FIELD REPORT

会員からの研究レポート第2号です!

「ミジンベニハゼ」の産卵 石田根吉

 空き缶から顔を出している写真でお馴染みのミジンベ
ニハゼは富戸で見かける事は珍しく、一年に1〜2個体
しか目にしません。ミジンベニハゼにはもう少し泥っ
ぽい環境が必要なのかもしれません。
 これまで富戸に現れたミジンは、空き瓶、空き缶、
ラッパウニの殻などを利用して住処としていました。
また、出現するのはいつも砂地の水深25m以深に限られ
ているように思えます。

 そして、1999年の5月のことです。

(写真「ミジン-1」)


1999/05/29 水温14℃ 透視度20m 月齢14

 水深30mの砂地で、広口ガラス瓶(桃屋の江戸紫が
入っているような瓶)にミジンベニハゼが1匹入って
いるのを見つけた。体長は4cm程度。この辺りは富戸
のヨコバマでも比較的砂が細かく、一度舞い上げると
中々収まらないような砂質です。それがミジンの好み
に合ったのかもしれません。

(写真「ミジン-2」)

 このミジン、よく見るとお腹がポッテリしているよう
に見えたので、恐らくメスであると思われました。この
写真でもお腹の辺りに卵と思しきものがお腹から透けて
見えるのがお分かりかと思います。
 更に、興味深いのは、このミジンの尻ビレの付近にあ
る白く小さな丸い粒の塊です。どう見ても自然の砂粒に
は見えません。卵塊の様に思えます。でも、ちょっと不
思議です。
 ミジンの卵はこれより以前に富戸で見た事がありまし
たが、これとは色が全然違ってまっ黄色でした。
 「じゃあ、他の貝か何かの卵なのかな?」
と思ってこの瓶の中は勿論、付近の水底も探しましたが
それらしいものは見つけられませんでした。
 仮に、ミジンの卵だとしても、一匹しか居ないのに無
駄に未受精卵を産むのは繁殖資源の無駄遣いにも思えま
す。

 ひょっとして、ミジンには「練習産卵」なんていう習
性があるのでしょうか?

(注;これ以降、全ての写真は実際は上下逆です。つま
り、ミジンは大抵瓶の天井部分にくっ付いていました。
見易さを考慮して、ここでは実際と天地を逆にしてご紹
介します)

(写真「ミジン-3」)


1999/06/05 水温17℃ 透視度15m 月齢21

 この日、ミジンのボトルを見に行ってビックリ。何
と、ペアになっていたのです。メスと思われる先週の
個体より少し小さな個体が増えていました。ひょっと
してオスなのでしょうか。
 そして、前の週に見つけた謎の白い卵(?)です。
何と、前の週に見つけた以外にも増えているのです。
この写真の大口を開けたメスの体の下に白く小さな粒
が並んでいるのが分かると思います。確証はありませ
んが、前週には、ここにはこんなものは無かったと思
います。
 という事は、この白い卵はやはりミジンによっても
たらされたものなのでしょうか。

1999/06/13 水温15℃ 透視度15m 月齢29

 ミジンのカップルに特に変化はありませんでした。
ところがあの謎の白い卵が綺麗さっぱりなくなってし
まっていたのです。果たしてあの白い粒はミジン以外
の何かの卵で、それがハッチアウトしてしまったので
しょうか。或いはミジンに食われてしまったのでしょ
うか。この謎は今もって分からぬままです。

(写真「ミジン-4」)


1999/06/21 水温20℃ 透視度15m 月齢8

 ミジンが遂に正真正銘の産卵を開始。瓶の天井部分に
黄色い卵がビッシリ並びました。ペアになったと確認し
てから2週間目の事でした。
 この時点で、産卵後3日程度と考えられます
(写真は省略しますが、この2日前の1999/06/19には
既に卵があった事を確認しています)。
 この写真では見難いかも知れませんが、卵黄と瓶のガ
ラス表面の間に黒く細い糸の様なものが伸びているのが
分かります。はじめは、卵をガラス表面に繋ぎとめてお
く器官かと思ったのですが、どうやら、そこが仔魚の尾
鰭になっていくようです。
 2匹のミジンがこの卵塊の傍を行ったり来たりする度
に卵がユラユラ揺れます。

(写真「ミジン-5」)


1999/06/26 水温20℃ 透明度13m 月齢12

 1週間後の朝一番。ミジンの卵にライトを当てると
ギラギラと輝き目玉が並んでいるのがはっきりと分か
りました。また、尾鰭の部分をクリッとUの字に曲げ
ているのまでが明瞭に見て取れました。

