LABORATORY

(有)水交舎のボロ事務所にも、僕の家にも研究室なんてものはない。2流メーカーの光学顕微鏡と実体顕微鏡、解剖セット、薬品類、上皿天秤位は事務所に置いてある。しかし、大した設備がなくとも、魚、無脊椎動物、海草、海藻を調べる手段は色々あるし、実験器具などを \100 SHOP、金物市、東急ハンズ、ホーム・センター等で探すのも楽しいものである。作業は台所のテーブルでも十分可能なことが多い。水道とコンロが近いのが良いのである。それでも困った時は、大学に行って、後輩に、「おい、ちょっと、なんとかしてくれんか」とすごむ。

実験器具は、(株)京都科学(075-621-2225、03-3253-2861、素敵なカタログ?を送ってくれます)や東京の志賀昆虫社(TEL?、渋いカタログがもらえるかも?)等でもある程度は揃う。後者は、なかなかに頑固なので、電話では、用途や対象生物を丁寧にお伝えするのが肝要。

  7. 魚類の歯 余吾 豊 07/06/03 開始

7-1 メジロザメ科            07/06/03
7-2 ウミタナゴ科とその近縁の魚達    03/31/04
7-3 ハリセンボン            04/11/04

7-1  メジロザメ科 余吾 豊 07/06/03

関係BBS:1663

 BBS1663 で佐藤さんからサメ類の歯の生え替わりについて質問がありました。
丁度、家にハワイのおみやげだったサメの両顎があったので、これを例に紹介します。


図1 前から見た両顎(差し渡しは約40B)。

 上顎(upper jaw)と下顎(lower jaw)に並んだ最前列の顎歯が見えます。上顎と下顎を合わせて、まさしくジョーズです。
 分類する上で重要な形質となる歯の数を数えますが、中央の縫合部(b)と左右(a、c)の歯の数から歯式を求めます。
 上顎は図の左から、16,2,16,下顎も同じく、16,2,16ですから、この場合の歯式は
16-2-16/16-2-16 と表します。このサメは、歯式と両顎歯の形からすると、クロトガリザメCarchahinus falciformis ではないかと思います。全長3m程となり、マグロ類等の遊泳性の魚やイカ類などを食べ、人は襲わないないそうです。


図2 内側から見た両顎


図3 内側から見た上顎の歯。補充歯の列が分かる。

 上顎の歯は少し斜めに倒れた三角形で、その両辺に細かなノコギリの歯状の鋸歯(きょし)が並んでいます。イタチザメの歯に似ています。


図4 内側から見た下顎の歯。補充歯の列が分かる。

 下顎の歯は鋭く尖った三矢形で、鋸歯はありません。また、上顎の歯よりも小型です。アオザメの歯に似ています。


図5 内側、斜め上から見た下顎の歯。補充歯の列が分かる。

上顎と下顎の歯の形が違いますね。僕の想像ですが、上顎の歯は獲物を切り裂き、下顎の歯は獲物をがっちりくわえるのに適しているのではないかなと思います。



図6 イタチザメの両顎。差し渡し、約75cm(佐賀県呼子の海産物店)。
顎歯は大きく、少ないのが分かりますね。こりゃあ、でかい。

図7 ホオジロザメの両顎(沖縄海洋博記念水族館)



BBS 1671より:
魚類の歯は、両顎(上アゴと下アゴ)にある顎歯の他に、口蓋部や咽頭部にもあります。普通、歯という場合は顎歯ですね。歯はエナメル層と象牙質とからなっていますが、これらは表皮と真皮に由来するので、皮膚が変化したものと言って良いでしょう。また、顎歯を支える顎の骨は、鰓弓(エラの芯にあたる弓状の棒)が変化したものです。

この両顎を持つのは脊椎動物だけで、最初に顎を持った魚類の誕生によって僕らもモグモグ、バリバリ、喰っているわけですね。この辺の話は「磯魚の生態学」を書いた奥野良之助さんの「さかな陸に上がる」(創元社)に詳しいです。

