LET'S STUDYING - 6(7)
 
 このセミナーは、BBSで話題になっている生物について、
  情報を提供し、会員の方からの質問を引き出し、さらにそれに
  答えていくものです。

魚類の性(SEXUALITY IN FISHES)

1.性が変わる 06/12/02
2.変わりやすいのか、変わりにくいのか(新しい時代)07/01/02
3.婚姻システムと性転換(発展期)07/09/02 
4.婚姻システムと性差(発展期2)08/17/02
5.婚姻システムと性差(拡大発展期)08/27/02             
6.婚姻システムと性差(変革期)09/26/02
A.ハナダイ類の産卵 10/11/02



7.クマノミ類の社会から 
 −1 ハマクマノミの社会 02/23/04
 −2 クマノミの社会 

7.クマノミ類の社会から

関連BBS:1878, 1879, 1892, 1903-1907

はじめに
 
 雑誌、新聞、TVなどで、クマノミは小さいときはオス、それからメスに変わる」、あるいは「最初は未熟なオスで、それからオスになって・・・」というような表現を目にしたり、聞いたりします。これを間違いだと言ってしまうと驚く方が多いのですね。間違いと言うよりも、ある程度知っているからこそ、起こす取り違えなのです。
 それはどうしてでしょうか?


1.ハマクマノミの社会 
02/25/04 更新 末尾にQ&A

 折良く、原さんから奄美のハマクマノミの報告が届きました。「おや?これは面白いぞ。丁度良い。乗っかってやろう」と思いました。
 まず、原さんの書き込みに写真をまじえて紹介します。

【BBS:1878】
先週、奄美大島に行っていたのですが、たまたま撮ったハマクマノミの画像を見ていて、不思議に思ったことがあるので、みなさんのご意見をうかがいたいと思いました。

ハマクマノミの幼魚は、白い横帯が2〜3本あり、成長に従って後部の帯から消えていき、成魚では頭部の1本のみになると聞いています。
当地で何個体かのハマクマノミを見たところ、確かに頭部と中央部に2本の白帯を持つ全長3.5cmほどの個体がいて、それが幼魚なのだろうと認識しました。


原 多加志 01/18/04
奄美大島南部黒埼西、水深7〜10m 水温22℃

ところが、別のイソギンチャクには、全長8cmほどの明らかに成魚と見られる個体と、全長2.5cmほどの小さい個体の2個体が生息していました。うかつにも、あまりにも小さいために幼魚かと思い、成魚1・幼魚1のグループだとその場では認識したのですが、後で画像を見てみるとその小さい個体には白色横帯が頭部に1本しかありません。


原 多加志 01/18/04
奄美大島南部黒埼西、水深7〜10m 水温22℃

 これは小さいながらも幼魚ではなく、成熟したオスと見るべきなのでしょうか。



1−1.瀬底島のハマクマノミ

 日本産クマノミ類は6種で、この内、クマノミについては、モイヤーさん、越智さん、服部さん等の野外研究があります。しかし、その他についての生態研究は非常に少ないのが現状です。ハマクマノミについては、服部さんが沖縄県本部町瀬底島で行った研究(Hattori, 1991; Hirose, 1995)があるだけです。


原 多加志 1999
奄美大島南部

 原さんのペアの写真です。右がメスで、左がオスです。相当にサイズが違います。しかし、オスの白帯は完全に1本となっています。イソギンチャクは、タマイタダキイソギンチャクと呼ばれるものですが、モイヤーさんはサンゴイソギンチャクだと主張していました。先端が膨らんでいるのは一時的な変化に過ぎないというのです。ともかく、このイソギンチャクに入っていることが多いですね。

 
服部さんの論文から、瀬底島でのハマクマノミの世界を整理してみましょう。

【グループ】
 ハマクマノミは、通常、2〜3尾で一つのイソギンチャクに入っており、これが生活していく上での基本的なグループです。まれに、3つほどの密接したイソギンチャクを一つのグループが利用していることもあります。この場合、一番大きな個体が全てのイソギンチャクを囲む行動圏を持っており、その他の個体は、たいがいどれか一つのイソギンチャクの中にいます。調査区にあった38のイソギンチャクの内、36のイソギンチャクにハマクマノミが入っており、グループの個体数は、2尾から8尾で、イソギンチャクのサイズと比例して多くなります。また、グループの体サイズもイソギンチャクの大きさと比例します。服部さんは、グループで最大の個体をサイズ順位として、α(アルファ)、2番目の個体をβ(ベータ)、それ以下を、γ(ガンマ)、σ(シグマ)と呼んでいます。

