AUNJ WORKSHOP−7

AUNJ冬のセミナーでの発表をこの場で
紹介し、皆さんの反応をまとめます。

7-1スズメダイ類とサンゴ、海藻 会員全体 12/08/06 開始
7-2:「背曲がりスジハナダイの成長」 平山 昌 工事中
7-3:「
ウマヅラハギがやってきた」 塚本ひとみ 工事中
7-4:「水中でのホンダワラ類の見分け方」 新井章吾・余吾 豊 工事中
7-5:「
ハレムのようだが、そうでない社会 門田 立・余吾 豊 
   12/09/06
7-6:「
性転換する魚達」 桑村哲生 12/11/06
7-7:「
行動のルール」 藪田慎司 12/11/06
7-8:「
セダカスズメダイのオスはクジャクの羽根を持つのか」 石田根吉 工事中
7-9:「
オキタナゴの出産に立ち会って」 塚本ひとみ 工事中
7-10:「西表島網取り湾におけるフタイロカエルウオ」 高木裕司 工事中

7-6, 7

7-6 「性転換する魚達:沖縄県瀬底島における研究史」 桑村哲生 12/11/06


原さんの質問に答える桑村さん。

1.『性転換する魚たち−サンゴ礁の海から−』(岩波新書)に書かれた研究史。

 1)ホンソメワケベラとの出会い
    桑村さんがどうして魚の研究を始めたのか?サルをしたかったのだけど・・・

 2)ホンソメワケベラグループのオスを取り除くと、どうなったか
    グループ内最大のメスはすぐさまオスの行動を取り始めた。しかし、オスを戻すと・・・

 3)性転換の2タイプ(メスからオスへ、オスからメスへ)
    メスからオスへ:雌性先熟(protogyny)ベラ類やヤッコ類などハレム型や縄張り訪問型
            の複婚の社会
    オスからメスへ:雄性先熟(protandry)クマノミ類、一夫一妻のランダム配偶の社会

 4)何故、性転換し、何故、その方向が異なるのか
    サイズ・アドバンテージ・モデルの紹介

 5)ダルマハゼの謎解きに挑戦。足かけ5年、謎解きに成功
    謎解きの苦労と面白さはどうだったか

 6)コバンハゼとオキナワベニハゼの双方向性転換
    一つ見つかると、次から次へ

 7)ホンソメワケベラの双方向性転換
    だれも考えなかったことも考えてみて、そして実証を試みること

 8)クマノミでの挫折
    実際には上手く行かないことも多い

2.『性転換する魚たち−サンゴ礁の海から−』の最後に触れた「新たな謎」とは、
 「ミツボシキュウセン一次雄の性転換」だったこと。

 1)瀬底島のサンゴの衰退とミツボシキュウセンの増加の理由
 2)どんな実験を試みたか。また、その難しさ
 3)飼育実験は現在も継続中であること

3.瀬底島・沖縄島・慶良間列島・八重山列島のサンゴ礁の現状にも少し触れた。

 1)公開臨海実習とは
 2)何故、ブダイの生態を調べ始めたのか
 3)サンゴ、海藻、藻食魚との関係

事務局より:とても分かりやすく、順序よくお話しされ、会場からため息のような感嘆の声が漏れていました。また、サンゴ、海藻、藻食魚の話は、新井さんのポスター発表とも良くリンクし、最近のクロソラスズメダイの話題とも関連してタイムリーな話題提供になったと思います。

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7-7 「行動のルール:社会交渉のつかまえ方」 藪田慎司 12/11/06


人形を使って熱演。

1 社会でのやりとりを理解するとはどういうことか

社会の中で,適切にふるまえること。ふるまい方を知っていること。

社会交渉を理解する = 適切にふるまえる(「演じられる」)

適切にふるまえるには知識が必要。そのような知識は,指示的なものであるだろう。

2 行動を記述する

行動の研究 → まず行動を記述しなきゃ

行動記述の2つの方法
1)構造による記述:「体を側面を他個体に向け,全てのヒレを広げる」等
2)結果による記述:「産卵する」「近づく」「巣を作る」「食べる」

さて,これは,実は「個体」の行動に関するおはなし。


社会交渉=2個体以上がかかわる行動,はどのように記述すれば良いのでしょう。
社会交渉の特徴:相手の行動に応じて,自分の行動を変える。=やりとりがある。
これ ↑ に注目
行動ルール(behavioral rule)による記述

3 行動ルールとは?

行動ルールとは,他個体の行動に対して,どのように反応するべきかを指示する条件付き命令文のこと。次のような形をとる(条件となるのは,相手の行動のみ)。

「相手がxしたら,自分はyを行え」

例えば
「右のほほを殴られたら,左のほほを出せ。」
「『もうかりまっか』と言われたら,『ぼちぼちでんな』と答えよ。」
「にっこり笑いかけられたら,笑い返しなさい。」
「追いかけられたら逃げなさい」
「相手がじゃんけんの手を出すのに合わせ,同時に自分も手を出しなさい」
「相手が石を1つ置いたら,自分の石を一つ置きなさい(囲碁で)」

これだけでは足りない,ルールには,そのルールが有効である範囲の記述が必要。
というわけで,
付帯条件/ただし書き(proviso)