歯が生え替わる魚はとても多く、サメだけではありません。サメの場合は、予備の歯が何列も内側に並んでいて、一番前の歯が抜けると後から後から補充されます。予備の歯を持っていない魚でも、補充用の歯の材料(歯芽)があり、後から補うことができます。エサ生物を捕らえる上で歯はとても重要なのですね。人間にとっても勿論大事なのですが、友人の歯科医は、「虫歯を病気と思っている人は殆どいないもんね」とぼやいています。ダイヴィング中に歯の痛みに泣いた人も多いでしょう。

歯の形は、食性によって様々で、歯を見るだけでもどんな喰い方をしているのかおよその見当を付けることが出来ますし、分類する上でも大事なポイントになります。また、一生の間に食性(えさ)が変わる魚では、その歯の形も変わります。沖縄などでは、サメの顎歯のペンダントが売られていますね。これはアオザメ、これはイタチザメ・・等と楽しめますし、シンプルなデザインで美しいものです。

咽頭歯は咽頭骨(上下にある)に生えている歯です。これも種によって随分と異なります。巨大なのはアオブダイの仲間で、1m位の個体では、上下とも大人の握り拳くらいあり、それを動かす筋肉は単一電池ほどの太さがあります。これでサンゴをバリバリ擦り潰しているのですね。ベラやブダイでは咽頭骨だけでおよその種が分かります。「大きな咽頭骨」と言う意味の属名がついているベラは何でしょう?

7−2 ウミタナゴ科とその近縁の魚達  余吾 豊 03/31/04
関係BBS:2029、

図鑑では、ウミタナゴ科、スズメダイ科、ベラ科、ブダイ科と言うように代表的な磯魚達が並んでいます。近縁なのですが、どんな共通点を持っているのでしょう?

松原喜代松先生の「魚類の形態と検索」(1971年)から、少し紹介しましょう。

硬骨魚綱真骨上目以下の検索を見ると、まだ、この時点では、目の検索表が完成していません。現在も無理なようです。そこで、各目ごとに亜目の検索に飛んでいます。目の系統立てが難しいのですね。

備考:この『亜』というのは、目という分類群(タクソンともいう。タクソンの複数形はタクサ)より小さいグループを意味します。その逆が『上』で、上目とか上科などと使われます。亜目は、目と科の中間、上科は目と科の中間に位置するわけです。

ウミタナゴ科、スズメダイ科、ベラ科、ブダイ科は全てスズキ目に属します。そして、ウミタナゴ科はウミタナゴ亜目、スズメダイ科はスズメダイ亜目、ベラ科とブダイ科はベラ亜目に含まれます。この3つの亜目は、「左右の下咽頭骨が癒合する」という共通点をもっていると書いて居られます。

検索表(p. 479)をそのままコピーすると

左右の下咽頭骨は相癒合する
 卵胎生・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウミタナゴ亜目
 卵 生
  鼻孔は左右各々1個・・・・・・・・・・・スズメダイ亜目*
  鼻孔は左右各々2個・・・・・・・・・・・ベラ亜目

備考:Chromis 属は左右各々2個が正しい。
 
さて、咽頭骨って、どんなものでしょうね。

工事中

図8 ウミタナゴの両顎、咽頭骨、肩甲骨、烏口骨
(殆ど原形をとどめていないので、後ほどアップします)



図9 カンムリブダイの頭骨、両顎、咽頭骨(全長約1.2m)