 6月から9月の繁殖シーズンを通して、これらのグループには繁殖が起こったものと、繁殖しなかったものとがあり、大きいイソギンチャクに住んでいた方が繁殖する傾向がありました。以下、これらを繁殖グループと非繁殖グループに分けます。繁殖グループ数は24,非繁殖グループ数は11でした。繁殖グループのペアは、勿論、αがメス、βがオスです。非繁殖グループでは、αもβも他の個体も性的にはオスでもメスでもなく、成熟していない卵巣と精巣とが合わさった両性生殖腺を持った個体です。

以下、繁殖グループのαとβを、それぞれメス、オスとし、非繁殖グループの第1位個体をα、第2位個体をβと呼ぶことにしましょう。サイズは標準体長(SL) で示します。

繁殖グループ:メスは 80〜112 mm、オスは 47〜77 mm 。

非繁殖グループ:αは 47〜99 mm、βは17〜59 mm。

以下のテーブルに体長範囲と体長の平均値(黒い三角)で示しています。αはメスとオスの中間サイズ、βはオスよりも小さいですね。

サイズ順位別に見たメス、オス、α、βのサイズ分布
Hattori (1991) より作成

SL 10-20 20-40 30-40 40-50 60-70 70-80 80-90 > 100 > 115
α
β

 グループ別に、メスとオス、あるいはαとβのサイズを比べると、極めて良く互いに対応しており、メスやαが大きなグループでは、オスもβも大きい関係があります。これは繁殖グループでも非繁殖グループでも共通して見られます。メスとオス、また、αとβのサイズの差はとても大きく、平均で約 40mm もあります。上のペアの写真がこの違いをよく示していますね。βとγにも平均で約 35mm くらいのサイズがあります。γとσではそれほど大きな差がありません。これはサイズ自体が小さいことに依りますね。ここのサイズ差はとても重要な意味があります。それはペアを作る際の組み合わせや、成長速度とも深く関連したことを反映しているからです。また、後でも出てくるでしょう。

 生殖腺についてはややこしいと思いますので、末尾に参考として示しています。興味のある方はどうぞ。

 【消失、移動、加入】

 5ヶ月間の観察中、最初に36のグループがあり、メス、オスがそれぞれ24尾、αとβがそれぞれ11尾いました。、この内、メスとαの内の2尾、オスとβの内の2尾がグループから消失しました。また、23尾のγ以下の個体の内の9尾も居なくなりました。調査区の他のイソギンチャクへ移動した例はなく、死亡したものと考えられます。

 イソギンチャクへ新たに加入したのは27尾で、加入時には全てが 10 mm 以下で、着底後、間もないとみられました。この内、5尾がその後、消失しました。

 グループ間の移動は1例だけ認められ、繁殖グループからオスが消失した44日後に、最も近くの、約 6m 離れた非繁殖グループのαが移入してきたそうです。

 【消失後の変化例】
1.メス (110 mm) の消失 8/20
  3ヶ月後まで、残ったオス (71 mm) に変化無し
2.オス (63 mm) の消失 9/17
  残されたのはメス (90 mm) で、44日後に、隣のグループのα (61 mm)
 が移入しペアを組んだ。繁殖の確認なし(上の移動の例)
3.α (82 mm) の消失 6/25
  3ヶ月後まで、残ったβ (38 mm)は性的に変化無し
4.β (22 mm) の消失 11/3
  3ヶ月後まで、残ったα (64 mm) は性的に変化無し


 自然条件下ではグループ間の移動はとても少なく、消失後に、残された個体の性転換や移出・移入も少ないように思えますね。

 【除去実験】これは未だです。

備   考

 生殖腺について少し詳しく見てみましょう。

 全ての採集個体の生殖腺を調べて、次の6つのカテゴリーに分けています。
専門用語を減らしたいのですが、これでも未だ取っ付きにくいでしょう。黄色の部分だけ読んで結構です。

1)未発達:生殖腺がごく小さく、完全に未熟

2)成熟前の精巣ー1:わずかな精母細胞と精子、未熟な卵母細胞などがあるが、性的には未 分化で、未熟なオスともメスとも言えない。

3)成熟前の精巣ー2:わずかな精母細胞と精子、未熟な卵母細胞、卵巣壁などがあるが、
 
精包嚢、卵巣薄板や卵巣腔などの卵巣要素の発達は認められない未熟(メス、オス、どちら にも性分化が可能)

