LABORATORY-1

WEB SEMINARにLABORATORYというコーナーを作りました。
トップは今泉さんが田辺で見つけた卵塊のついて思わぬ発展がありました。

1.謎の卵塊 平田智法

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関係ギャラリー:015,018 

卵塊の件で報告します。
5/19に愛媛県の水深5mで卵塊を採集しました。

しかし、先にお送りしました卵塊の卵は長径1mmほどでしたが (TPG-018)
今回採集したものは長径280μm(0.28mm) ほどでした。
また卵塊自体も長さ3〜5cmと小さな点、さらに必ずしも対で存在しない
ことも違っていました。

しかし卵が糸状に連なって編み上げられていること、
砂地から立ち上がっていること、砂地に細くなりながら埋まっているなど、
先の卵塊とかなり似通ったものでした。

これらのことより同種ではないものの近縁種の卵塊と考えました。
このようにいくつか似た卵塊が存在するようで、今泉さん撮影 (TPG-015)
の卵塊との違いがどの程度の違いかどうかは正確には分からないように思います。

この卵塊をUWAの学生さんにお願いしてエアレーションのみで室温で飼育
したところ、5/21夕方に孵化が始まりました。しかし孵化はだらだらと少しずつ
進行し、翌5/22朝にもまだ孵化してないものが多数ありました。

補注:UWAというのは「研究室の海からー2」で紹介しています。

幼生の顕微鏡写真です。


画像から腹足類(巻き貝類)のヴェリジャー幼生であることは間違いない
ものと思います。

「無脊椎動物の発生」によく似たスケッチ(ハマシイノミガイの1種)
が載っていました。


その他、卵とその被覆構造の形態として似たものは、クチキレモドキ、
キクノハナガイがあげられています。
上記3種は
腹足綱後鰓亜綱腸紐目トウガタガイ科(クチキレモドキ)
腹足綱有肺亜綱基眼目オカミミガイ科(ハマシイノミガイ)
腹足綱有肺亜綱基眼目コウダカカラマツガイ科(キクノハナガイ)
と分類されていました。

この卵塊で興味深いことがありました。
1:1つの卵の中に2つの胚があるものがかなりの割合で見られた
  (30〜50%)
2:胚の正常発生率がかなり低い(10〜20%)
3:孵化した幼生がかなりステージの発達したヴェリジャーであった

前述の「無脊椎動物の発生」p.307に
「卵は卵嚢中でヴェリジャー幼生にまで発育して卵嚢の一定部位から泳ぎ
出す種類が多いが、卵嚢中で変態を終了して成体と同じ形にまで発育して
はい出す種類もまれではない。発生のエネルギー源として卵嚢中の物質を
利用するものと考えられるが、同一卵嚢中の他の卵を消化して発育する
場合も多い。たちえばLebour('37)によれば、ヨーロッパチヂミボラでは
数百の卵のうち15〜25しか孵化しないという。この現象はアクキガイ科、
エゾバイ科などのものによく見られ、孵化しない卵には未受精卵、多精卵、
発生の初期に停止するものなどがあり、他のヴェリジャーの食餌になる。
またこれらの種類では、幼生はヴェリジャー期を過ぎてから孵化するが、
その大きさは栄養卵の多少により様々である。」
とありました。

なかなか生き物って面白いものです。
勉強させていただきました。



事務局より:思わぬ発展です。

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