LET'S WATCHING

オキゴンベ編  余吾 豊
(文・写真・図)

4)行動圏と産卵

 5月の末から6月始めに個体識別の徹底と行動圏の調査を行い、7月末から8月始めに産卵を確認する調査を実施した。その結果から得た行動圏を図4と図5に示した。図4は全ての観察結果から各個体が動き回る範囲を示したもので、図5は8月に観察したペアの産卵時間帯(日没の頃)だけの動いた範囲を示している。図4中の数字は全長(単位はミリ)を示している。なお、括弧で括ったのは推定値である


図4 オキゴンベ5個体の行動圏(87年5月〜8月)


図5 オキゴンベ3個体の行動圏
(87年7月31日から8月4日の日没時のみ)

 先ず、5月末には、図4に示すように、5尾のオキゴンベが確認された。8月には、沖の岩盤に居た小型個体が居なくなり、変わってイケス枠のところに現れた。鰭の特徴から、6月から7月の間に移動したものと考えられた。

 ただし、5月の調査では、A♂の行動圏は沖の岩盤の単独?個体の行動圏と重複していない。行動圏のチェック漏れの可能性もある。

 最初の産卵を観察したのは8月1日の午後7時29分である。日没が7時15分であった。この日の午後の観察で、Aメスの腹部が脹らんでいたので、産卵するだろうと考え、日没の約45分前から潜水した。6時45分にC点でオス、メスを発見。この時の海底の照度は47ルクス。オスはしきりにメスの周囲を回ったり、並んで座ったり、腹部を吻でつつく求愛を行う。また、オスは、時々、ペアの上を通り過ぎるブダイやクロサギ等に突進する行動も示す。7時5分からメスが先行してAの岩の方へ移動。7時12分から、高さ約1.5mの岩の頂上まで登り、そこから約80センチほど上方にダッシュして放卵、放精を行った。

 翌日と8月4日にも、このペアの産卵を確認したが、いずれも産卵の40分ほど前に同じ場所で、オスとメスが出会っており、それから同じA岩に移動して産卵していた(8月2日は2mくらい離れた同じようなB岩で産卵)。従って、待ち合わせの場所と産卵する場所が決まっているものと考えられた。

 8月2日に面白い行動が見られた。産卵は午後7時24分で、産卵後、海底に降りたオスがすごい勢いでイケスの方に泳ぎだした。辺りはもう殆ど暗くて、慌てて追いかけた。オスはイケスの枠の上をすざましい勢いで(ゴンベにしては)泳ぐ。追いかけながら、「オキゴンベって泳ぐんだ」と思った。イケスの端に来ると止まった。そこには小さなゴンベが居たのである。懐中電灯を出来るだけ直射しないようにして伺うと、オスはその小さな個体にすり寄るようにしている。しかし、小さいのはじっとしたまま。残圧がすくなくなっており、7時45分まで粘ったが、2尾とも動こうとはしなかった。
 4日も7時36分に産卵し、その直後、やはりオスは終電に乗り遅れないような感じで泳ぎだした。この時はもう真っ暗で、途中、見失ったが、2日と同じ場所で小さなゴンベにすり寄るようにしていた。3日はペアBの産卵を確かめようとしたのだが、これは失敗した。産卵の写真は次号に。

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