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オキゴンベ編  余吾 豊
(文・写真・図)

3)地図作りを始めたら


図3 坊津町泊浦荒所のフィールドマップ

 フィールドの地図を図3に示した。現場は弧状の砂浜の前面で、左手(西)に岩礁が張り出し、右手は湾奥の漁港になっている。海にはいると、転石とサンゴ類の瓦礫が混じった海底が水深4mまで続き、その先は落ち込んで、水深8mほどの砂質底になる。左手の岩礁は洗岩、暗岩となって海底まで続いており、その岩礁の縁にテトラポッドが3基投入されている。この付近に2尾居る様子。岩礁の先端より沖に、低い岩盤が砂質底から露出していて、ここにも1尾いる。フィールドの中央には養殖イケスの鉄枠が沈んでいる。このイケスに大きいのがよく居る。この低い岩盤と鉄枠の沖は、完全な砂質底で、ウミヒルモが生え、所々に、クロイトハゼのマウンドが見られた。

 地図を作るにあたっては、テトラポッド、露出する岩、イケス枠の角などを基点として、基準線とする巻尺を何本か張り、その方位をコンパスで計っておいた。この基準線上に出るいくつかのサンゴやイソギンチャク等を物標として、ノートに書き入れた。また、適当な物標がない場合は、コンクリート釘を岩などに打ち込んで物標を作り、基点からの距離を記録した。ついで、基準線から離れた海底にも物標を増やしていった。以上のような、基点、基準線、30ヶ所ほどの物標を準備して、大まかな地図の下書きを先ず作った。

 次に、基点から近い適当な物標を3点取り、この3点間の距離を測って、各物標の位置関係を割り出し、このような三角形をつなげていった。水の中のことで、巻尺がもつれたり、緩んだり、ノートに書き損ねたりした。データを持ち帰って、作図すると、とんでもない位置関係になっていたりしたこともあった。しかし、修正を重ねると、5日くらいで、使用に耐える地図が出来上がった。

 毎日、測量作業を始める前には、ざっと見渡すのだが、良く居る場所にオキゴンベの姿が見えないときもあった。海底に膝をついて、巻尺、ハンマー、釘や物標のラベル等を入れたウエストポーチなどを置いて、水中ノートに、時間、水温、透視度等を書き入れていると、目の前にオキゴンベが座っていることが何回かあった。魚の方から僕を見つけて寄ってくるのである。僕を見上げている姿を見ると、吹き出しそうになる。それから、ハンマーや巻尺に近寄り、子細に見つめている。調べているらしい。

 じっとしていると、実によく姿を見せてくれる魚である。巻尺の上に座ったりするので大きさが測りやすい。一度、念のために持っていた巻網に跳び付いて自分から網に絡んだこともあった。この時は、もがいているのをそっと外しながら、定規で全長と体長を測らせてもらった。目を凝らすと、胸鰭や尾鰭に古い傷から生じたような脹らんだ部分や小さな黒い点があったり、背鰭棘の一部が折れていたりで、標識を付けなくても個体識別の手掛かりを持つ個体がみられた。5月の末に、行動圏調査を行うことにして、福岡へ戻った。以下、次号。

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