4)成熟した精巣:精子が活発に作られている。卵母細胞、卵巣壁などはあるが、卵巣薄板、 卵巣腔などの卵巣要素の発達は認められない。機能的なオス

5)成熟前の卵巣:未熟な卵母細胞と吸収過程にある古い卵母細胞、卵巣壁に加えて卵巣薄  板、卵巣腔などの卵巣要素の発達は認められる。精子は認められない。未熟なメス。

6)成熟した卵巣:成熟の進んだ卵母細胞と吸収過程にある古い卵母細胞、卵巣壁に加えて卵 巣薄板、卵巣腔などの卵巣要素の発達は認められる。精子は認められない。成熟したメス。

生殖腺の状態とサイズ順位
Hattori (1991) より、改変して引用 
1)〜6)の
成熟状態
個体数
繁殖グループ 非繁殖グループ
サイズ順位 サイズ順位
 α    β   γ    < γ

 α    β   γ    < γ


完全に未熟 1 3 2 2
未熟 4 1 3 1 0
成熟中のオス 3 1 2 1 1 0
機能的なオス 14 1 4
成熟中のメス 4 5
成熟メス 10 1
14 14 8 5 9 8 4 2

生殖腺を調べると色んなことが分かるのですが、注意すべきことがあります。
中嶋さんが「魚類の性転換」第9章にこう書いています。「そもそも、生殖腺の組織像というのは、ある個体の瞬間的な性的状態を示すもので、その後の運命までも完全に予測することはできない。例えば、発達した精巣と未熟卵を合わせ持つオスは、その後卵を成熟させて雌化することもあれば、卵は未熟なままにとどめて雄として機能し続けることもあるだろう。そこで、継続的な個体の性の変化を知るには他の判断材料が必要となる。その1つが生長(生活史)の資料である」

1−2.まとめ

ハマクマノミの社会:Hattori (1991) の論議から要点を抜粋します。

【グループは孤立している?】

 移動は極めて少なく、それぞれのグループは孤立していると考えられる。
 このグループの孤立については、つぎの2つがあります。

 空間的な孤立:宿主イソギンチャクが離れて分布しており、ハマクマノミの行動圏がイソギンチャクに限定されている場合

 社会的な孤立:個体が他のイソギンチャクへ移動することが、そのグループの個体により妨害されている場合

 研究結果から見ると、人為的な排除を行った実験でも移動が少なく、移動した場合でもその移動距離は、隣り合うイソギンチャク同士の間隔の平均値よりも短かったことから、ハマクマノミのグループは空間的に孤立していると見なされる。

 温帯域でのクマノミの研究では、成魚が着底した稚魚の移入を妨害するのではないかと示唆されている(Ochi, 1985)。ハマクマノミでも、除去後のイソギンチャクでは、稚魚が2尾になった時点で、それ以上の稚魚の加入が止んだことから、稚魚の移入に対して、先住者が排除する可能性が考えられる。

【成長の抑制】

 同程度のサイズで比較すると、第1位個体の成長速度は常に第2位個体より大きい。これは第2位個体の成長が抑制されていると考えられる。このためにハマクマノミの第1位と第2位では大きなサイズの違いが生じているのだろう。これはサンゴ礁域に分布する他のクマノミ類でも良く知られている(Allen,1972; Fricke and Fricke, 1979)。しかし、ハマクマノミほどのサイズ差はなく、メスはオスよりやや大きい程度である(Allen, 1972; Fricke and Fricke, 1979; Moyer and Nakazono, 1978)。ハマクマノミでの成長抑制は相当に激しいものと考えるべきであろう。

 イソギンチャクの分布はクマノミ類の社会構造と成長に大きく影響を与えている。

 イソギンチャクの密度が高い温帯域でのクマノミでは、オスや非繁殖個体の一部はメスの縄張りの外までも出かけていく。このような場合には、メスによる成長抑制は働かない。一方で、当歳以下のクマノミ達は一つのイソギンチャクに押し込められており、上位個体からの抑制を受けている。

 A. melanopus は宿主イソギンチャクのサイズによってグループ全員のサイズが制限されている(Ross, 1978 b)。これはハマクマノミでも同様である。

 以上より、クマノミ類では各個体が小さなグループとして孤立した場合には、どんな条件下でも成長の抑制が起こると言えるだろう。

【サイズ依存的性転換と成長抑制】
 
 温帯域のクマノミでは、非繁殖個体の一部はオスを経ないでメスになることが知られている(Ochi and Yanagisawa, 1987; Ochi, 1989a; Hattori and Yanagisawa, 1994)。ハマクマノミでは1例ある。

