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(1)サンゴの生殖様式と生殖周期

海の神秘

初夏の満月の夜、多くのサンゴが一斉に産卵するシーンは、とても神秘的で、多くのダイヴァーを魅了します。また、最近では多くのダイヴィングショップがツアーを企画しているので、実際にご覧になられた方もおられるかもしれません。

しかし、一言でサンゴといっても、いろんな種類のサンゴがいて、その生殖も実に多様性に富んでいます。

ここでは、サンゴの生殖様式と生殖周期について簡単にまとめてみましたので参考にしていただけたらと思います。

サンゴに関する基礎知識

サンゴは石のように見えますが、れっきとした動物であることは皆さんご存じだと思います。昼間は堅い骨格の中でじっとしていることが多いのですが、夜になるとイソギンチャクのように、触手を伸ばしてプランクトンを食べます。分類学的にもイソギンチャクやクラゲに近い仲間です。

サンゴは、基本的には、たくさんの個体が集まって群体を形成しています。そのひとつの個体をポリプと言います。

ポリプは分裂して数を増やし、群体は成長します。したがって、同一の群体内のポリプはすべてクローンといえます。

繁殖期になると、ポリプは卵と精子を海中に放出します。受精した卵と精子はプラヌラ幼生になります(ただし、中には、体内で受精したのちプラヌラ幼生を放出するサンゴもあります)。プラヌラ幼生は、しばらく浮遊したのち、着底し、新しいポリプとなります。


石灰藻上に着生した7個体のサンゴのポリプが写っています。コユビミドリイシというイシサンゴ類の種です。産卵から約10日後、着生後3日以内のサンゴです。1つのポリプの直径は2mm程度、骨格はまだ出来ていません。(渋野拓郎氏撮影)

それでは、サンゴたちの生殖様式と生殖周期について見ていきましょう。

生殖様式

無性生殖

文字どおり、性が関与しない生殖方法です。これは、例えば台風などで、群体が壊れたりした場合に、その破片が再生・成長することで増殖する方法です。この性質を使ってサンゴ礁の造成も試みられています。

クサビライシの仲間は、群体を作らずに単体で生活しているのですが、自切によって殖えるものもあります。

ほかにも、骨格からポリプが抜けだして、新しいコロニーを造るものや、プラヌラ幼生を無性的に作るものもあります。


有性生殖

サンゴにも雌雄の区別があります。

 (A)雌雄異体

1つのポリプが卵あるいは精子のどちらか一方を作る。
(サンゴでは、一つの群体内のポリプはすべてクローンなので、群体ごとに雌雄が決まることになります=雌雄異群体)

     

 (B)雌雄同体

1つのポリプが卵と精子の両方を作る

サンゴには、卵あるいは精子を体外に放出するものと、受精させて後にプラヌラ幼生を放出するものとがあります。
    

 (C)放卵・放精型

卵や精子を体外に放出する。この場合、卵や精子を固まり(バンドルという)で放出するものが多い。

 (D)保育型

体内で受精させた後、プラヌラ幼生を体外に放出する。

     

上記A・B、C・Dの組み合わせによって、生殖様式を次の4つのタイプに分けることができます。括弧内の種数は、参考までにインド洋・太平洋産のイシサンゴ類170種を4つのパターンに分類したものです(これによると、大部分が雌雄同体・放卵放精型であることがわかります)。

雌雄同体・放卵放精型(126種)
  ミドリイシ科
  キクメイシ科
  ビワガライシ科
  ウミバラ科
  オオトゲサンゴ科
  サザナミサンゴ科

雌雄異体・放卵放精型(34種)
  ハマサンゴ科
  ヒラフキサンゴ科
  クサビライシ科
  チョウジガイ科
  キサンゴ科

雌雄同体・保育型(6種)
  ヤサイサンゴ科

雌雄異体・保育型(4種)
  キサンゴ科

生殖周期

月周性

保育型のサンゴでは、月周性がみられることが知られています。ただし、月齢周期の中のどの時期に産卵するのかについては、同一種であっても、シーズンや地域によって異なることが観察されています。

たとえば、グレートバリアリーフのハナヤサイサンゴは、夏期は新月期に、冬季は満月期に、そして秋の以降期(5-6月)には新月から満月にかけての長い期間にまたがってプラヌラを放出することが報告されています。

そして、同じハナヤサイサンゴがパラオでは、新月から上弦の月にかけて放出し、ハワイでは上弦の月から満月にかけて放出するタイプと、下弦の月から新月にかけて放出するタイプとが存在し、沖縄では冬の4カ月を除く期間に、新月から上弦の月にかけてプラヌラを放出するそうです。

年周性

放卵・放精型サンゴの多くが、初夏の満月前後、数日間の夜間に産卵する、いわゆる一斉産卵をします。ただし、どれだけの種が同調するのかについては、地域差がみられるようで、温度範囲(年較差)が大きい地域ほど、同調性が高い傾向がみられます。

リッチモンドとハンターの研究によると、年間の水温差を比べてみると、グアムで2.2度、カリブ海で3.2度、ハワイで4.0度、紅海で6.0度、沖縄で9.8度、クレートバリアリーフで12.0度であり、各地における同調性は、それぞれ18、26、29、20、65、88%だったそうです。

というわけで、必ずしも全てのサンゴが一斉に産卵するわけではないのですね。

最後に

サンゴの生殖様式と生殖周期についてまとめてみてわかったことは、非常に多様性に富んでいて、まだまだわからないことが沢山あるということでした。会員の皆様の観察とレポートを期待します。

写真は、西海区水産研究所石垣支所の林原 毅・渋野拓郎両氏のご厚意によるものです。また、このお二人と東海大学海洋研究所の横地洋之氏には、様々なご教示を頂きました。


参考文献

「サンゴの生物学」山里清著、東京大学出版会
「日本動物大百科(無脊椎動物)」平凡社
「サンゴ礁」高橋達郎著、古今書院

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