LABORATORY-3

レントゲンを使わずに魚の骨格を透かし見る 
余吾 豊

関係BBS:1038,1040,1222-1225

07/27/02 
11/01/02に更新

 魚の骨格を調べるには、蒸して皮や肉を除去して骨格標本にする方法やレントゲンで撮影する方法などがあります。レントゲンが一番手っ取り早いのですが、一方向からの情報しか得られませんし、設備や放射線取り扱い資格も必要で一般的ではありません。

 別に、透明標本にして骨だけを染色する方法があります。トリプシンという消化酵素を使い、筋肉を透明にしてしまいます。液を入れた瓶に順次移し替えていき、軟骨と硬骨とを別の色素で染め分けします。トリプシンの他では、あまり特殊な薬品は要りませんし、器材も瓶だけで良いのです。時間は掛かります。

 すでにお気づきの方もあると思いますが、ホシテンスの幼魚がテンス幼魚と混同され続けていました。日本産魚類検索第2版では修正されていますが、テンスの幼魚の図は出されていません。かねてからおかしいと思っていましたが、平田智紀さんや瀬能 宏さんとお話ししたところ、間違っていますねと意見がまとまりました。それで、テンスとホシテンスを分ける決め手の一つとなっている1から3番目までの背鰭棘の位置関係を調べようと思い、三宅島で採集したホシテンスの幼魚を透明標本にしました。テンスの幼魚は標本が無く、成魚とホシテンスの成魚は大きいので、レントゲンに撮りました。北九州のスーパーでは、テンスが時々、出ます。アマダイやエソ、キジハタ、アオハタなどを狙った釣りの雑魚なのです。
キジハタは、アコウと呼ばれ、高級魚です。40センチもあれば3千円以上で売られています。

標本:ホシテンス幼魚
全長:47ミリ
三宅島伊ヶ谷、7/12/1982
   

 図1 ホシテンス透明標本


 頭や背骨は濃い赤紫、鰭の棘や軟条は青く染まっています。
 硬骨はアリザニンレッド、軟骨はアルシャンブルーという色素で染め分けます。棘や軟条は成長に従い、硬骨化していきます。この時点では、まだ軟骨です。


 図2 背鰭の起部を拡大。

青いローマ数字は背鰭棘、赤いアラビヤ数字は脊椎から出ている神経棘を示しています。第2棘と第3棘とが離れているのが分かります。成魚になっても離れていて、テンスではこれほど離れていません。棘や軟条は坦鰭骨という骨で支えられていますが、青い矢印で示したのは、背鰭棘を支えて いない不完全坦鰭骨といいます。
 マダイの塩焼きなど食べるときには、この辺りを箸でつつき回すと3本、出てきますよ。これが3種類の農具に似ているのす。是非、一度、お遊びあれ。続く

11/01/02 更新

 さーて、石田さんからホシテンスとテンスの幼魚の写真が届きました。


図3 ホシテンスの幼魚(撮影:石田根吉)
2000/10/28 富戸・ヨコバマ 砂地 水深15m 水温22℃ 全長4cm程

 これは今までに図鑑に良く出ているホシテンスの幼魚ですね。眼の下からのラインが胸鰭の基部にまで斜めに走っています。また背鰭第1棘先端の鰭膜が旗のように拡がっています。


図4 テンスの幼魚(撮影:石田根吉)
1997/11/16 富戸・ヨコバマ 砂地 水深25m 水温19℃ 全長4cm程


 これはテンスに間違いないと思います。目を通る横帯がまっすぐ下に向かうこと、第1背鰭先端の鰭膜が拡がらないことに加え、第2背鰭の付け根が第3背鰭に近いでしょう。ホシテンスはちょっと離れています。また、腹鰭が真っ黒なのも大きな特徴です。黒くない個体も居るようですが・・

「幼魚ガイドブック」で、ホシテンスのように頭を下に向けて泳ぐことは少ないと記載されている点は僕には分かりませんが、これまで見たテンス幼魚の写真では石田さんの写真と同じく、海底からあまり離れずに座っているような姿勢のものが多いのも確かです。



 図5 テンスとホシテンスの背鰭起部骨格系の相違。

 この図はちょっと分かりにくいかもしれませんが、参考までに。
 随分と時間が掛かったものです。あーすっきりした。
 テンス幼魚の標本は未だ入手できていません。あー、実物を見てみたいな。可愛いだろうな

戻る