研究室の海から No.002/ Page 1



 今回は愛媛大学理学部の海洋研究所UWAを取り上げます。奥田昇さんをはじめ、現在ここで研究中の方々に紹介していただきます(3回に分けて掲載します)。

海洋研究所UWA

・海洋研究所UWAの歴史

海洋研究所UWAは愛媛県の西南部に位置する宇和海室手(もろで)湾を前面に臨む小さな集落の中にひっそりと佇んでいます(図−1)。


図ー1

研究所の歴史は今から遡ること23年前(1978年)、当時、愛媛大学の助手であった柳沢康信教授が大学院生と共に潜水調査地を求めて、この地を訪れたことに端を発します。周辺の候補地を一通り潜り歩いた末、室手湾に腰を据えることとなりました。その決め手となったのは、なんと言っても、この湾に「ネジリンボウ」が沢山生息していたことだそうです。ネジリンボウは共生ハゼの仲間で、その愛嬌のある顔立ちと派手なストライプ模様でダイバーにも人気のある魚です(図ー2)。


図ー2

何を隠そう、ネジリンボウは柳沢教授が発見した魚なのです。柳沢教授は、当地でハゼとテッポウエビの共生に関する研究に着手しました。その後、数多くの学生とともに潜水調査によって海産生物の生態を明らかにする研究スタイルを確立し、そのフィールド拠点として研究所UWAを築き上げ、今日に至りました。

現在の研究所はちょうど三代目にあたります。それまでは空き家となった民家をお借りして寝泊まりしていたそうですが、海岸から遠く、自動車で潜水器材を運んで屋外で着替えをするという煩わしさも手伝ってか、数名の有志が研究所の新設に立ち上がったそうです。コンセプトはもちろん「研究所から歩いてエントリーできる手軽さ」。建築にあたっては、当時の愛媛大学理学部生物学科の教官によるご支援と土地を快く提供してくださった民宿「はま」の輔田さんのご厚意を頂戴しました。そして、今年、めでたく築10周年を迎えました。

ところで、当所への来訪者はたいてい「UWAって何の略?」と尋ねてきます。UWAはローマ字式に読むと「うわ」、つまり、宇和海の「宇和」なのですが、Under Water Associates(水中の仲間たち)の頭文字とも掛け合わされています。

・室手湾の特徴

室手湾は湾口部が400mほどの小さな入り江です(図−3)。


図ー3

海底は主に転石と砂地から構成されています。湾内は最深部でも15m程度で、潮の流れがほとんどなく、地形が単純なため初級者ダイバーの講習などにもよく利用されています。研究のやり易さという点から、室手湾は大変優れていると言えるでしょう。


室手湾の生物相は非常に多彩です。転石域にはミドリイシサンゴの仲間が、そして、砂地域にはハナガササンゴの仲間が小さなコロニーを形成し、あちらこちらに点在しています。緯度的には温帯に属していますが、熱帯性の海産動物も数多く見られます。これは宇和海が豊後水道から流入する黒潮の強い影響下にあり、南方系の生き物を潮流に乗せて運んでくるためです。特に、黒潮を呼び込む台風シーズンが到来すると、普段は見られない熱帯産の稚魚が出現し、海中も賑わいを増します。この時期は透視度が20mを越えることも珍しくなく、水温も暖かいのでダイビングをするにはもってこいのシーズンです。

現在までに室手湾で確認されている魚種数はじつに450種にものぼります(平田智法氏、私信)。もちろん、この湾が魚の生息に好ましい環境であることは言うに及びませんが、なによりも、ここで調査に従事した研究者によって費やされた膨大な潜水観察時間がこの数値に反映されています。日本では希種とされる魚も数多く確認されており、魚マニア垂涎のダイビングスポットと言ってよいでしょう。

・海洋研究所UWAの運営・利用

当研究所は公的な研究機関ではありませんので、ここに常駐する学生を中心としたスタッフによって運営されています。基本的に研究目的で潜水を行う者に対して広く門戸を開いております。宿泊や施設使用は可能ですが、エアタンク以外の潜水器材は各自で用意する必要があります。その他、当地で潜水調査を行う上で満たさなければならない諸条件が有りますので、ご利用の際は事前に愛媛大学の柳沢教授(電話089−927−9638)までご連絡ください。

なお、余談ではありますが、ここでの食事は全て自炊で賄われ、その料理の美味しさにはかなり定評があります。ここでの食事が忘れられずに、再び調査に訪れるリピーターもいるほどです。

・研究概要

これまでに愛媛大学はもとより、大阪市立大学、高知大学、京都大学、広島大学、奈良女子大学など、他の研究機関からも多くの方が室手湾で調査を行ってきました。現在も常駐メンバー10名ほどが調査を行っており、小さな研究所は大きな活気に満ちあふれています(図−4)。


図ー4

それでは、ここのメンバーに簡単な自己紹介と研究の概要を述べてもらいます。
(次のページに続きます。乞うご期待!)

文・奥田 昇(愛媛大学・日本学術振興会特別研究員)

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