 この時、卵の上を行ったり来たりしたり、卵塊に水
を吹きかけたりしたりして忙しそうに働いているのは
主にオスの方で、メスは瓶の口の付近でジッとしてい
ることの方が多いようでした。
 「これはハッチアウト近し」を予感させました。

(写真「ミジン-6」)

 その日の午後遅く。ハッチアウトがあるとしても夕刻
だろうと予想されたので、午後4:30最終 Exの富戸では
見られそうにもありません。でも、何だか諦め切れずに
足を運びました。相変わらず、オスは忙しそうにパタパ
タ。記念にと思って撮ったのがこの写真ですが、後日現
像してからビックリ。左側奥のオスの口許にハッチアウ
トして伸び上がっている仔魚が映っているではありませ
んか。午後4時15分の出来事でした。

(写真「ミジン-7」)


1999/06/27 水温20℃ 透明度14m 月齢13

 「あの卵はどうなったかな?」
と翌朝見に行って見ました。すると、昨夕の卵が完全に
ハッチアウトしていたのは勿論なのですが、何と、次の
産卵が既にもう始まっていたのです。瓶の表面の卵が
まっ黄色のものに様変わりしていたのです。
 新しく卵が産み付けられているエリアは、前日のエリ
アと少しずれているものの、重なっている部分も結構あ
るのではないかなと思われました。
 写真をよく見ると、メスの腹鰭の前に短い産卵管が伸
びていてそこを通り抜けようとする卵が透けて見えます。

 この時、メスはゆっくり移動しながら順に卵を並べて
居るようでした。一方、オスは始終放精に遣ってくる訳
ではなく、暫く傍に居て、思い出した頃に傍を通りかか
るという感じでした。そのときに放精していたのでしょ
うか。スズメダイの仲間のオスの様に下腹部を卵に押し
当てて 「しっかり放精してます」というのとは違うよ
うでした。

(写真「ミジン-8」)


1999/07/03 水温18℃ 透明度15m 月齢19

 産卵から6日目。二つの目玉と、ガラス表面に伸びて
いる尾鰭(?)部分ははっきり分かりましたが、まだ卵
黄はタップリ残しているようでした。ハッチアウトまで
あと2〜3日くらいかなと思えます。

「ミジンの卵の写真を発生順に追えば、
 ミジン‐7(産卵)、3、8、5、6(ハッチ
アウト)の順になります」

 以上のように、このシーズンには3度の産卵を確認でき
ました。
 水温20℃で産卵からハッチアウトまで凡そ8〜9日程度
でした。また、ペアになってから産卵までが凡そ2週間で
した。この期間が大事なのか、それより低水温(15℃)
が続いていたのが一挙に20℃まで上昇したのが大事なの
か大切なのかは分かりません。

 【最後に】
何にしろ、毎週覗く度に新たな変化を発見でき、忘れら
れない初夏のひと時となりました。常連の方ばかりでな
く、多くの方々の発言の契機に慣れれば幸いです。

 

事務局より

 実に面白いレポートですね。
言いたいこと、ひらめいたこと、見に行って調べたいこ
と、疑問点、山盛りですが、ちょっと黙っています。

 写真は重くならないように送って下さっているので、
いま、もう少し大きな物を送ってもらっています。
次に、キーとなる部分を拡大してアップします。

 ちょっとひとこと

 古い話ですが、道津・藤田(1963)の水槽内産卵
の論文があります。これは底引き網に入っていた貝殻の
中にペアで見つかったミジンベニハゼを飼育した研究で
す。当時は、潜水など誰にでもできることではなかった
のですから、このような方法でしかミジンベニハゼは手
に入らなかったのです。
 それにしても、この著者らはこう書いています。
「このハゼは産卵期にだけ雌雄一対の産卵群を作るので
はなく、未成魚期からすでに一対の組をなし、その後も
この一夫一妻の関係を保ちながら生活を続け・・・・
ミジンベニハゼで予測されるこの一夫一妻の生活につい
天延棲息場で確かめることははなはだ困難なことであろ
う。」
 それから、約40年がすぎました。このお話は、著者
の先生方(二人ともに僕の大先輩です)にもお知らせし
ようと思います。
 この予測は、大当たりではないかと思います。やはり
先輩の言うことには耳を貸さなくちゃ。

 さて、海底に転がっている空き瓶や貝殻などは、今後
ヨーク注意する必要がありますね。

 では、掲示板でお待ちしています。    余吾 豊

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