研究室の海から No.001

 このコーナーでは、海洋生物に関する研究をおこなっている各地の実験所を紹介します。第1回目は、鹿児島県口永良部島にある広島大学の実験所を取り上げます。生物生産学部教授の具島健二氏へのインタビューをもとに坂本(事務局)が紹介します。


口永良部島実験所
(広島大学水産資源学研究室)

場所

 口永良部島は屋久島の北西約20kmにある小さな島で、人口は約150人です。気候は温暖で、冬場の水温は18℃を下回ることはありません。島の北側にある西浦湾が主な観察ポイントになっています。観察ポイントのすぐ近くには温泉があり(露天・混浴)、潜ったあとには、すぐに温泉に浸かることができますので、寒い時期にはとってもありがたいそうです。


青色の線は、フェリーの航路を示します。

概要

 この実験所では1970年から具島先生をはじめとする方々によって、魚類の行動、生態に関する研究が行われています。広島大学の実験所といっても大学の施設ではなく、研究室で民家を一軒借り、そこを実験所として使用しています。初めて来られた方は、その建物を見てビックリされるそうです。建物は昔ながらの木造住宅で、中央に、ふすまで十字に仕切られた4つの部屋があり、その両脇には縁側があって、台所の横には土間があります。風呂は五右衛門風呂です。ここで、共同生活(自炊・薪割り)をしながら研究をするわけですが、新しく入って来た学生さんにとっては、ここでの生活に慣れることが最初の仕事のようです。フィールド・ワーカーには、逞しい生活能力が求められるということでしょうか。

研究内容について

 30年以上前、最初に口永良部島の海に潜られたときには、魚の種類の豊富さと、数の多さに驚かれたそうです。そこで、まず魚類相の調査を始められたそうですが、大変苦労されたようです。というのは、当時は今とは違い、きれいな写真がたくさん載っている図鑑などはなく、いちいち学術文献を取り寄せて自分で調べなくてはいけなかったからです。


約25年前の西浦湾

 そんな豊かな海の中で出会ったのが、ブダイ科、ニザダイ科、アイゴ科、ベラ科、ヒメジ科等の魚がいっしょに群れをつくり(混群)、ゆっくりと移動しながら餌を食べている様子でした。そして、その群れが自分のなわばりに近づいてくると、かかんにも攻撃をしかけているスズメダイ類の姿でした。この様子に関心を持たれた具島先生は、それぞれの魚がどんなものを餌としているのかについて調査を行い、その結果、これらの魚が、互いに競合および協調関係を持ちつつ共存していることを突きとめられました。


混群の様子

 その後も多くの学生とともに、この島に生息している魚が、どんな餌を、どんな風に食べているのかについて調査を続けてこられました。調査対象魚はブダイ科、ニザダイ科、アイゴ科、ベラ科、ヒメジ科、スズメダイ科をはじめ、アジ科、ハタ科といった大型の魚種をも含め膨大な数にのぼるそうです。

 近年では繁殖生態に関する研究も増えており、ヤマブキベラやカノコベラなどのベラ科魚類をはじめ、テングヘビギンポやクロマスクといったヘビギンポ科魚類など、多くの魚種について調べられています。

 それでは、ここからは、現在、口永良部島で調査を行っておられる方々の研究テーマをご紹介しましょう。

「口永良部島におけるアオヤガラ及びヘラヤガラの採餌生態」
竹内直子


アオヤガラ(Fistularia commersonii

 アオヤガラとヘラヤガラがどのように餌を食べているのかについて研究されています。ともにユニークな形をしていますが、餌の捕り方もそれぞれユニークで興味深いそうです。また、餌の捕り方には様々なテクニックがあって、その場の条件によって使い分けるそうです。苦労される点は、両種とも行動範囲が広いので、同じ個体を継続して観察することが難しいことのようです。


「ヨダレカケAndamia tetradactyla(イソギンポ科)の繁殖戦略に関する研究」 清水則雄

 NHKの生きもの地球紀行でも取り上げられたので、ご存じの方も多いかと思います。ヨダレカケという魚、魚であるにも関わらす、陸上で産卵、卵の保護をするという変わった魚です。清水さんはこの魚の生活様式や繁殖様式に興味を持っておられるそうです。この魚、岩の上をはねるようにして移動するので、口永良部島では、チャッパンコと呼ばれているそうです。


「トビギンポLimnichthys fasciatusの摂餌と繁殖生態」高柳茂暢



トビギンポ(Limnichthys fasciatus

 トビギンポの姿を海でご覧になったことはありますか。体長は数センチ、目立たない体色をしています。普段は砂の中に体を沈め、頭だけを出しているので、なかなか見つけづらい魚です。高柳さんはふとしたきっかけで、この地味な魚を見つけだし、研究テーマに選んだそうです。卒論では、本種がどのように餌を食べているのかについて研究し、今はそれに加えて繁殖生態についても研究中だそうです。


「ソメワケベラLabroides bicolorの繁殖行動と摂餌行動に関する研究」塚村慶子

 ソメワケベラはホンソメワケベラと同様、掃除魚として有名ですが、その生態に関する研究例は非常に少なく、わかっていないことが多いそうです。というのも、あまりたくさん見かける魚ではないし、広い範囲を泳ぎ回るので、観察が大変なのだそうです。幸い、口永良部島には多く生息しているそうですが、移動範囲が広いので、観察のために追っかけまわすのに苦労されているようです。頑張って下さい。


交通と宿泊

 鹿児島港から屋久島まではフェリーで約4時間(ただし高速船あり)、屋久島から口永良部島まではフェリーで1時間40分(1日1便)かかります。なお、鹿児島ー屋久島間は飛行機で行くこともできます。

 島には民宿が6件とユース・ホステルが1件あります。ダイヴィングショップが無いので、タンクは屋久島からレンタルすることになります(船賃込みで1本2千円)。


リンク

広島大学水産資源学研究室のホームページ


事務局より

 余吾は大学院生のころ、何度か調査のために伺ったことがあります。写真はその当時に撮影したものです。また、広島大学の練習船に乗ってトカラ列島に向かう途中、立ち寄ったこともあります。
 坂本は、昨年までの8年間、ここでヘビギンポ科魚類の調査を行っていました。成果については現在とりまとめ中です。
 今回の記事作成にあたり、具島健二教授をはじめ多くの皆様方には大変お世話になりました。ここにお礼申し上げます。

ご感想をお待ちしております。
info@aunj.org まで。

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