特徴をノートに記録し始めた。以下、次号。



注3:メスが大きなオスを繁殖相手に選ぶ魚では、小さなオスには繁殖のチャンスがなく、あぶれてしまう。一方、オスはメスの選り好みをしないのが一般である。このような場合、小さい間はメスとして、卵を産み、大きくなってオスに性転換すると、一生の間に無駄に繁殖期を過ごすことがなく、沢山の子孫を残すことが出来る。

注4:岩礁域やサンゴ礁に定住する魚では、餌を探す一定の範囲があり、それを行動圏という。餌を食べる範囲を他から守るなわばりとは異なる。サンマやマグロのように、餌を食べ、繁殖のために季節的に大回遊するような場合は、行動圏とは言わない。

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