LET'S STUDYING - 2


 このセミナーは、BBSで話題になっている生物について、
情報を提供し、会員の方からの質問を引き出し、さらにそれに
答えていくものです。

2.ハリセンボンの大量出現
 
 3)ハリセンボンの産卵と初期生活史

 つぎに、坂本隆志、鈴木克美両氏による研究から、水
槽内で産卵したハリセンボンのことを紹介します。産卵
した親魚は、石川県や福井県の定置網に入ったもので、
これらを金沢水族館と東海大海洋博物館の水槽で水温を
調整して飼育し、受精卵からふ化後、最長69日間にわ
たって育て、仔魚期から稚魚期、幼魚期までの成長と発
育を記録したものです。

 産卵は5月から7月の夜9時前後に起こり、1尾のメ
スを複数のオスが下から水面まで押し上げるようにして
上昇し、水面直下で放卵、放精しました。それまでは、
沈性卵を産むと考えられていたのですが、分離浮性卵で
した。
 先に紹介した西村さんは、沈性卵を産むと想定してい
たのですが、これは無理もありません。


図2 ハリセンボンの幼期ー仔魚期
(坂本・鈴木、1978より一部改変して引用)


図3 ハリセンボンの幼期ー稚魚期以降
(坂本・鈴木、1978より一部改変して引用)

 産み出された卵は直径1.6〜1.7ミリほどの球形。全長
21センチの雌が約3万2千個を産んだそうです。ふ化
までは102〜117時間。 

 図2に出ているのは、全長5ミリ以下の仔魚ですから
目にすることはないと思います。この仔魚期の特徴はい
ろいろありますが、一つ挙げるとすると、ふ化後10日
後までに認められる卵黄の外側を包む厚い外膜で、ハコ
フグ科の仔魚と似ることでしょうか。

 図3のAから稚魚期に入り、腹部に黒斑が現れます。
全長8ミリ位。このくらいのを水槽で飼うとさぞ可愛い
でしょうね。背面は黒から次第に青みを帯び、腹面は濃
い黄色。この後、全長11ミリ位で、腹部の濃黄色は褪せ
始め、ふ化後25日を経たB、Cでは、全長2センチ。
腹部は白くなり、腹部の黒斑は消え始める。ふ化後50
日を経たD、Eになると、全長3.3センチ。すでにハ
リセンボンの体型になり、幼魚といいます。注目すべき
点は、成魚と同じ背面の斑紋がこの頃に出始めます。F
Gがふ化後66日のもので、全長5センチ弱、腹部の黒
い斑紋はほぼ完全に消え、純白になるとのことです。
これくらいのものが、着底しているのを見た人は居ない
のでしょうか?

 さて、これは水槽内での飼育のために、自然状態での
ものと成長速度やサイズと発育段階の対応には差がある
可能性もあります。色んな点で、慎重になるべきでしょ
うが、同じ個体の成長、発育を追跡できるのは飼育観察
の強みでしょうね。ネット採集された標本は、たちまち
フォルマリンかアルコールの中に浸されて、ある一時点
での情報だけを残すのですから。こうした液浸標本では
たちまち、黄色や赤の色素は消えてしまいますし、体も
縮みます。全ての記録は残らないのです。

 ここで、ハリセンボンを観察する際、あるいは生態写
真を撮る際に、幼期に特徴づけられる斑紋、体色に注意
したら面白いだろうと思います。自然状態で、何時(生
まれてからどれくらいと言う意味)、どこに定着するか
は、海況次第と言うことが多いのではないでしょうか?
小さくても成魚の体色、斑紋を持っていたり、大きくて
も幼魚の特徴を備えたりするものに出会う可能性がある
と思うのです。大洋に投げ出された幼いハリセンボンの
遙かな旅は、考えるだけでロマンだなあって思うのは私
一人ではないでしょう。

 「日本産魚類生態図鑑」には、幼期の写真が出てます
が、これは実に可愛い。但し、ふ化後4ヶ月、全長2.5
センチとなっているのは編集段階での間違いではないか
とみられます。ふ化後4ヶ月ならもっと大きいと思われ
ます(鈴木克美氏との私信による)。

 次節では、最近のハリセンボンの大量接岸情報を整理
してみます。
 参考文献及び謝辞は、セミナーの最後に一括して紹介
します。

Q&A

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