 クマノミ類では、オスを経ないメス化、あるいはオスからメスへの性転換は数週間から数ヶ月間を要すとされている。

 A. bicinctus では、メス除去後のオスは26日でメスに変わった(Fricke and Fricke, 1977)。クマノミでは非繁殖個体とペア形成したオスは20日でメスに性転換(Hattori and Yanagisawa, 1994)。

 しかし、ハマクマノミでは、メスが消失した後、数カ月経ってもオスは精巣を持ったままであった。
 さらに重要なのは、ハマクマノミの非繁殖グループでは、β個体は成熟した精巣を持っていたのに対し、α個体は成熟した卵巣を持っていないか、または、まだ精巣部の方が発達した状態であった点である。

 これより、新しくペアを形成した後に繁殖まで長く時間が掛かるのは、α個体のメス化が非常に遅い点に起因している。除去実験の結果、2個体(オスと非繁殖個体γ)が2年以内に、それぞれ75 mm と 80 mm に達し、やっとメスに変わった。

 自然条件下でのメスの最小サイズは80 mm、ハマクマノミがメスとして成熟するのは75〜80 mm の範囲で、サイズ依存的である。

 ハマクマノミのメスは非繁殖個体より成長が悪い。第1個体にとって、いつ繁殖を始めるか(卵を産み始めるか)は、その後の卵生産量に大きく影響するだろう。オスはオスである時に成長が抑制されてメスとしての成熟最小サイズまで達することができない。したがってオスは、メスの消失後、このサイズに達してから性転換するのだろう。一方、ハマクマノミほど成長抑制が厳しくない種では、オスは大きく成長でき、メイト消失後すぐにメスに変わるのだと考えられる。

Hattori, A. 1991. Socially controlled growth and size-dependent sex change in the anemonefish Amphiprion frenatus in Okinawa, Japan.Japan. Jour. Ichtyol., 38(2):165-177.



1−3.質疑と展開

【原さんの質問】
服部さんからも回答を頂きましたので、準備していたものも合わせて紹介します。

原:ハマクマノミの幼魚は、白い横帯が2〜3本あり、成長に従って後部の帯から消えていき、成魚では頭部の1本のみになると聞いています。当地で何個体かのハマクマノミを見たところ、確かに頭部と中央部に2本の白帯を持つ全長3.5cmほどの個体がいて、それが幼魚なのだろうと認識しました。

服部:幼魚だと思います。瀬底でも、標準体長で30mm程度で、小さなホストに単独でいる個体に、2本線が残っている場合がありました。
(論文には、白線の数は記してませんが、60mm以下の単独個体はすべて生殖腺の観察から未成熟個体であることが確認されてます)

原:ところが、別のイソギンチャクには、全長8cmほどの明らかに成魚と見られる個体と、全長2.5cmほどの小さい個体の2個体が生息していました。うかつにも、あまりにも小さいために幼魚かと思い、成魚1・幼魚1のグループだとその場では認識したのですが、後で画像を見てみるとその小さい個体には白色横帯が頭部に1本しかありません。となると、これは小さいながらも幼魚ではなく、成熟したオスと見るべきなのでしょうか。

服部:白線1本の個体が成魚とはかぎりません。全長2.5cmでは、幼魚の可能性が高いです。瀬底では、標準体長で40mm未満の成魚(生殖腺でも繁殖経験でも)は見られませんでした。
上の例では、おそらく2.5cmの個体の1個体がすみやかに成長し、40mm程度になった時点で、繁殖を開始すると予想できます。

原:さらに、2点質問があります。
1. ハマクマノミは全長何cmぐらいから性成熟することがあるのですか?

服部:幼魚だと思います。瀬底でも、標準体長で30mm程度で、小さなホストに単独でいる個体に、2本線が残っている場合がありました。論文には、白線の数は記してませんが、60mm以下の単独個体はすべて生殖腺の観察から未成熟個体であることが確認されてます

余吾:野外におけるペアでは、メスが明らかに大きく、繁殖しているメスの最小サイズは 80 mm S L、オスの最小サイズは 46 mm S L となっていましたね。図鑑などから換算率をざっと1.3倍とやっちゃうと、メスが 約105 mm TL、オスが約 60 mm TL と言ったところでしょうか?ただし、このサイズは成熟していた最小サイズですから、どれほどのサイズから、オス、或いはメスとして成熟を始めるかは別に考えなくてはいけません。瀬底島でのメスへの成熟開始の最小サイズは服部さんの研究でかなり詰めた値が出ています。しかし、オスとしての成熟開始は社会要因により幅が広いかも知れません。そこで、あの小さな1本帯の個体が注目されるのですね。

