5.クマノミの地方変異 12/17/04
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Moyer, J. T. 1976. Gerological variation and social dominance
in Japanese populations of the anemonefish Amphiprion clarkii.
Japan. Jour. Ichthyol., 23(1):12-22.
モイヤーさんは、八重山型、沖縄型、小笠原型、日本型(九州、四国、本州太平洋岸、伊豆諸島)の4つに分けています。イソギンチャクの学名が何度も変更されているので、ややこしいです。誤りがある場合はご指摘下さい。
先ず、Moyer (1976) より、八重山型と沖縄型を紹介してみましょう。特に但し書きが無い場合は成熟した雌雄の色彩・斑紋を記述していると考えて下さい。
八重山諸島(A〜C)と沖縄本島(D〜F)のクマノミの雌雄
Moyer (1976) より一部改変して掲載
【八重山型】
背鰭は灰色か黒色、あるいはそれが混じっている。
オスの尾鰭の方がオレンジ色の縁取りがはっきりする傾向があるが、雌雄の色彩の差はあまりはっきりとしない。オレンジ色の縁取りのあるメスもいるし、乳白色のオスも認められた。八重山ではクマノミは余り多いとは言えないし、宿主イソギンチャクも孤立している。
主にシライトイソギンチャク Heteractis crispa を宿主としているが、イボハタゴイソギンチャク
Stoichactis haddoni、Radianthus gelam ?、コークスクリューテンタクル・シーアネモネ
Macrodactyla doreensis 等にも入っている。幼魚はジュズダマイソギンチャク Heteractis
aurora にも入る。
【沖縄型】
これらは宮古島から奄美大島まで分布している。
腹鰭と尻鰭はオレンジ色か黒色、あるいはオレンジ色と黒色とが混じったものが居る。背鰭は黒色か灰色であるが、オレンジ色のものも時々居る。胸鰭はオレンジ色であるが、イボハタゴイソギンチャクに入っている個体だけは暗い灰色、あるいは薄い黄色である。
雌雄の差は尾鰭ではっきりしている。オスは乳白色で、オレンジ色で縁取られる。
その幅には個体差があるが、大体、1〜2ミリの幅である。全体がオレンジ色のオス成魚は見たことがない。メスの尾鰭は全体が乳白色である。
大抵シライトイソギンチャクを宿主としているが、イボハタゴイソギンチャク、M. doreensis、Radianthus
gelam ?等にも入っている。宿主密度の高い場所では、繁殖ペアが8〜10 m もの近くに隣り住む場合も観察される。幼魚はジュズダマイソギンチャクにも入る。
三宅島の雌雄(G〜H)、沖縄の黒化型(K)、小笠原の雌雄(L)
Moyer (1976) より一部改変して掲載
【日本型】
九州、四国、本州太平洋岸、伊豆諸島に生息する。沖縄型と似るが、体が大きく、横帯の幅が狭く、背鰭、尻鰭、胸鰭の軟条数が多い。サンゴイソギンチャクのコロニー内に複数の成魚が住む場合がある。このようなコロニーの中で、最も優位のオスは尾鰭全体がオレンジ色(G)である。繁殖を開始しているメスの尾鰭は全体が乳白色であるが、尾鰭にオレンジ色の名残を残すものもみられる(I)。メスは高齢になるに従い、尾鰭が黒くなる(J)。さらに体全体が黒色から灰色に変化し、特にストレスを受けた場合にその傾向が強まり、このような体色になった個体は越冬できずに死に至る事が多い。複数の成魚が居るコロニーの第2位以下の雌雄は、沖縄型のオスとよく似た尾鰭をしている(7−2も参照)。このようなコロニーの中で各個体の性と順位は複雑で、混乱する人も多い。
背鰭は例外なく黒い。沖縄と同様に、イボハタゴイソギンチャクに入っている個体は黒化しているが、尾鰭の色はオスがオレンジ、メスは乳白色である。三宅島ではサンゴイソギンチャクが代表的な宿主であるが、稀にイボハタゴイソギンチャクで繁殖している場合も観察された。この他、三宅島ではデリケート・シーアネモネとコークスクリュー・シーアネモネが幼魚の宿主となっていた。
【小笠原型】
白い横帯、乳白色の尾鰭、淡い黄色の胸鰭以外は真っ黒であり、雌雄差がない。幼魚はくすんだオレンジ色で他の場所の幼魚とは明らかに異なる。
小笠原での宿主イソギンチャクは種が不明である(原文では Radianthus の1種としていますが、現在も不明かどうか調べています)。当地ではこのイソギンチャクの個体数が少なく、クマノミも少ない。通常、一つのイソギンチャクに1ペアと8〜10尾の幼魚が暮らしている。
最後に総合の考察を紹介します。
備考
・Radianthus gelam は、どのようなイソギンチャクか不明です。現在は用いられていない学名ですので、何かと混同されたのだと思います。
・揺りかごイソギンチャク(nursery anemones)
ジュズダマイソギンチャク Heteractis aurora と デリケート・シーアネモネ
H. malu に成熟したペアが入っていることは滅多にない。おそらく、あるサイズまではクマノミは共生し、成長することができるが、大きなグループの同居は何かの理由で不適なのだろう。それで揺りかごイソギンチャクと呼んでいる。また、一時的な住み場として利用されているのかも知れない。
・黒化現象
クマノミの通常オレンジ色の部分が黒ずむ現象が知られている。この黒化現象には、3つのタイプがある。成長に伴い段々に黒くなるもの。ある孤立した特定の水域(例:小笠原)の個体群が皆、黒いもの。特定のイソギンチャクに入ると黒くなるもの。
3番目の例は、イソギンチャクがクマノミに影響を与えている例である。オレンジフィン・アネモネフィッシュ A. chrysopterus
は アラビアハタゴイソギンチャク S. mertensii に 、トウアカクマノミ A. polynemus
は シライトイソギンチャク H. crispa に入っていると黒くなる。