石垣島の魚屋を覗いていたら、大きなカンムリブダイ(地方名:クジラフッタイ)が何尾もコンクリートの床に並べられていた。「ニイサン、サシミハ イランネ?」と笑い掛けるおばちゃんに、「この魚を捌いたら、頭、もらえますか?」と聞くと、おかしそうに笑い、「イイサー」という。しばらく、「朱欒」という喫茶店で時間を潰し、店に戻ると、床には既に姿がない。さっきのおばちゃんを見つけて、「頭、頂戴」というと、「外の残飯に捨てたよー」と答える。原色の残飯が山になっている。裸足になり、裾と袖をまくり上げて探していると、別のおばちゃんが来て、「何をしているかー?」と聞く。「クジラフッタイの頭はどこかなー?」と答えると、「頭を食べるの?お金がないのかなぁ?、もっと良い魚をあげるよー」と笑う。「いや、どーも。でも、これがいい」とビニールに入れてもらった。25才、懐かしい思い出だ。

黒島に渡り、大きな鍋を貸してもらい、たき火に鍋を掛けて頭をぶち込んだ。それが、写真の骨である。上咽頭骨には、直径3センチくらいの太い筋肉が付いていた。かなり旨かったですよ。

図10 クジラフッタイを抱えてご満悦の著者(撮影:福田照雄)。
写真、捜索中。

ブダイ類の咽頭骨は、沖縄の貝塚からも出てくる。その研究をしたのが、以前、東京水産大に居られた服部 仁先生である。焼けこげたものも見つかり、焼いて食べていたことが分かるそうだ。

図11 ツキノワブダイの咽頭骨上下。 全長36cm。口永良部島。
1976.7.28. 咽頭歯は麦の実を立てたよう。目盛りは1cm(以下も同様)
矢印1:太い筋肉が附着していた部分。これで前後にスラストするのだろう。
矢印2:下咽頭骨の歯板の中には、将来交代する予備の咽頭歯が入っていた。



図12 咽頭骨の位置と構造。服部(1979)より複写。



図13 ティラピアの咽頭骨上下。スズメダイの咽頭骨は小さいので、
集めていない。同じスズメダイ亜目のカワスズメ科でまかなう。
多分ティラピア・ニロチカかモザンビカだと思うけども、もう、忘れた。
購入。全長約40cm。味は良かった。
矢印:咽頭歯は細長く、鋭い。触るとざらざらする。食性の関係だろう。



図14 キュウセンの咽頭骨上下。咽頭歯はこぶ状。
福岡県津屋崎。全長約28cm。1979.6.4.


参考文献
服部 仁 1979 ナガラ原西貝塚出土のブダイ科魚類の遺骸について.「伊江島ナガラ原西貝塚ー緊急発掘調査報告書、自然遺物編」.沖縄県伊江村教育委員会.p.149-173.


どじを踏みました。ウミタナゴの咽頭骨を無くしたあと、少し、煮方が足りないので、弱火にしてコンロにかけました。その後、電話が掛かり・・・もう、お分かりでしょう。

臭いなあと思ったら、もう、鍋の中が真っ黒。1時間、換気扇を回しました。

7−3 ハリセンボン  余吾 豊 04/11/04
関係BBS:2088
ジャーン!!

図15 ボーン・アイデンティティ・クイズ。
これは何処の骨でしょう?賞品はクマノミ・携帯ストラップ!!

ヒント:魚はハリセンボンかイシガキフグでしょう。
八重山群島黒島の砂浜で拾ったものです。


図16 友竹さんから届いたハリセンボンの若魚。全長8センチ。

図17 皮を剥ぎ、下顎を取り去る。
両顎歯は癒合し、くちばし状になっている。

図18 上顎を腹側から拡大して写す。手が震える。
赤丸の中がクイズの骨。
歯板と言い、ハリセンボン科魚類では特に良く発達している。
下顎の内側にもあります。

図19 上顎(左)と下顎(右)。
フォルマリンに入れていたので、肉がなかなか外れません。
後から、アップします。

砂浜でハリセンボンを拾ったら、口の中を調べてみましょう。



このクイズはとっても難しかったですね。僕も拾ってから、その正体を突き止めるまで、相当、困りました。

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