LET'S WATCHING - 4
「共生ハゼの世界」
 このセミナーは、海洋生物について、
研究者達の経験談などから話題を提供し、観察や記録の参考
になる手がかりを提供するものです。

2.テッポウエビ類の分類再検討に伴う和名と写真との照合表
石田根吉 著・野村恵一 監修 01/31/04
モンツキテッポウエビの箇所を一部修正(
空色で示す)02/09/04

関連BBS:1821, 1860, 1861, 1863, 1882

 ハゼと共生するテッポウエビの仲間はダイバーに人気が高いにもかかわらず、図鑑などには“Alpheus sp.”としか書かれていない種が多く、「和名で呼びたい病」の僕などはかなりイライラが募っていました。そうしたところ、串本海中公園センターの野村恵一さんが、日本産のテッポウエビ11種について整理を行ったとのお知らせが BBS1821 で紹介されました。

野村恵一 2003 日本に産するハゼ類と共生するテッポウエビ類の分類学的検討.
 日本生物地理学会会報、第58巻、49-70

 それぞれのテッポウエビの生態写真が掲載されている図鑑の紹介もされています。そこで、今回の報告例と自分の手持ちの図鑑との対照表を作ってみました。皆さんにもご利用頂ければと思います。

 論文中には沢山の引用例があるのですが、一般のダイバーに馴染みがあり、僕が持っている図鑑として次の7冊を選んでまとめました。

「海の甲殻類」,峯水 亮,2000. 344 pp.文一総合出版,東京.

「エビ・カニ ガイドブック ‐ 伊豆諸島・八丈島の海から」
加藤昌一・奥野淳兒,2001.157pp.阪急コミュニケーションズ,東京.

「エビ・カニ ガイドブック2 ‐ 沖縄久米島の海から」,川本剛志・
奥野淳兒,2001.157pp.阪急コミュニケーションズ,東京.

「ハゼガイドブック」,林 公義・白鳥岳朋,2003.223pp.
阪急コミュニケーションズ,東京.

「海洋生物ガイドブック」,益田 一,1999.404pp.東海大学出版会,東京.

「フィールド図鑑 海岸動物」(改訂版)益田一・中村宏治・林公義・
小林安雅 編集 1993.東海大学出版会,東京.
(節足動物エビ類の章は武田正倫氏が分担執筆)

「サンゴ礁の生きもの」,奥谷喬司編著,1994.
山渓フィールドブックス,9:220-232.山と渓谷社,東京.
(フジツボ・シャコ・エビ類の章は武田正倫氏が分担執筆)

「海の甲殻類」の改訂第2版と「沖縄海中生物図鑑8」は直接に参照していませんが、野村さんの論文より、掲載ページを引用しています。 また、余吾さんから野村さんに対照表の確認をお願いして頂いたところ、論文中には記載されていない引用例を更に幾つか紹介していただけましたので、それらも加えました。