付帯条件とは,どんな状況において,ルールに従うべきなのかを指定する条件付き命令文(条件となるのは,相手の行動以外)。

「状況Pの時,ルールに従え」

例えば

「自分のなわばりにいる時には,これらのルールに従え」(場所)
「友好的気分の時には,これらのルールに従え」(気分)
「その場から立ち去るつもりのないときは,これらのルールに従え」(意図)
「相手が仲間だったら,このルールに従え」(認知)

ある社会交渉の記述は,このようなルールと付帯条件で行う事が出来る。

ある社会交渉の記述:ルール+付帯条件(=ルールシステム)

例:ミスジチョウチョウウオが他個体と出会った時のルールシステム

ルール1:相手が接近してきたらディスプレイをせよ
ルール2:相手がディスプレイしたら自分もディスプレイをせよ
ルール3:相手が接近もディスプレイもしていない場合は攻撃せよ

付帯条件1:相手がパートナーでない時にこれらのルールに従え
付帯条件2:その場を立ち去るつもりの無い時に,これらのルールに従え

事務局より:パートナーであると言うことはどうやって認識するのでしょうか?

4 ルールと社会交渉の関係

行動ルールと社会交渉の関係は,

帰納/分解
行動ルール(局所ルール) ヒ 社会交渉(大局パターン))
演繹/再構

だから,
1) 社会交渉の推移や行動連鎖を分析し帰納することで,ルールを知ることができる。
2) 逆に,ルールから社会交渉の推移を再構成(演繹)できる。

特に後者は,その動物の「ふるまい」を真似できる/演じることができる,ということでもある。

やって(「演じて」)みましょう。


学芸会。ミスジになったつもり。余吾は良く理解できていなかった。

5 社会交渉の観察ポイントとルールの抽出

実際には,どんな点に注目して社会交渉を観察したらいいのでしょう。

社会交渉の観察のポイントとしては,次のことがあげられます。

ア) 参与者:誰と誰の間の社会交渉か
イ) 場所:どこで行われるのか
ウ) 始まり方:どのように始まるのか
エ) 結末:どのように終わるのか
オ) 行動パターン:交渉中にどのような特徴的行動パターンが用いられているのか
カ) 行動連鎖:どんな行動がどのようなタイミングや順番で現れるか
キ) その他

ここで注意したいのは,これらの観察ポイントにどのような順番で着目するか,です。

よく行われる観察の順番は,例えばこんな感じです。

ア) 参与者:オスとメス
イ) 行動パターン:オスが◯◯ディスプレイをする。
ウ) 結末:しばしば,産卵が行われる

このような観察の結果,この◯◯ディスプレイは「求愛ディスプレイである」などと判断されたりします。しかし,この場合は,観察範囲をオスとメスの社会交渉に限定しまっているかもしれません。行動自体に着目し,広く素直に眺めるなら,このディスプレイがオス同士やメス同士でも使われていることが観察されることがあるかもしれません。

そこで,行動パターン自体への注目を出発点にすることが重要になります。また,それは行動ルールを抽出するための順番でもあります。

行動パターンから始まる観察
行動パターン

参与者  始まり方  結末  行動連鎖

ミスジチョウチョウウオに関しては,次のような順番で観察をしていきました。

ア) 行動パターン: テイルアップディスプレイ
イ) 参与者1: オスもメスも行う
ウ) 参与者2: A. ペア外交渉で(なわばりの持ち主と侵入者)
B. ペア内交渉で(パートナー同士)
エ) 結末:A一方が逃げて終わる,Bいっしょに泳ぐ/居る
オ) 始まり方:A,Bどちらの場合も一方が接近して始まる
カ) 行動連鎖/交渉推移:ペア外交渉について以下の観察
@ ディスプレイに対する反応として,逃げる,ことがある。
A ディスプレイに対して,ディスプレイで応えることもある
B 先にディスプレイを止めた個体は,逃げる。
C 攻撃はディスプレイしていない個体に対して行われる。
キ) その他:パートナー間でも攻撃が行われ,それもディスプレイしていない個体に対して

6 行動の命名について

行動の機能(意義*)にかかわる命名は慎重に (「威嚇」「求愛」「なだめ」等)
外見による命名が望ましい (T字ホバリング,ラテラルディスプレイ等)

*余吾が補足

7 擬人化について

擬人化は,以前ほどタブー視されておらず,特に仮説を生み出す方法としては有効だと思われる。ただし,擬人化によって結論を出すのは間違い。

擬人化はスタートでありえるが,ゴールにはならない。

人間と「違う」ことを前提に,「同じ」点を探すか,
人間と「同じ」ことを前提に,「違う」点を探すか。
(同じと思ったら違いを,違うと思ったら同じを)
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事務局より:ミスジチョウチョウウオ、カメ、カジカ(両生類)、ゾウアザラシ、カモメなどの具体例を引きながら、一つ一つ、行動の読み解き方を紹介して下さりました。一部には何度か見直さないと、捕まえにくい部分もあったでしょう。僕は既に2度、DVDを見直しました。これは理解にとても役立ちます。「演じてみよう」で、藪田と余吾の学芸会「ミスジチョウチョウの挨拶」が録画されています。小学生に戻ったような気分でした。