 原さんの観察した2尾とも未だ小さいのでしょうか?水温も違うし、イソギンチャクの密度や分布もちがうでしょうから、奄美と瀬底と簡単に比較してはまずいかも知れませんね。奄美での繁殖ペアのサイズを知りたいです。撮影する際に、正しく全長を押さえる必要がありますね。

原:
2. 白色横帯の消失は成長に比例するのか、それとも性成熟に伴ってなのでしょうか?

服部:
自分より大型の個体と同居すると、すみやかに白線が消失するようです。
ただし、定着時の白線の数は、個体変異のようで、最初から1本の個体もいます。(厳密に定着直後かどうかの保証がないのですが)

原:奄美大島のハマクマノミは比較的小さなタマイタダキイソギンチャクに住んでいることが多く、単独からせいぜい2〜3個体のグループが多いように感じました。上記のうち、白帯が2本ある個体は小さなイソギンチャクに単独で住んでおり、成長度のわりに幼魚の特徴を残しているのは、他個体との関係がないため、性成熟できないせいか・・・・とも
想像しています。

服部:イソギンチャクの大きさ自体も、ハマクマの成長に関係があるようです。
しかし、単独のままですと、性成熟は遅れるようです。イソギンチャクが大きければ、成長自体は早いようです。そして、成魚のペアとなると成長は止まり、優位個体が消失すると劣位だった個体の成長が進みます。

原:残念ながら、この疑問に気づいたのは帰ってきてからだったので、さらに多くの個体で確認することができませんでした。ハマクマノミが分布する地域でよく潜られる方がいらしたら、サイズ、白帯の数、同じイソギンチャク内の他個体の状況を観察されると、面白い結果が得られるかもしれませんね。

服部:研究者は、良くも悪くも狭く深く観察する傾向がありますので、広く
浅く見ると面白い傾向がつかめるかも知れませんし、奄美にも行って見たいです。
広く深く見ていきたいものですね。



展開

先ず、原さんの2本帯と1本帯の小型個体についての観察結果から、考えてみましょう。
2本帯はイソギンチャクに単独で住んでいる小型個体、1本帯は他の大型の1本帯と同じイソギンチャクに住んでいる小型個体ですね。これからサイズは決め手ではないようですね。

となると原さんの考えが俄然、スポットライトを浴びる!

 大型個体では当然、性成熟が進んでおり、1本帯になっている。これは従来から良く知られています。

 そこで、斑紋の変化は性ホルモンが関係し、後の白帯の消失は性成熟に伴って消え始める。これを前提とすると、疑問、仮説、僕らにも検証は可能か?

疑問 単独個体は2本帯なのは何故か?
仮説 単独個体はペアの候補がいないので、成熟を遅らせ、成長にエネル
   ギーを回す。従って、幼期の斑紋が遅くまで残る。
検証 
単独個体で大きな2本帯はいないか調べる。
   単独αが居るイソギンチャクに2尾目βが加入した後、α、βの
   斑紋変化を継続観察して行く。


疑問 単独2本帯と同じくらい小型のβで、1本帯なのは何故か?
仮説 αに将来のペア候補として向かい入れられたβは追い出されること
   がないので、性成熟を始め、斑紋変化が起こる。
検証 同じくらいの大きさの単独2本帯とβ1本帯の成熟状態を調べる。
   観察だけでは難しいが、長期観察すれば繁殖開始サイズの比較データ
   が得られるか。

さらにこんなことは考えられないでしょうか?

仮説 2本帯(稀に3本帯)は、幼期特有の斑紋で、同じイソギンチャクの
   先住者が加入を排除する攻撃を緩める宥和色であり、ペア候補と認め
   られた時点で、宥和色を保つ必要がなくなる。
検証 一つのイソギンチャクに2尾、あるいは3尾の小型個体が入っている
   グループはないか?そこでは各個体の白帯はどうなっているか?
   小さな1本帯ペアの発見!さらに繁殖の確認。この観察があれば鍵に
   なりますね。

   それは相当に孤立したイソギンチャクかも?