和名・学名 図鑑と掲載頁
コトブキテッポウエビ
    Alpheus randalli
「海の甲殻類」 p 85 上段
「エビ・カニガイドブック」 p 45
「エビ・カニガイドブック2」 p 52 下段
「ハゼガイドブック」 p 126
「海洋生物ガイドブック」 p 49 2段目
ニセオニテッポウエビ
    Alpheus rapacida
「海の甲殻類」 p 86, Alpheus sp.11
「ハゼガイドブック」 p 149, Alpheus sp.3
テッポウエビ
    Alpheus brevicristatus
「海の甲殻類」(改訂第2版)p 87
「サンゴ礁の生きもの」 p.227: 8
「沖縄海中生物図鑑8」 p 209
トウゾクテッポウエビ *1
    Alpheus rapax
「海の甲殻類」(改訂第2版)p 82
ホリテッポウエビ
    Alpheus macellarius
「沖縄海中生物図鑑8」 p 210,
  Alpheus rapax として掲載されている種
サザレテッポウエビ
    Alpheus sp. 1
該当無し
クマドリテッポウエビ
    Alpheus sp. 2
「海の甲殻類」(改訂第2版)p 86,
   Alpheus sp.19
「エビ・カニガイドブック2」 p 54 上段,
  Alpheus sp.B
「海洋生物ガイドブック」 p 50,
  Alpheus rapaxとして掲載されている種
「海岸動物」 p 112 下段右, Alpheus sp.
モンツキテッポウエビ
    Alpheus sp. 3
「海の甲殻類」(改訂第2版)p 84
「エビ・カニガイドブック2」 p 52上段
「ハゼガイドブック」 p 148 写真No.281
「海洋生物ガイドブック」 p 50 2段目
「サンゴ礁の生きもの」 p 228:5
  コシジロテッポウエビとして掲載されている種
ホリモンツキテッポウエビ
    Alpheus sp. 4
「海の甲殻類」p 82 下段,
  Alpheus rapaxとして掲載されている種
「海洋生物ガイドブック」 p 320 最下段,
  ギンガハゼと共生している種
ニシキテッポウエビ
    Alpheus bellulus
「海の甲殻類」(改訂第2版)p 81
「エビ・カニガイドブック2」 p 53, Alpheus sp
「ハゼガイドブック」 p148 最上段右,
  ニシキテッポウエビの熱帯型として掲載
「海岸動物」 p 112上段
「海洋生物ガイドブック」 p 48 最下段
「海洋生物ガイドブック」 p 49 最上段,
  Alpheus sp.
「海岸動物」 p 113下段, Alpheus sp.
「沖縄海中生物図鑑8」 p 208
コシジロテッポウエビ
    Alpheus sp. 5
「海の甲殻類」(改訂第2版)p 83 上段,
  Alpheus sp.7
「エビ・カニガイドブック」 p 47
「ハゼガイドブック」 p148
「海洋生物ガイドブック」 p 49 3段目
「沖縄海中生物図鑑8」 p 211

*1:「山渓フィールドブックス サンゴ礁の生き物」の p 228:4.
トウゾクテッポウエビ Alpheus rapax と記載されている種は、現在未記載種と考えられるもので、標本による検討が望まれる(記:野村恵一)。

後記

 いやぁ、思ったより大変な作業でした。日本語の論文に書いてある事を図鑑で確かめながらまとめるだけでこんななのですから、これら全ての種について文献調査・同定作業を進められた野村さんの苦労のごくごく一端ですが思い知らされました。さあ、こうして多くのテッポウエビで和名が出揃ったものの、それらを海の中で本当に見分けられるかとなると甚だ心もとないものがあります。こうして、また新たなイライラが始まりそうな予感です。     石田根吉



 以前から「テッポウエビの分類屋はさぼっている」と皆様からお叱りを頂戴し、なんとかせねばと思いつつ、分類学的な障壁や標本不足から今日まで来てしまいました。まだ、ハゼ類との共棲種の分類学的な決着には至らないのですが、罪滅ぼしに、手持ちの標本の範囲で、和名を固定させ、国内での種の扱いの便宜をはからしていただいた次第です。
 テッポウエビ類は皆、穴蔵生活をしていますが、種多様性は著しく高く、色彩や模様はどれも個性的です。国内だけでもテッポウエビ類の未記載種は100種は軽くあります。ハゼ類との共棲種に限っても、未記載種は20はあると思っています。色彩や模様が違っていたら、まず、別種とにらんでいただいて大きなはずれはありません。これからも、本類の共棲に関してたくさんの知見が集積することを期待しています。                    野村恵一 


 
石田さん、ご苦労様でした。野村さん、有り難うございました。
皆さんに活用して頂くことを考えると、石田さんには、つい、細かなことを何度もお願いしました。野村さんには、今後、共生ハゼの情報もお届けすることで、報いたいと思います。   余吾 豊
          
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