2.深場での産卵
先のレポートでは、浅場タイプの単独型と集合型の産卵を紹介しました。今回は深場でのみ見られるマツバスズメダイに似た婚姻色を示す個体の産卵です。深場というのは、大体、水深25m以深、40m辺りまでとお考え下さい。また、同じ場所で浅場タイプも産卵していることがあり、込み入った状況になっています。
今年の4/29、5/10、5/26以降に観察された深場タイプの産卵を紹介します。
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1)集合型 4/29に観察された100尾を越える大きな群がりの産卵
観察時刻10:35〜 水温21℃ ナズマド 35m 転石帯
雄雌100尾を越える群がり。海底の一ヶ所に深場タイプの雄たちが集まり、中層には雌が群泳していた。雄達は水底に留まることが多く、体色は尾鰭の黄色がVの字に入り先端が水色に輝く。この100尾を越える大きな群がりの産卵パターンでは雌との色彩の差は余り顕著ではありません。この深場タイプの雌雄差については後で触れます。
図14 雄の婚姻色(kibire_1.jpg)
一度に産卵床へ入る雌は2〜3尾と複数ではあるが、雄は必ず1匹だった。しかも同じ産卵床で産卵させ、雌が来ない時は、その卵の上でホバリング。
このホバリングの時の雄の体色は体色の色が明るくなる傾向となる。
ウミウチワなどの影に産卵床を形成することが多かった。このときの雌の産卵時間は10秒前後と長かったが、一度産卵すると上層に泳ぎ去っていた。
図15 海底で卵を守っている時の雄の色彩(kibire_3.jpg)
5/10に観察された100尾前後の群がりの産卵
観察時刻10:35〜 長潮 水温21℃ ナズマド 45m 斜面
浅場の集合型と同じ日に見られた。午前中のみ約100尾前後が集まり、午後はそれぞれの雄が産卵床で雌に産卵させていた。雄の数は30尾前後、水底から2〜5m付近の中層で上層にいる雌達に対し、尾鰭先端の青白く光り輝きく尾鰭をよく振って誘うという感じです。
図16 雌を誘う時の体色(f_kihoshi_2.jpg)
水底に下りてしまって少し輝きが褪せてしまっているが尾鰭や背鰭の後端が輝くブルーに発色している事がよく分る。
雄の求愛に応え、雌が導かれるとの下のように産卵床の上で大きく鰭を広げ停止します。おそらく雌に場所を教えているのだと思います。
図17 産卵床の雄 (f_kihoshi_3.jpg)
一度に産卵床へ入る雌は1尾だけで、雄に誘われた個体のみが産卵していた。雌が卵を産み始めると雄は後方で待機し放精の準備をしていた。メスの1回の産卵時間は浅場単独タイプより長く10数秒。産卵が終わると放精、すぐさま同じ雌が産卵、そして放精という感じで、3〜5回繰り返す。この間雌は一度も上昇することなく水底に留まったままだった。
雌は産卵中は黒く体色変化させ、背鰭の付け根の白斑が出たり消えたりしていた。
図18 産卵中のペア。雌は全体が黒ずんでいる(f_kihoshi_4.jpg)
図19 雌の背鰭後端下部に白斑が出ている(f_kihoshi_5.jpg)
午後2:20に撮影に行くと求愛行動は見られず、雄はそれぞれの産卵床の上で留まり、その内の一個体の雄が雌に産卵させていた。
このような大規模なグループの産卵がみられたのは4/29と5/10だけで、その翌日の観察では、卵を守っている雄だけが観察された。以上、この両日に見られた群がりでの産卵を深場タイプの集合型としておきます。
深場タイプの集合型産卵が行われた時、浅場タイプの動向。
4/29 深場タイプが行われている周辺にも浅場タイプも見られましたが、深場タイプに混じることはありませんでした。また、それよりも浅い水域では浅場タイプの単独型で産卵が行われていました。
5/10 この日は浅場タイプのキホシたちが浅い転石帯に集まって大産卵をしていたので、深場タイプの行われている産卵場所の周囲で浅場タイプのキホシを見ることはありませんでした。