しかし、ここには問題がありますね。

 
同じイソギンチャクに受け入れられ、αからペア候補と見なされると性成熟が始まり、幼期の斑紋を失う。しかし、クマノミ類でもこのハマクマノミはα個体からの成長抑制が相当にきつい(ペアのサイズ差は凄い!)。するとβ個体は、幼期の色を捨てることでさらに成長が抑制されることになるのではないか?βには、成熟と成長のジレンマがありそうです。うーん、むずかしいなあ。

別の観点からです。

ハマクマノミはタマイタダキイソギンチャクだけに住み、他のクマノミ類に比べて宿主イソギンチャクへの種特異性が強い、或いは同属間での競合が強く、宿主が制限されているといわれています。「クマノミガイドブック」でも、モイヤーさんはハマクマノミの宿主が限定されていることはクマノミとの競争に弱い為とされていました。

疑問 ハマクマノミの宿主が極めて制限されいることが、移動を制限しており、αの他個体への成長抑制が厳しいというのは理解できる。クマノミ類にとって、イソギンチャクの密度や、競合種の存在はとても大きな意味を持つようだ。具体的にはどのような影響があるのでしょうか?これを次の節への導入にし、ポピュラーで、ハマクマノミより強いとされているクマノミの社会を調べてみたいと思います。

Q&A

【BBS:1878】原 多加志 02/25/04


> ハマクマノミのグループに、繁殖グループと非繁殖グループがあるというの
> は、今回初めて知りました。となると、僕が奄美で見た2個体からなるグルー
> プも非繁殖グループの可能性が高そうですね。で、その場合の組み合わせなん
> ですが、「メス+β」となるのか、それとも「α+β」となるのでしょうか。
> 体長から見て、第1位個体がαの範囲内に入る可能性もないとはいえないよう
> な気がするのです。

先ず、確認を
服部さんは基本的にグループで最大の第1位個体をα、第2位をβと呼んでいます。
話の中で複雑にならないように繁殖グループのαをメス、βをオスと僕が呼び変えました。

それで、何が原因で繁殖しないグループが居るのか?これは服部さんにもお聞きしたのですが、イソギンチャクに原因(サイズ?)がある、クマノミの生理状態が良くない等が考えられるそうです。

> 「メス+β」だった場合、他の種類であればたちまち他の成熟直前のオスな
> どに乗っ取られてしまいそうなものですが、この場合、メスは自分の繁殖機会
> を減らしてまでもβとペアを成しているということになります。ハマクマノミ
> の場合は、グループ間の移動が極端に少ないということが、このような組み合
> わせを可能にしているということなのでしょうか?

単独になったメスがオスを探しに行けるようなら、そうするのではないでしょうか?
移動が出来ない場合は、次に加入してくる個体をひたすら待つしか方法が無いですね。

> 「α+β」であれば極小個体と成魚サイズ個体との組み合わせもなんとなく
> 納得が行きますね。ハマクマノミの場合、メスとして成熟するまでと、オスと
> して成熟するまでの期間というのは、かなりの差があるということは考えられ
> ませんか? つまり、卵子に較べて精子は資源量としてかなり少ないわけです
> から、オスはメスよりもかなり早く成熟し、最終的にはかなりいいタイミング
> でオス・メスとも性成熟に達することができるのではないかということです。

そうですね。
非繁殖グループでは、αの方が成熟が停滞しているという結果、あるいはオスからメスへの性転換に非常に長い期間を要すると言う結果からみても、ハマクマノミの繁殖は、第1位個体の生理状態が鍵を握っているのかも知れませんね。この2尾は、今は繁殖していないのでしょうから、α+βとなり、その後、状態が良ければ、メスとオスになるのでしょうね。


> 幼魚サイズのβが、すでに白帯1本になっているということは、この時間差
> を見越してのことであり、αの存在が性成熟のはじまりを促している・・・・
> というのは、ちょっと無理な仮説かな?

無理ではないでしょう。αが居るということは、幼魚にとって第2位個体になることですから、それが引き金となって一気に幼魚のステージを脱するということなのではないでしょうか。

> ペアのうちのどちらかが消失した場合は、何ヶ月も性転換が起こらず繁殖機
> 会を失っているという事実を考えると、「そんなにうまくできている訳はない
> だろう・・・・」という気もします。

ペアであっても繁殖していないグループがあるのですから厳しい状態ですね。
ともかく、まだ読んでいない論文もあるし、次のクマノミとも合わせて勉強して行きたいですね。服部さん、広瀬さんにもご意見を求めましょう。

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 (Hattori, 1994, 1995, Hattori & Yamaura, 1995 ) 【継父】 

事務局より:

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