研究室の海から No.002(2)

「人工海草に蝟集するマダイ稚魚の行動、および魚類群集構造の研究」
高知大学院 農学部 阿部文彦

 藻場、中でも海草のアマモ場は様々な魚類、エビ・カニ類、その他の生物の摂食場所、逃避・隠れ場所、産卵場所となり生育場として重要です。しかし、最近は環境破壊などの問題で海の生き物の生息場の減少がよく取り上げられています。この研究は、人工の海草を海の中に設置し、生き物たちの新たな生息場としての可能性を探るために始めました。
 一年前に設置したときは見るからに人工物であった人工海草には、現在多くの海藻が付着して天然の環境に近づいているように見えます。そして、人工海草の周辺にはプランクトンやエビ・カニ類、小型の魚、大型の魚が集まっていることが観察できます。ここには、ひとつの生態系ができていると考えられ、この人工海草は大きな影響力を持っていることが分かります。
 集まってきた魚の中から特に、マダイ稚魚はどのように人工海草を利用し、他の生物とどのような関係を持つのかを研究しています。そして、人工海草がマダイ稚魚にとってどのような効果を持つのか調べています。


「アオリイカSepioteuthis lessonianaの産卵行動観察」
枝川 大二郎

 アオリイカは北海道南部以南の日本各地の沿岸に分布し、ミズイカ、モイカ、バショウイカなどの様々な方言名があり古くから漁業者に親しまれているイカです。産卵期にはごく浅い藻場にも産卵にやって来るので、産卵する雌とそれを見守る雄の姿を見ることができます。またたいへん美味であり、高価に取引されるために漁業資源としても重要なものになっています。観察において苦労する点は産卵している時以外は警戒してあまり近くにいけないことと、近くでアオリイカを狙った釣りが盛んに行われていることです。



「同所的に生息するネンブツダイ (Apogon semilineatus) とクロホシイシモチ (Apogon notatus) の種間関係(主に資源利用の分割機構について)」
福森 香代子

 テンジクダイ科魚類は、雄が繁殖期間中口内保育をする魚として知られています。この科に属するネンブツダイとクロホシイシモチは、繁殖期間中雌がなわばりを持つという珍しい習性をもっています。雌は、繁殖の始まる2ヶ月も前から懸命になわばり防衛をおこなっています。修士課程の研究で、クロホシイシモチのなわばりが、同種雄からの卵捕食を避ける機能をもっていることをこれまで明らかにしてきました。この2種は、かなり高密度の生息場所でいったいどのようになわばりを分け合い、産卵時の干渉を避けつつ共存しているのでしょうか。現在個体を標識して追跡中です。



「ハシナガウバウオDiademichthys lineatusの繁殖生態」
胡摩ヶ野大介
大阪市立大学理学研究科生物地球系専攻動物社会学研究室

 ハシナガウバウオはインド-西太平洋の珊瑚・岩礁域に分布し、大きくても6B位の小さな魚です。雄の方が雌よりも、吻が極端に太いという特徴を持ちます。この魚は初夏頃から、雄が牡蛎のような二枚貝の殻に営巣し繁殖が始まります。雌は巣に卵を一層に産み付けて巣から出ていきます。卵の保護を行うのは雄で、卵に水流を送り続ける行動(ファンニング)を一日中行ってます。一つの巣にいろんな発生段階の卵があり、巣はいつも卵でいっぱいです。毎日のように複数の雌が卵が孵化して空いた場所に卵を産み足していくからです。このような産卵が秋まで続くので、雄は何ヶ月間も卵保護を行うことになります。なんとこの魚、卵を保護している間は巣から外へ出てきません。じゃあ雄は何ヶ月間も絶食して卵保護を行っているかと言えば、そんなことはなく、自分の子である卵の一部を毎日のように食べています。そうしないとこんなに長く多くの卵を保護することはできないのでしょう。



「オニハゼの社会的行動と巣穴の移動について」
松本 晋

 オニハゼは室手では普通に見られ、砂地のテッポウエビが掘る穴にテッポウエビと一緒に住んでいます(→共生)。見た目はすごく地味で警戒心も強い魚ですが、観察するとそれなりに、愛嬌のある魚です。この魚は夜間、巣穴を閉じていますが朝になると穴をあけて出てきます。しかもこの穴の場所は日によって異なり、時には違うテッポウエビの穴に引っ越すこともあります。私はこれらの巣穴の移動がオニハゼの暮らしにどのような影響を及ぼしているか調べています。

戻る